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2024/04/27 (Sat)

『ブラックアウト』『オール・クリア』

コニー・ウィリスのオックスフォード大学史学部シリーズの作品。
3人の史学生がそれぞれに第二次世界大戦中のイギリスへの現地調査に行くものの、なぜか元の時代に戻れなくなり……。というお話。

『ドゥームズデイ・ブック』も黒死病&未知の感染症パンデミックだし、暗かったのだけれども、それ以上に読んでいて重かった。長いし。
会えそうで会えないすれ違いとかを楽しむにはシリアスで。
『ブラックアウト』の中盤で3人がそれぞれに投げかけられる「最後はなにもかもうまくいく」という言葉が、読者である私にとっても希望をつなぐ糸のようで、その糸を手に持ちながら辿りながら物語の先に進んでいった感じでした。ハッピーエンドになるだろうと思っていても、確信がないとあまりに重く、途中で投げ出してしまったかもしれない。
『オール・クリア』を最後まで読み終わっても、犠牲を考えてしまって百パーセント幸せな読後感ではなかったのですけれども。
これに比べたら、ヴィクトリア朝での花瓶探しってものすごく平和だったなと遠い目になる。

小説に限らず、いろんなものには出会うタイミングというものがあると思うのですが、私は今この小説を読めてよかった。
2020年4月現在、新型コロナウィルス感染症対策のために緊急事態宣言が出されていて、外出自粛が呼びかけられ、普段通りの生活はできず、いつ自分や周りの人が感染するかわからないという不安におそわれそうになる。
そんな今だから、空襲下のロンドンに生きる人たちの描写が響くところがいくつもありました。
たとえば、『ブラックアウト』19章でポリーが、防空壕にいる人々が空襲に適応したと思ったのは間違いだったと気づくシーン。「あるいは、彼ら全員、来る夜も来る夜も、爆弾の直撃や差し迫った侵攻を待ちながら、じっとここですわっていることに、どれほどの勇気が必要だろう。次の空襲警報解除サイレンまで自分たちが生きているかどうかもわからないのに。」(文庫版 上 p338)
『オール・クリア』でもマイクが同じことに触れていて、シャクルトンへの言及が繰り返されることといい、「待ち続けることの勇気」こそが英雄的な行為だというロンドン市民への目線がこの作品のテーマのひとつなのかもしれない。
翻って現実世界でも、感染しているかもしれないという不安が湧きあがってくるのを押さえつけながらじっと家にいなくてはいけないわけで、待ち続けることの英雄性を讃えた文章にすごく支えられる気がした。
あともうひとつ、「”みずからの分”を尽くす」話も、今の状況と相まって印象に残っている。ひとりひとりが信じて行動することで、わたしたちが求めるよりよい世界が実現する。「分を尽くす」というのはチャーチルの演説だったらしいけれども、それぞれの分を尽くした市井の人たちを描くためにこの小説は書かれたのではないかと思っている。
「そのすべてと、他の数百万の出来事や人間のおかげで、わたしたちは戦争に勝ったんです。兵士やパイロットや海軍婦人部隊員だけじゃなく、防空監視員や航空機観察員や新米女優や数学者やヨット乗りや牧師たち」
「それぞれの分を尽くした人々」とダンワージー先生がつぶやくように言った。(『オール・クリア』文庫版 下 p468)

パンデミック的に『ドゥームズデイ・ブック』の再読をしようかとも思ったけれども、こちらを読んでよかったなと本当に思っています。
そもそもこのシリーズ世界自体が、21世紀初めにパンデミックが起こった後の世界なんですよね。人口が激減し、文明が後退し、猫が絶滅した。
でも現実ではまだそこまではいっていないし、タイムトラベルも実現していない。


小説の構造としては、『ブラックアウト』の終盤くらいまでは特に、話が細切れな上に視点人物も入れ替わってて若干読みにくかったです。
時代も場所も違う話が挿入されたり、意図的に語り手の正体を隠していたり。
そもそも当初から主人公であるポリー自身が何やら他の人たちに隠していることがあるっぽいので、疑心暗鬼というかいろんなことを疑って読んでいたので疲れた。
それらが回収されていく後半の流れは相変わらず巧いんですけどね。
コリンが迎えにきたところはすごく良かった。
この裏でのオックスフォード側での話を読んでみたいと思いました。コリンを主人公に据えて。5年という時間をそうやって回収するのか。
コリンといえば、最後にほのめかされてるのはたぶんそういうことなんですよね?メアリは年齢的に別のメアリなのだろうと思うけれども。
史学生の存在自体を考慮にいれた時空連続体について考えると頭が混乱していく。
歴史はカオス系といってもパラドキシカルな感じがするので。
作中に書かれている出来事も、その出来事が起きた順番と時系列が違うので、一回整理しないとわからない感じ。

ところで、このシリーズ、続きが出ることはあるのだろうか。
作中でも言われていたけれども、こんなことがあってダンワージー先生が新しい現地調査を認めてくれるはずがないし。
何より、コリンをはじめとして今までに出てきた人たちの名前が出てきたのがなんとなく最終回っぽさがある。

シェイクスピアを読みたいし、セント・ポール大聖堂で「世の光」を見てみたい。
それに、アガサ・クリスティ。
病院ですれ違うシーンには心躍りました。

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『わたしにください』

今回は読書の感想というよりも、本を読んだ私の話です。

2月は仕事が忙しく、文字通りに心が死んでいたのでBLばかり読んでいた……というよりも、それくらいしか読めなかった。
だいたい展開もパターン化していて、心がひどく揺さぶられるほどの波風もたたず、予定調和の大団円に着地するような物語なら、疲れていてもまだ読めるし、そういう物語に癒しを求めていました。
ラノベとかキャラ文芸ではなくてBLだったのは、2月初めくらいに『流浪の月』を読んで、その流れでなんですけど。
でも商業BL小説をしばらく読んでいなかったので、というか読んでいた頃も好きな作家さんのものだけ読んでいた感じなので、流行りとか人気の作品とかを全く知らず。ブックオフとかでタイトルとか作家とか絵とかあらすじとかでなんとなく好きそうなものを適当に選んで消費していました。そんな選び方だったので、ときどき文章がひどいものにあたって辟易したり、微妙に萌え属性から外れてたりということもあったけど。
ちなみに、“想いを遂げたと思ったあとで「無かったこと」にされる攻め”というシチュエーションが好みです。おすすめ作品ありましたらよろしくお願いいたします。

で、そういう経緯でこの作品も手に取ったわけなのですが。
内容を知っている方は既にお気づきのことと思います。
読んでいる途中の感想は「選ぶ本間違えたな」でした。
波風が立たないどころじゃない。主人公が暴行を受けたりいじめられたりとひたすら過酷で読むのがつらいし、挙句の果てにカップル成立しないままで終わって、読み終えてからしばし呆然としました。
え、こんなことあるの……?

その後、調べたら続編があることを知り、翌日購入して一気に読みました。
というわけで、以下の感想には「十八と二十六の間に」の感想も含みます。


すごく良い物語だった。

恋愛という以上に、生きていくことについての物語だと感じました。
少しでもまともな人間になりたい、と思うことがあります。
今の自分は全然だめだけれども、明日は少しでも良くなるんじゃないか、と。
この作品においては、その希望みたいなものの象徴が、路と森尾お互いだったんだという印象を受けました。
だから、恋愛ではあるのだけれども、祈りのようでもあり、誓いのようでもあり。「十八と二十六の間に」のラストシーンはすごく響いた。

1巻で、路が変わろうともがくところも好きです。
好きというよりも、響くとか沁みるという言葉のほうが適切かもしれない。
もがいてももがいても変わらないかもしれないけれど、もがいてなければ溺れていったかもしれない。行動していたら、誰かが手を取ってくれるかもしれない。
そういう物語が、今の疲れている心にすっと入ってきて、頑張ろうと思えた。
こういうエピソードの使い方がうまいなと思いました。メッセージだけが浮かずに、物語に溶け込んで、印象的なものとして記憶に残るシーンが多かった。
「朝のリレー」引用するのとか、状況と相まってすごく印象に残っている。えぐい。


1巻を読んだ後は、罪でつながっているとはいえなんだかんだでラブラブになるよねと期待していたのですが、続編は最初が一番近くて、読み進めていくにつれて距離が離れていくような感じになり。残りページが少ないけど、でもBLだからどんなかたちであれハッピーエンドにはなるはずという無根拠な希望にすがるかたちで読んでいました。
好きで、好き同士なのに、受け取れないってなるの何それ。悲しすぎる。

とはいえ、森尾があまりに人非人なので、彼が自覚したら自分を許せないというのは分かるんですよね。
わりと、ありていに言って、クズですよね。
BLにしろ、少女漫画にせよ、無理やり……というところから始まる物語は世の中にあふれているので、ひどい人間ではあるけどよくあるレベルだよね、という認識だったんです。1巻では。
最初はともかく二度目以降は想いを伝えてないのに手ぇ出すなや、とか思ったりもしたけど、そういう話もまあまあよくあるから。
しかし、続編で信頼できない語り手であったことが明らかになり、っていうか彼の主観ではそうなんだろうけどあまりにあまりですね。
無意識に踏みつけているものもある、というのもテーマなのだと思うんですけど。
踏みつけられた側にも人格があるというのをこうして描かれるとなかなか堪えますよね。
そこから自分の罪を自覚して、更生というか、彼も変わろうとしていく、路のために(言い換えれば愛のために)、というところがたぶんこの物語の大きなところだと思うんですけど。
でも結局、森尾が路に対しては贖罪しようと思ったのは、他の人の姿を通して自分を客観視できたからにすぎないと思うんです。もしそれがなかったら、あるいはもしそういうことが過去にあったら、ということを思うと、どうにも微妙な感情がある。
微妙、というのは、路はずっと森尾が好きだったけれども、森尾にとってはそういう偶然で好きになっただけではないかということが引っかかるんですね。
けれども偶然のそのなりゆきが運命なのかもしれない。し、きっかけはもはや関係ないという気もしている。

いやでも毎年花火大会の日に高級ホテルおさえてる執着ちょっと気持ち悪くないですか?(笑)
18歳から26歳の間、毎年、自分はアメリカにいるのに。
というくらいはなんか茶化さないと、重さを受け止めきれない感じがしています。


生きてること自体が許されているようなことだ、というような台詞を何か別の作品でも読んだような気がして、思い出せなくてもやもやしています。
朝丘さんの作品だろうか。それとも全然別の何かかな。

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『十三髑髏』

いざ感想をメモにまとめて投稿しようとしたら、まさかのサーバーダウンと長期メンテ……。
復旧しつつあるようでよかったけど、こうも長くかかるとは思わなかったよ。
というわけで以下は1週間くらい前に書いたものです。

オーパーツ鑑定士とそのそっくりさんが探偵役のこのミス大賞受賞作。
以前、ひょんなことから大森望の選評を目にして、気になったので今回読んでみました。
率直な感想をいえば、最後まで読み通した自分を褒めたい。
ひどかった。
大幅改稿をしてこれなのか……。


……よくよく読み返してみたら、選評の大意は「強烈」「個性的」であって、良い作品とかおもしろいとは直接言ってないんですよね。こういうレトリックを使う人なのは知っているけれども。
というか本人が良い作品と思ったかどうかは関係なく、読みたいと思わせる文章を書くのってそれはそれですごい技術ですよね。


確かに、1話目のトリックはおもしろかった。
バカバカしすぎて清々しいレベル。
4話目もまぁ、好きでした。
こう、方向性でいうなら斜め屋敷を思わせる……と言いかけて彼我の差に躊躇する感じなんですけど。
トリックだけ取り出して比較したら似たような傾向のものであっても、小説である以上、それを成り立たせて説得力を持たせるためにはたくさんのものが必要だと思うんですよね。文章力とか。雰囲気とか。伏線とか。この犯人/この状況ならこの方法を使うしかない、と読者に思わせるためのものが。


トリックだけならおもしろいんですけど、探偵役の推理を待たず、すぐ分かってしまうんですよね。
私は1話目だけは分からなかったので素直に驚けたし、確かに伏線張られてた!と納得できて、わりといい犯人あてだったのではないかとさえ思えたんですけど。
2話目以降は、普通に読んでいたら推測できてしまうネタだったのでミステリとしては正直全然おもしろくないと思う。
密室とか、一瞬不思議な状況に感じるけど本当に一瞬だけで、捜査シーンを読んでいくとあぁそういうことねって分かる。
よくいえば伏線がしっかりしている……なのかもしれないですけど、あからさますぎる。
読者が簡単に推測できてしまうのもあまりよくないと思うんですけど、作中の登場人物も、その現場にいて順当に捜査してちょっと頭はたらかせたら発想できるんじゃないか、と思えてしまうので余計に印象が悪かった。
見えない死角から凶器が飛んでくるほどの奇想でもないですし。
助手を筆頭として周囲の人間の知能レベルを落とすことで相対的に探偵役を賢く見せる手法はあるけれども、たいがい限度があるでしょう、と思うんですよね。五十歩百歩っていうか。
その辺が読んでいて苦痛でした。
3話目が推測できたのはあるいは時期が悪いからかもしれないけれども(笑)




何より、文章含め雰囲気がチープすぎて嫌いでした。
読みながら感想をメモしていたんですけど、ちょっとそれを箇条書きのまま貼ります。


傍点がうざい
悪い意味でテレビドラマっぽい 決め台詞とかキャラクターとか
わざとらしいオーバーリアクション
吃りがうざい 「ちょ、ちょっと!?」的な台詞が続きすぎ
傍点がうざい
罵声を伏せ字で表現するのが安っぽい


以上。
まぁ、そんな感じでした。
会話のノリのサムさとかから、おじさんが書いてるのかと思ってたら、同年代っぽくてびっくりした。
今月頭に、『刀と傘』読んだんですよね。すごく良かった。
あれもこれも作者がだいたい同世代なんですけど、なんていうか年齢って関係ないんだなって思いました。


あとたぶん校閲がちゃんとしてないんじゃないかと思うんですけど、「厚顔無恥」の使い方間違ってて、すごくむずむずした。「無知」という意味で使ってて、台詞だから敢えてその発言をした人が勘違いしてるみたいなことかと思いきや、特に回収されずに流れていったので。
やっぱり馬鹿しかいない世界……。




オーパーツをネタにしている意味があんまりなかった気がしました。
いっそ、もう少し蘊蓄多くするとかしたほうがよかったのではないか。
自称鑑定士のくせに、しゃべってる内容がコンビニに売ってるあんちょこ本に書いてありそうなレベルに感じられてしまった。
あるいはそれこそ宝島社からも出てるような、ムック本とか。
ウィキペディア丸写しなんじゃないって思ってしまうほうがまだマシなくらい。
突然の恐竜知識もさぁ……。
トリックも、まぁ別のもので全然代用できるよねって感じで。(4話目は厳しいかもしれないが)
オカルトチックな雰囲気を出すことで殺害現場の謎っぽさを演出したり、見立てではないけどトリックが使われた痕跡を誤魔化したりというほども特にしていなかったんですよね。
デビュー作なのだし、もっとオーパーツに対する情熱を感じたかった。
ただの奇人の奇行にしか思えないのは残念でした。




あと普通に未成年飲酒描写あって、最近の出版物はその辺厳しそうなのにってびっくりした。
4月から大学生なら18歳か19歳ですよね? いや、浪人したともしてないとも書いていないけどさ。


それと、主役二人がそっくりなのが何か理由とかが明かされるかと思ったら、それもオーパーツかもって感じで終わってしまったのが拍子抜けしました。
鳳は天涯孤独って書いてあったから、てっきり生き別れの双子とかそういう血縁上のミッシングリンクがあると思ってたのに!




なんだろう、全体的に言うと、たとえば特に1話目を単独の作品として、大学のサークルとかで出したひとがいたら、私は文章とかキャラクターとかに対してさんざん文句は言うけど、でもこのトリックのバカバカしさは嫌いにはなれない、という感想を持つと思う。
でも商業出版物としてこれを読むと、粗のほうがどうしたって目についてしまうよね、という感じでした。


でもそもそもこのミス大賞ってそんなにミステリ的にしっかりしているというよりは、ある種のキャッチ―さだったり映像作品との親和性だったりが重視される賞なのかもしれない。
鮎川賞や乱歩賞に比べれば。
受賞作はバチスタとドビュッシーくらいしか読んでないのでよくは知らないですけど。

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2019年のまとめ

ご無沙汰しております。
いつのまにか2020年になっていて、遠いと思っていた未来がいつの間にか今になってしまっている慄きでいっぱいです。

このブログの惨憺たる有様を見てわかるとおり、昨年は読書の記録をあまりつけていなかったのですが、ここ何年かやっているので、1年の読書に関するまとめを。
記録がある・思い出せる限りで2019年の読了冊数は90冊でした。うち、再読を除くと85冊。
覚えていないのがもうちょっと増えるかも?
とはいえ、100冊はなかなか遠いですね……。
12月にラノベを30冊くらい読んだからこの冊数になっているので、なおさら。

2019年の読書的トピックといえば、「うちの執事の言うことには」映画化でしょうか。
10年以上大好きな高里先生の作品が実写化ということで戦々恐々としてました。
それに伴なっていろんなキャラにスポットライトをあてた短編群を発表してくださって、原作ファンへの対応が手厚くてありがとうございますって感じでした。
デビュー20周年の年に薬屋の新刊は出なかったけど、なんといっても2020年は薬屋元年なので、何かしら動いてほしいなと期待してます。3月になったら栃木に聖地巡礼とか行こうかしら。


結婚パーティーのときに参加してくれたみんなの愛読書を読んでコメントを書くという、今思い返すとなかなか大変なことをしたのですが、それで新しい作家・作品との出会いがありました。
そのときに読んだ中では「星は、昴」と「マルドゥック・スクランブル」が特におもしろかったです。でもヴェロシティが破滅に向かう予感しかなくて2冊目までしか読めてない……。

ほかには、やっぱり十二国記ですかね。
大学生の時に読んだときにはそこまではまれなかったけど、新刊が出るというので前回読んでなかった「魔性の子」「黄昏の岸 暁の天」含めて読み返してみたら、めちゃくちゃおもしろいですね……?
「白銀の墟 玄の月」読み終わって泣いた。魔性の子を経た泰麒の強さがつらい。

あと、上にも書いた12月にラノベを一気読みしたのがコバルト文庫から出てる「風の王国」シリーズでした。
十二国記読んで、ほかにも中華系少女小説読みたい…もっと軽いもの…ってなって手に取った作品。
7世紀に実在した唐から吐蕃に輿入れした公主が主人公で、政略結婚の相手と恋に落ちて…という王道な感じで始まるんですが、結構政治的な要素が多めでおもしろい。
そして先に実在の人物のほうのWikipediaを読んでしまったので、主要キャラクタが死ぬことをネタバレされてしまい、良く描かれれば描かれるほど死までのカウントダウンがつらかった。
チベットとウイグルの違いとか位置とかちゃんと認識してなかったし、読んでもぼんやりとしているけれども、おもしろかったです。
全巻読んだ後で改めてWikipediaでチベット史読んで、え、この人も実在するんだ!?って驚きがいくつもあった。

上記の冊数にはマンガは含んでいないんですが、小説よりもむしろマンガを読んだ1年だったと思います。
読んだ量も私にしては多かっただけでなく、おもしろい作品と多く出会えた印象です。
年末年始に「BANANA FISH」を読んだのから始まり、「七つ屋志のぶの宝石匣」「メタモルフォーゼの縁側」「違国日記」「長閑の庭」「舞姫テレプシコーラ」「地球へ…」「桜蘭高校ホスト部」「下天楼」「木曜日のフルット」「ランウェイで笑って」などなど、新旧おりまぜていろいろと読みました。
特にはまったのが「パタリロ!」文庫版全50巻で、新婚旅行の飛行機の中で読んで怖さを紛らわしてました…。
あと明治カナ子の「坂の上の魔法使い」三部作がすごくよかった!
人に薦めたいマンガです。ファンタジーであり、BLであり、それだけではない愛の物語で、とても良かった…。
だいたいはKindleで読んだので、電子書籍は特にマンガを読むのに便利だなぁと思ってます。
なにより、1巻読み終わって続きが読みたいってなったらその場で買えるのが……おそろしいですよね。

そんな感じの2019年だったわけですが、今年こそは100冊読みたい(って毎年言っている気がする)し、ちゃんと読んだ本の記録をつけるようにします。
本年もよろしくお願いいたします。

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2020/01/06 (Mon) 日々の徒然 CM(0)

『熱帯』

――この本は、真の意味での魔術的書物である。
謎の書物『熱帯』をめぐる物語。


まず冒頭から、文体だけで楽しい気分になった。
千夜一夜物語、海洋冒険譚(ロビンソン・クルーソーや海底二万マイル)、京都の三題噺みたいな印象でした。

千夜一夜物語をモチーフにしているので、この本自体も作中作、作中作中作、作中作中作中作……が組み込まれて、無限に続くマトリョーシカや、エッシャーの騙し絵のような読み心地。
構造だけでなく文章も、意図的なコピー&ペーストや、同じ風景が別のところで繰り返し語られたり、という感じでその読み心地を強化しているように感じました。
とりあえず千夜一夜物語をちゃんと読みたいです。


自分の整理を含めて概略をまとめます。
ネタバレになります。

・第1章 枠物語
原稿に追われる作家「森見登美彦」(森見登美彦が冒頭の語り手であることにまず驚いた!)がかつて学生の頃に読んだ『熱帯』という小説を思い出す。途中まで読んだところで紛失してしまい、その後は調べても手がかりはその本についてのつかめなかった。
ある日彼は友人に誘われ、「沈黙読書会」に参加する。謎がある本について語るその会で、彼は『熱帯』を持っている女性と出会う。彼女=白石さんは、「この本は最後まで読むことができない」と言い、『熱帯』の謎を語り始める。

・第2章 白石さんの語り(第一の作中作)
白石さんは職場で池内さんという男性と出会い、あるときかつて読んだ『熱帯』の話になる。
白石さんは池内さんに誘われ、熱帯を読んだことのある仲間たちとの読書会「学団」に参加し、小説の内容を再現する「サルベージ作業」を行う。彼女が参加したことにより「満月の魔女」というキーワードが現れ、「学団」のメンバーの千夜さんが退団する。残された「学団」メンバーたちは『熱帯』に憑りつかれたようになり、池内さんが千夜さんを追って京都に向かう。ところが、池内さんも京都で消息を絶ってしまい、白石さんのもとに彼のノートが届く。

・第3章 池内さんの手記(第一の作中作の作中作=第二の作中作)
池内さんは京都で千夜さんの足取りを追う。千夜さんは学生時代に『熱帯』の作者である佐山尚一と過ごしたことがあり、それは、かつて節分祭の夜に消えたという佐山尚一を追う道のりでもあった。吉田山中の移動式古書店「暴夜書房」、一乗寺の古道具屋「芳蓮堂」、先斗町の酒場「夜の翼」、進々堂。道中で様々な人に会い、千夜さんや佐山尚一にまつわる話を聞く(第二の作中作の中の作中作)。京都市美術館に飾られた「満月の魔女」の前で不思議な白昼夢をみる。千夜さんや佐山尚一の知己の今西氏は学生時代に彼らと過ごした話、そして千夜さんの父「魔王」栄造氏と「満月の魔女」の話を語る(第二の作中作の作中作とその作中作)
芳蓮堂にあったカードボックスが池内さんの行動を予言していた。
「私たちは『熱帯』の中にいる」
池内さんはカードに書かれた最後の行動を再現しようとする。千夜さんが消えた「千夜一夜物語」を集めた図書室に入る。
そして、池内さんはノートの白紙の頁に『熱帯』冒頭の文言を記す。

・第4章・第5章 『熱帯』(意味合い的には第二の作中作の作中作だと思うが…)
記憶を失った若者が南洋にある孤島の浜辺に流れつく。若者は「佐山尚一」と名乗る男に出会い、「ネモ」という名前で呼ばれる。密林の中に佇む観測所、不可視の群島、〈創造の魔術〉によって海域を支配する魔王、その魔術の秘密を狙う「学団の男」、砲台の島と地下室の囚人、海を渡って図書室へ通う魔王の娘、魔王との対面、北方への島流し。
海賊シンドバッド。サルベージ。古道具屋とその娘との出会い。京都的な群島。主人公の〈創造の魔術〉。海賊の襲撃。「満月の魔女」に会いに行く。五山の海域と蝋燭の島。砂漠の宮殿。吉田神社の節分祭。
「魔王」永瀬栄造との再会。カードボックスに入ったひとつの『物語』。それを手に入れた話(無限に続く入れ子構造)。始原のシャハラザード。「物語ることによって汝自らを救え」。再び観測所の島。手記を書く。永瀬栄造との京都での出来事の回想。節分祭の夜。虎の佐山尚一との対話。「それでは君を『熱帯』と名づける」

・後記(第4章・第5章の『熱帯』と同じメタレベルだと思うが、ここではこれが最上位のメタレベルになっている)
『熱帯』の誕生から36年後の佐山尚一の手記。千夜一夜物語の失われた一挿話。
 回想・節分祭の後の日々。
今西君と千夜さんとともに「沈黙読書会」へ。
 回想・栄造氏との対話。『千一夜』の魔術。
池内さんと白石さん。沈黙読書会で紹介される『熱帯』。
かくして彼女は語り始め、ここに『熱帯』の門は開く。


作中作が終わってもとの世界に戻ることを期待して読んでいるのに、決して戻ることなく進み続けて終わった(終わらない)ので、あの人たちはどうなったの?って思ってしまった。
彼らもまた生きたいと願ったと思うので、その行方が宙ぶらりんのままなのが落ち着かなかった。

「あなた方が生きたいと願うように、私たちもまた生きたいと願うのです」
という言葉は、私は最初に読んだときに物語の登場人物の人生の話だと思ったのです。「グラン・ヴァカンス」のような。
つまり、物語が語られ、読まれ続ける限り彼ら彼女たちは生き続けることができるという。
でも、そう語ったのがシャハラザードであることを考えると違ったとらえ方もできるのだと気づいたとき、小さな雷くらいの衝撃に撃たれました。
生き延びたいと願うシャハラザードが人々に物語を語らせ続けたという主客の逆転、ちょっと怖くないですか?

第4章、第5章を読んでいるときに感じていたのは、「この文章の書き手は誰なんだろう」ということでした。
佐山尚一なんだけれども、佐山尚一ではこのことは知りえないのではないかと思ったところがあって。
いやまあそれは最後の見開きで回収されるっちゃされるんですけど。ってことだと思っているんだけどどうですかね。
登場人物の多くが主人公自身の別の姿であるのが、なんとなく純分学の作品っぽいなと思いました。イメージは村上春樹(1冊しか読んだことないけど)。

群島と化した京都は読んでて楽しかった。
京大生の京都って京都のほんの一部なんだけど、群島なのでそのほんの一部の寄せ集めしかなくても許される感じ。ないのか、見えていないのか、わからないままで。

かっこいい文章がいくつかあったので引用。
「まだ終わってない物語を人生と呼んでいるだけなのだ」
「何もないってことは何でもあるということだ」
「世界の中心には謎がある」

カバー袖に書かれた「この世界のすべてが伏線なんです」という言葉は、すごくわくわくしたのだけれども、読み終えてみるとこの世界は私のいる世界とメタレベルが違うことに気づいてしまったので、なんとなく魔法が解けた感じがしてしまった。

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