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2025/05/14 (Wed)

『週末探偵』

住宅街に置かれた貨物列車の車掌車で、週末だけの探偵事務所を始めた男2人が、ささやかだけど不思議な謎を解く話。

うーん、おもしろくなかったわけではないのだけれども、期待していたものではなかったという感じです。
私は『夜の床屋』読んで何が一番おもしろかったかって、謎の不思議さ綺麗さももちろんだけど、そこから真相への飛躍の大きさだったんですよね。なんかいきなりファンタジーになったりとか。
だから、そういうのを期待していた。
でもこの『週末探偵』は、そこの部分がなくなって、よくある普通の日常の謎連作短編集みたいだった。
よくある普通の日常の謎短編集、別に悪くはないしある程度はおもしろいのだけれども、私がこの作者で読みたかったのはそこの部分ではなかったです。


普段は会社員をしていて、週末だけ探偵事務所を開く。しかも本業の妨げにならないよう、扱う謎は緊急性がなく犯罪に関わらない、些細だけれど魅力的な謎に限る。という設定はおもしろいなと思いました。
探偵が解くのが日常の謎であることを、ある意味で合理化している。もちろん、解いたら犯罪につながったということもある。
2人が探偵事務所にしている鉄道車輌だって、なんでそんなところにあるのか……ってのが「最初の事件」なのですが、実際に謎はとてもおもしろいんですよね。
現実と地続きのようで、少しだけ浮遊しているくらいの、気にしはじめると気になってしまうような、謎の「ささやかさ」のバランスが絶妙です。

ただ、謎だけを取り出したら不思議な状況なのだけれども、付随する説明を読んでいたらわりと「こういう方向性の話なのかな」という予想ができて、そしてそれはそんなには大きく外れない。
解けて嬉しいというよりも、もっとひねりがほしかった!ってなります。
特に帽子とか蝉の話でそう感じました。

謎の魅力でいうと、「桜水の謎」が好きです。
川を桜の花びらが流れていく、けれどもその川の上流には桜の木は1本もないはず――。
この短編は、真相に着地するまでの距離も比較的大きくて、その点も好きです。
短編集の中で一番、「いやいやまさか」って思う真相。

短編の中では他に「探偵たちの雪遊び」も好きなのですが、こっちは謎がない話です。倒叙っぽいとはいえ別にミステリをしていない話なんですよね。ただ雪遊びしているだけ。だから好きなのは、視点人物の少年に寄り添う気持ちになるからかもしれません。

探偵が2人いるのだから、キャラクター重視のバディものっぽい話になるのだろうかと思ってたら、全然そんなこともなかったですね。
探偵たちと周りの人々・依頼人という軸では、人間関係も描かれていたのですが、探偵同士の関係性は無に近かった。お互いがお互いをどう思っているかということが、特に何もなかった。べつに、BLとかブロマンスとかそういうのでもなく。
っていうか、探偵2人のキャラの書き分けを特に感じられなかった。
探偵が2人いるのは、たとえば議論したり勝負したりで、探偵役が1人の場合より試行錯誤する部分を不自然ではなくスピーディにするためなのかとは思ったのだけれども。そこで、どちらがどういう推理をしがちみたいなキャラ付けがあったらよかったのかな。


最後の2編は、そこまで「事件」にならなくてもよかったかなと思ってしまった。それよりも、ささやかで、不思議で、美しい謎をもっといろいろ読んでみたかった。
十五夜の猫ちゃんも、気になります。

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『火星年代記』

すごく良かったです!
ブラッドベリは『華氏451度』だけ読んだことがあって、それはそこまで合わなかったんだけれども、『火星年代記』はすごく好きです。
なんだろう、「おもしろかった」というよりも「良い」とか「好き」という言葉で語りたい。
短編をひとつ読み終わって「すごく良いなぁ」という余韻にひたりながら次の短編を読むと、そっちも同じくらいに素敵、ってのが続いていく一冊でした。

あらすじはうまく説明できないんだけれども、1999年の冬から始まる、人類の火星への植民の物語。それぞれ独立した短編が断片となって、緩やかにひとつの長編を織りなしている。
はじめの頃、地球人の探検隊は火星人にほろぼされた。それでも地球人は何度も挑戦し、ついには火星を植民地とした。火星には地球の社会そのものが持ち込まれた。一方、地球では核戦争が始まった……。
みたいな感じ。

SF小説で、詩的な文章や幻想があるから小説として完成しているけれども、この作品で一番大事なのって文明批判なんですよね。
火星への植民の話だけれども、そこで起きていることは結局、地球上で現実に起きていたことを映したものにすぎないというか。
すべての描写は、物語は、現実の社会への警句になっている。
そういうところが良い、もっとこの問題について考えなくてはと感じる反面、小説が手段でしかないようにも思えてしまって、少しがっかりしてしまう。

批判されている文明や社会は、1950年に書かれた頃の予想しうる最悪の未来のひとつなんだろうと思いますが、作中の未来の年代を越えた今でも、状況は良くなっていなくて、むしろ後戻りしているんではないかというところがあり、このままでいいのか、と思う。
でも確実に当時よりも改善されているところはあるはずだから、どうか、この結末のような未来が現実には来ないように、我々はしていかなければならない。
核戦争による世界の終焉や、科学技術の進みに倫理や精神が追いついていない人類なんていうモチーフは使い古されたものだし、現在ではリアリティも薄くなっていると思うんですよね。冷戦時代なんかに比べたら。
でも、そういったことはかたちを変えて現在の現実社会にもあるんだろう。
SFの描く未来って、現実を反映していることが多いのではないかと思っているので、たとえば現代作家が『火星年代記』を書いたら、こういう風にはならないんだろうなぁ。


各短編について。

「空のあなたの道へ」はアメリカの黒人差別ってこんなに……なんていうか、根付いていたものなのかと吃驚した。勉強も想像力も不足していて恥ずかしいのだけれども、情報としては知っていても、実感としては知らなかったというか。戦後になってもこういうものが書かれる前提になるほどだったのか。

普通に好きな短編は「第三探検隊」「夜の邂逅」あたりです。
「第三探検隊」はブラックな感じでおもしろいし、「夜の邂逅」は二つの時間が交差する話なのだけれども神秘的で美しくて、ブラッドベリの文体と調和していて好き。
「地球の人々」も、星新一のショートショートにありそうな感じで、おもしろかったです。
短編の時代が下るにしたがってだんだん文明批判の色が強くなっていくので、純粋に好きとかおもしろいだけではなくて、少し読んでいて苦しくなっていくので、おおむね中盤ぐらいまでの短編の方が好きでした。
物語全体としては、後半も良いのですが。

「第二のアッシャー邸」は、もうちょっとポーを読んでいたらもっと楽しめたんだろうな。大ザルに殺されて煙突に突っ込まれたところとかは、わかったので笑えた。
あとこの世界でも焚書があったのか、と。
この作家の場合、そのモチーフを好んでいたというよりも、おそれていたのかなあと思います。なんとなく。私も嫌だ。

好きとは言い切れないのだけれども、どうしても心に残るのが「月は今でも明るいが」
個々の短編ではなくて『火星年代記』全体としてもこれが要というか、キーになっている気がします。
私自身、歴史と物語が好きだからスペンダーの考えに共感する。けれども、そのやり方には賛同できない。もう二度と元には戻せないものを壊すという点では、文化財の破壊も殺人も同じだから。
短編小説としても、作者の主張がつよすぎて少し身構えてしまうので、好きとは言い切れない。

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『黒いハンカチ』

A女学院に勤めるニシ・アズマ先生を探偵役にした連作推理短編集。
連作短編だけれども一作一作はごく短いし、どこから読んでもよさそうな感じです。
日常の謎っぽい雰囲気なんだけど、殺人とか盗難とか普通に警察沙汰の事件が起こる。

おもしろかった。
北村薫が何かで紹介していたという話を聞いたのだけれども、ベッキーさんシリーズに通じる上品さがある気がします。連載されていたのが昭和30年代らしいですし、作中の時間もたぶん戦後で発表時期とそんなに変わらないだろうから、設定とかはだいぶ違うんですが。

ニシ・アズマ以下、登場人物が全員カタカナ表記なのが気になる。本名でないだろう呼び名の人もいたし、匿名性ということなのかしら。
実際、名前はどうでもいいような話ですしね。
主人公のニシ・アズマと同僚の鶯と院長先生ぐらいはいくつかの話に通じて出てくるけど、その人たち含めても記号でしかない。
というかたぶん、古い作品だし、キャラクターに興味ないんだろうと思います。一方で、ニシ・アズマの小柄で愛嬌がある顔をした見た目とか、推理をするときには似合っていない赤縁のロイド眼鏡かけたりとか、そういうひとつひとつの要素はうまく使えば魅力的なキャラクターものにできそうで、でも当時は(という話なのかしら)そういう観念はないんだろうなあ。

それと似たような話なんだけれども。
短い話だということもあって、犯人の動機が全く語られないのがちょっとだけフラストレーションでした。
愛憎という意味での動機はまあどうでもいいんだけれども、なぜ犯人がそういうかたちで犯行を行ったかというところは何かしらのエクスキューズがほしかった。
だって表題作の「黒いハンカチ」も、あの人は何者かが気になってしょうがない。
「蛇」は珍しく動機がどっちの意味でも説明されていたけれども、その推理が本当かは明らかになっていないわけで。

この作品集の主眼が「探偵はどのように真相に気づいたか」というところに置かれているから、動機だの犯人の人となりだのが描かれないんだろうと思います。
どのように、といってもニシ・アズマが鋭い観察眼をもっているからといったことになるのだけど。そしてタイトルになっているものがだいたい一番の手がかりになるアイテムなのですが、だからといって展開がわからないのがすごい。
着眼点に関しては「時計」が一番好きです。びっくりしたし、納得した。

ただ、単調なのでずっと読んでるとちょっと飽きてきてしまいますね……。

これはどうでもいいことなんですが、主人公が教師のわりには生徒が特に出てこないし事件とも関係しないのが不思議な感じがしました。
雑誌の読者層が成人女性だからとか、当時としては女性の職業で知的なものは教師ぐらいだったとか、そういう理由なのかしら。
っていうかニシ家ってたぶんそれなりにいい家ですよね。アズマも働いてはいるけど、お金に困ってなさそうだし友達も裕福そうで、上流階級って感じ。ほんとうの貴族というよりは実業家とか知識人とかそういう系の。
だからベッキーさん思い出したのかも。

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『天地明察』

江戸時代に改暦を成し遂げた、渋川春海の物語。
関孝和との交流と、家の仕事である碁と、生涯を掛けた歴術と、そして恋。
この小説は改暦の話ではなく、貞享暦を作った渋川春海の人生を描いた小説なんだ、と思いました。

読んだ感じは思っていたよりも、あっさり風味だった。
だからこそエンタメとしておもしろく読めるものになっているのかもしれない。
和算も、歴術も、技術的な話を詳しくしていたらたぶん難しくて読めないのではないかと思われるので。でももうちょっとその辺の説明や解説がほしかったかな。分かりにくかったというよりも、読み応えという意味で。

文庫版で読んだので上下巻分冊だったわけなのですが、下巻の半分ぐらいになっても暦造りが軌道に乗らなくて、このページ数で足りるのか不安になった。
その後も期待したほど暦造りをしていたわけでもなく……。
主題のはずなのに、それ自体があまり描かれていない気がして、少し肩透かしをくらった気分。
むしろ後半は特に、それに伴う政治的根回しがメインだったように思いました。
そういうのの方が有名人絡んでおもしろいし、元ネタとなる史料も残ってそうだから、書きやすいのかもしれない。

ラストシーンは大河ドラマみたいだった。というよりも、こういう史実とフィクションの融合させ具合が全体的に大河ドラマっぽいのかもしれない。


そもそも、やっぱり私は時代小説苦手だと改めて感じた。この本はそこまででもなかったけど、それでも地の文のメタさが気になってしまう。
現代に生きる我々には馴染みのない世界の物語なんだから、ある程度は地の文での背景説明はある方がありがたいんだけれども、登場人物の知りえない、その後の事情や西洋の話なんかを入れられると、うわぁって思う。
完全に神視点の記述が嫌なのかなぁ。
とはいえ、水戸と会津の気質の違いについて、幕末を想起させる表現をしていたところは良かった。

あと、この辺の記述は何か史料に基づいてるのかな? みたいな想像をしながら読んでいたのは楽しかったです。合っているかは分からないけど。

エンタメだなぁとも思ったのは、キャラクターがとても魅力的だったから。
道策がかわいくて好きです。実際はともかく、才気に溢れた若い男の子で、主人公を慕っているというのが、キャラとしてとても完成されている。
それから、建部と伊藤とのシーンは胸が熱くなった。天地明察という言葉の意味が沁みる。
歴史に残る大事業は人との関わりがあったから成し遂げられたんだ、というのはよくある物語の定型だけど、ちゃんとやってはまるととおもしろいものなんですよね。
だからこそ定型になるんでしょう。

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『うさぎ強盗には死んでもらう』

先輩のデビュー作なので、読んでみました。
書いていた内容が消えてしまって感想を書く気力が失せたので若干軽めに。

あらすじを公式サイトより引用。
京都左京区のマンション。空き巣に入った泥棒カップルは、痴話ゲンカ真っ最中だった。
その向かいのオフィスビル屋上。青年は潜入した人身売買組織に、殺人を強要されていた。
悪鬼蔓延る上海の外灘地区。最強の殺し屋は、今まさに亡き師匠の敵を追い詰めていた。
そこから1200kmの広東省。田舎町のパブで、かつて少年は23回目のチェックメイトを宣言した。
――伝説の賭博師“うさぎ強盗”が彼らの物語を繋ぐとき、驚愕のエンディングが訪れる! 


正直にいうと、読みながらはじめに抱いた感想は、悔しい!でした。
知り合いが作家デビューするの見るの初めてなので、なんていうか私も頑張らないとみたいな。

そういう風に思うくらいには、おもしろかったです。
特に会話の応酬が読んでて楽しい。
途中から、作者さんの声で再生されてしまって、あっ……ってなったけど(笑)
台詞から構築されるキャラクターも魅力的で。樹里かわいい。
ところで何故うちのサークルの人たちは知り合いの名前を使うんだろう。

殺し屋や裏社会の設定(キャラクターではなく設定)が伊坂の殺し屋さんたちっぽいなと思ったり。グラスホッパーとかマリアビートルとかあの辺の。
名前のつけ方とかね。
椿は実は桃って名前で情報屋やってない?
カクヨム版を先に読んでいた知人によると、「伊坂と西尾と成田良悟を足して4で割った感じ」らしいので、私はその中では伊坂しかよく知らないからその要素だけがクローズアップされて見えたんだろうと思うのですが。

群像劇的な話運びで、現在と過去の話が交互に書かれるので、ミステリーと銘打たれてもいるし読者としては当然入れ替わりを疑う。殺し屋は通名だし、うさぎ強盗も本名ではないので、そうなると同じ名前だけど中身は別の人とか、同一人物が別の名前で呼ばれているとか、よくあるパターンですよね。
実際に読み進めていくと、“うさぎ強盗”は何か、“黒崎雅也”とは何者か、という問いが読者の目の前に提示される。
読んでいるうちに見え方が二転三転していくんですが、おもしろいけどそこがどうにも分かりにくい。
驚きと納得が同時にはやって来ないというか、まず驚いて、それから考えて納得させて、でも考えたことが正しいかどうかよく分からなくて若干もやっとしました。
分かりにくいのは細切れに読んでいたからかもしれない。
うさぎ強盗や他のキャラクターの行動の理由もあまりよくわからなかったです。そもそもどうして、というところが。読み飛ばしてたのかも。
エピローグでの伏線回収は好きでした。


あと装幀とデザインが好きです。扉絵がスタイリッシュで素敵だし、Web情報の見せ方が興味深い。
メッセージは吹き出し位置が送り手と受け手で異なる方がそれっぽいかもなと思ったけど。
もとが横書きのWeb小説だからこういう発想があるのかなとも思ったり。書くことって媒体によって左右されるのではないかと思っている。

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