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2024/04/27 (Sat)

『ブラックアウト』『オール・クリア』

コニー・ウィリスのオックスフォード大学史学部シリーズの作品。
3人の史学生がそれぞれに第二次世界大戦中のイギリスへの現地調査に行くものの、なぜか元の時代に戻れなくなり……。というお話。

『ドゥームズデイ・ブック』も黒死病&未知の感染症パンデミックだし、暗かったのだけれども、それ以上に読んでいて重かった。長いし。
会えそうで会えないすれ違いとかを楽しむにはシリアスで。
『ブラックアウト』の中盤で3人がそれぞれに投げかけられる「最後はなにもかもうまくいく」という言葉が、読者である私にとっても希望をつなぐ糸のようで、その糸を手に持ちながら辿りながら物語の先に進んでいった感じでした。ハッピーエンドになるだろうと思っていても、確信がないとあまりに重く、途中で投げ出してしまったかもしれない。
『オール・クリア』を最後まで読み終わっても、犠牲を考えてしまって百パーセント幸せな読後感ではなかったのですけれども。
これに比べたら、ヴィクトリア朝での花瓶探しってものすごく平和だったなと遠い目になる。

小説に限らず、いろんなものには出会うタイミングというものがあると思うのですが、私は今この小説を読めてよかった。
2020年4月現在、新型コロナウィルス感染症対策のために緊急事態宣言が出されていて、外出自粛が呼びかけられ、普段通りの生活はできず、いつ自分や周りの人が感染するかわからないという不安におそわれそうになる。
そんな今だから、空襲下のロンドンに生きる人たちの描写が響くところがいくつもありました。
たとえば、『ブラックアウト』19章でポリーが、防空壕にいる人々が空襲に適応したと思ったのは間違いだったと気づくシーン。「あるいは、彼ら全員、来る夜も来る夜も、爆弾の直撃や差し迫った侵攻を待ちながら、じっとここですわっていることに、どれほどの勇気が必要だろう。次の空襲警報解除サイレンまで自分たちが生きているかどうかもわからないのに。」(文庫版 上 p338)
『オール・クリア』でもマイクが同じことに触れていて、シャクルトンへの言及が繰り返されることといい、「待ち続けることの勇気」こそが英雄的な行為だというロンドン市民への目線がこの作品のテーマのひとつなのかもしれない。
翻って現実世界でも、感染しているかもしれないという不安が湧きあがってくるのを押さえつけながらじっと家にいなくてはいけないわけで、待ち続けることの英雄性を讃えた文章にすごく支えられる気がした。
あともうひとつ、「”みずからの分”を尽くす」話も、今の状況と相まって印象に残っている。ひとりひとりが信じて行動することで、わたしたちが求めるよりよい世界が実現する。「分を尽くす」というのはチャーチルの演説だったらしいけれども、それぞれの分を尽くした市井の人たちを描くためにこの小説は書かれたのではないかと思っている。
「そのすべてと、他の数百万の出来事や人間のおかげで、わたしたちは戦争に勝ったんです。兵士やパイロットや海軍婦人部隊員だけじゃなく、防空監視員や航空機観察員や新米女優や数学者やヨット乗りや牧師たち」
「それぞれの分を尽くした人々」とダンワージー先生がつぶやくように言った。(『オール・クリア』文庫版 下 p468)

パンデミック的に『ドゥームズデイ・ブック』の再読をしようかとも思ったけれども、こちらを読んでよかったなと本当に思っています。
そもそもこのシリーズ世界自体が、21世紀初めにパンデミックが起こった後の世界なんですよね。人口が激減し、文明が後退し、猫が絶滅した。
でも現実ではまだそこまではいっていないし、タイムトラベルも実現していない。


小説の構造としては、『ブラックアウト』の終盤くらいまでは特に、話が細切れな上に視点人物も入れ替わってて若干読みにくかったです。
時代も場所も違う話が挿入されたり、意図的に語り手の正体を隠していたり。
そもそも当初から主人公であるポリー自身が何やら他の人たちに隠していることがあるっぽいので、疑心暗鬼というかいろんなことを疑って読んでいたので疲れた。
それらが回収されていく後半の流れは相変わらず巧いんですけどね。
コリンが迎えにきたところはすごく良かった。
この裏でのオックスフォード側での話を読んでみたいと思いました。コリンを主人公に据えて。5年という時間をそうやって回収するのか。
コリンといえば、最後にほのめかされてるのはたぶんそういうことなんですよね?メアリは年齢的に別のメアリなのだろうと思うけれども。
史学生の存在自体を考慮にいれた時空連続体について考えると頭が混乱していく。
歴史はカオス系といってもパラドキシカルな感じがするので。
作中に書かれている出来事も、その出来事が起きた順番と時系列が違うので、一回整理しないとわからない感じ。

ところで、このシリーズ、続きが出ることはあるのだろうか。
作中でも言われていたけれども、こんなことがあってダンワージー先生が新しい現地調査を認めてくれるはずがないし。
何より、コリンをはじめとして今までに出てきた人たちの名前が出てきたのがなんとなく最終回っぽさがある。

シェイクスピアを読みたいし、セント・ポール大聖堂で「世の光」を見てみたい。
それに、アガサ・クリスティ。
病院ですれ違うシーンには心躍りました。

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