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2024/04/27 (Sat)

『熱帯』

――この本は、真の意味での魔術的書物である。
謎の書物『熱帯』をめぐる物語。


まず冒頭から、文体だけで楽しい気分になった。
千夜一夜物語、海洋冒険譚(ロビンソン・クルーソーや海底二万マイル)、京都の三題噺みたいな印象でした。

千夜一夜物語をモチーフにしているので、この本自体も作中作、作中作中作、作中作中作中作……が組み込まれて、無限に続くマトリョーシカや、エッシャーの騙し絵のような読み心地。
構造だけでなく文章も、意図的なコピー&ペーストや、同じ風景が別のところで繰り返し語られたり、という感じでその読み心地を強化しているように感じました。
とりあえず千夜一夜物語をちゃんと読みたいです。


自分の整理を含めて概略をまとめます。
ネタバレになります。

・第1章 枠物語
原稿に追われる作家「森見登美彦」(森見登美彦が冒頭の語り手であることにまず驚いた!)がかつて学生の頃に読んだ『熱帯』という小説を思い出す。途中まで読んだところで紛失してしまい、その後は調べても手がかりはその本についてのつかめなかった。
ある日彼は友人に誘われ、「沈黙読書会」に参加する。謎がある本について語るその会で、彼は『熱帯』を持っている女性と出会う。彼女=白石さんは、「この本は最後まで読むことができない」と言い、『熱帯』の謎を語り始める。

・第2章 白石さんの語り(第一の作中作)
白石さんは職場で池内さんという男性と出会い、あるときかつて読んだ『熱帯』の話になる。
白石さんは池内さんに誘われ、熱帯を読んだことのある仲間たちとの読書会「学団」に参加し、小説の内容を再現する「サルベージ作業」を行う。彼女が参加したことにより「満月の魔女」というキーワードが現れ、「学団」のメンバーの千夜さんが退団する。残された「学団」メンバーたちは『熱帯』に憑りつかれたようになり、池内さんが千夜さんを追って京都に向かう。ところが、池内さんも京都で消息を絶ってしまい、白石さんのもとに彼のノートが届く。

・第3章 池内さんの手記(第一の作中作の作中作=第二の作中作)
池内さんは京都で千夜さんの足取りを追う。千夜さんは学生時代に『熱帯』の作者である佐山尚一と過ごしたことがあり、それは、かつて節分祭の夜に消えたという佐山尚一を追う道のりでもあった。吉田山中の移動式古書店「暴夜書房」、一乗寺の古道具屋「芳蓮堂」、先斗町の酒場「夜の翼」、進々堂。道中で様々な人に会い、千夜さんや佐山尚一にまつわる話を聞く(第二の作中作の中の作中作)。京都市美術館に飾られた「満月の魔女」の前で不思議な白昼夢をみる。千夜さんや佐山尚一の知己の今西氏は学生時代に彼らと過ごした話、そして千夜さんの父「魔王」栄造氏と「満月の魔女」の話を語る(第二の作中作の作中作とその作中作)
芳蓮堂にあったカードボックスが池内さんの行動を予言していた。
「私たちは『熱帯』の中にいる」
池内さんはカードに書かれた最後の行動を再現しようとする。千夜さんが消えた「千夜一夜物語」を集めた図書室に入る。
そして、池内さんはノートの白紙の頁に『熱帯』冒頭の文言を記す。

・第4章・第5章 『熱帯』(意味合い的には第二の作中作の作中作だと思うが…)
記憶を失った若者が南洋にある孤島の浜辺に流れつく。若者は「佐山尚一」と名乗る男に出会い、「ネモ」という名前で呼ばれる。密林の中に佇む観測所、不可視の群島、〈創造の魔術〉によって海域を支配する魔王、その魔術の秘密を狙う「学団の男」、砲台の島と地下室の囚人、海を渡って図書室へ通う魔王の娘、魔王との対面、北方への島流し。
海賊シンドバッド。サルベージ。古道具屋とその娘との出会い。京都的な群島。主人公の〈創造の魔術〉。海賊の襲撃。「満月の魔女」に会いに行く。五山の海域と蝋燭の島。砂漠の宮殿。吉田神社の節分祭。
「魔王」永瀬栄造との再会。カードボックスに入ったひとつの『物語』。それを手に入れた話(無限に続く入れ子構造)。始原のシャハラザード。「物語ることによって汝自らを救え」。再び観測所の島。手記を書く。永瀬栄造との京都での出来事の回想。節分祭の夜。虎の佐山尚一との対話。「それでは君を『熱帯』と名づける」

・後記(第4章・第5章の『熱帯』と同じメタレベルだと思うが、ここではこれが最上位のメタレベルになっている)
『熱帯』の誕生から36年後の佐山尚一の手記。千夜一夜物語の失われた一挿話。
 回想・節分祭の後の日々。
今西君と千夜さんとともに「沈黙読書会」へ。
 回想・栄造氏との対話。『千一夜』の魔術。
池内さんと白石さん。沈黙読書会で紹介される『熱帯』。
かくして彼女は語り始め、ここに『熱帯』の門は開く。


作中作が終わってもとの世界に戻ることを期待して読んでいるのに、決して戻ることなく進み続けて終わった(終わらない)ので、あの人たちはどうなったの?って思ってしまった。
彼らもまた生きたいと願ったと思うので、その行方が宙ぶらりんのままなのが落ち着かなかった。

「あなた方が生きたいと願うように、私たちもまた生きたいと願うのです」
という言葉は、私は最初に読んだときに物語の登場人物の人生の話だと思ったのです。「グラン・ヴァカンス」のような。
つまり、物語が語られ、読まれ続ける限り彼ら彼女たちは生き続けることができるという。
でも、そう語ったのがシャハラザードであることを考えると違ったとらえ方もできるのだと気づいたとき、小さな雷くらいの衝撃に撃たれました。
生き延びたいと願うシャハラザードが人々に物語を語らせ続けたという主客の逆転、ちょっと怖くないですか?

第4章、第5章を読んでいるときに感じていたのは、「この文章の書き手は誰なんだろう」ということでした。
佐山尚一なんだけれども、佐山尚一ではこのことは知りえないのではないかと思ったところがあって。
いやまあそれは最後の見開きで回収されるっちゃされるんですけど。ってことだと思っているんだけどどうですかね。
登場人物の多くが主人公自身の別の姿であるのが、なんとなく純分学の作品っぽいなと思いました。イメージは村上春樹(1冊しか読んだことないけど)。

群島と化した京都は読んでて楽しかった。
京大生の京都って京都のほんの一部なんだけど、群島なのでそのほんの一部の寄せ集めしかなくても許される感じ。ないのか、見えていないのか、わからないままで。

かっこいい文章がいくつかあったので引用。
「まだ終わってない物語を人生と呼んでいるだけなのだ」
「何もないってことは何でもあるということだ」
「世界の中心には謎がある」

カバー袖に書かれた「この世界のすべてが伏線なんです」という言葉は、すごくわくわくしたのだけれども、読み終えてみるとこの世界は私のいる世界とメタレベルが違うことに気づいてしまったので、なんとなく魔法が解けた感じがしてしまった。

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