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2024/04/27 (Sat)

『本と鍵の季節』

世間では新作単行本が出ていますが、周回遅れで生きているので今更ながら去年の本を読みました。


米澤穂信の青春は、私のそれとは違うんだろうな。


図書委員の男子高校生ふたりが謎を解く連作短編集。

探偵と助手ではなくて、ふたりともそれなりに頭がよくて、でも一人だけでは解けない謎を掛け合いしながら解いていく形式が、読んでいて楽しかったです。
「俺たちそれほどわかり合ってるか?」という台詞がとても格好いい。堀川と松倉の関係を表していて、すごく好きでした。
図書委員会で同じ日に当番なだけの、クラスも違う同級生の関係が物語を通してどう変わっていくのか。
というより、図書委員会で同じ日に当番なだけの関係だからこそ、という良さ。


謎を解くけど事態の解決は当事者に任せて、探偵役たちは立ち会わない、というスタンスがとても冷徹に感じられた。
もちろん、探偵を業とするわけでもない少し頭が切れるだけの高校生たちにそこまで求めるのは求めすぎかもしれない。
通りすがりにすぎないのに他人の事情に首を突っ込み、事件どころか人間関係のもつれまで解決していくような探偵の役割に対するアンチテーゼとして設定しているのかもしれない。
ふたりの探偵役の性格描写的に、他人が他人の事情に立ち入ることをよしとしない性質だということもわかる。
米澤穂信は過去の作品的にも、謎の背後に人がいることに自覚的だと思うので、意図的にそうしているのだとは思います。
でも、私は、無責任に思えてしまう。
ただ「非日常の冒険」として謎解きを楽しんでいるだけではないか? その後ろに生身の人たちがいることを認識していないのではないか?って。
読んでいると逆に、生身の人がいるからこそ立ち入らないようにしていると読み取れるのですが、反射的に疑ってしまう。
謎を解く探偵と事態を収束させる探偵がいたら、後者を「名探偵」と呼ぶ村の住人なので。
っていうか、「金曜に彼は何をしたのか」と「ない本」はひどいと思うんですよね、主人公たちの所業が。この2編は後味の悪さを意図した作品ではあると思うんですが、連作のなかでその後味の悪さが回収されてくれないので、もやもやして上記の感想を抱いてしまった。
うーん、最終話でこれは回収してるのか?してないと私は思ったので、回収されてると思った方の話を聞いてみたい。


ミステリ的な部分について。
伏線というか手がかりがあからさまに出ていて、どう考えてもおかしいからきっとこれが手がかりなんだろうということは読んでいて分かるんだけど、何のためにそうしたのかとか、解答までは導けなかったので、そういうところが探偵役たちの頭の良さなんだと分かるのが面白かった。
それこそがシンプルにミステリのおもしろさですよね。手がかりは全て提示されている、ではどう結びつけて真実を推理するか?という本格ミステリでの読者への挑戦みたいな。(ちなみに、この本には別に読者への挑戦はないです)

図書委員会という設定なので特に話の流れには関係のない本のタイトルが作中に出てきたり、図書館にまつわるものが謎解きに使われていたりするのも楽しかった。
でも知識ネタがそのまま真相になるわけではなく。
本好きなら誰もが分かるよねということを、それ自体を真相にしているわけではなく、それがわかったところでじゃあ何故そうなのかみたいなところが主眼になっていくので、一捻りあって面白かった。

小ネタでいうと、突然の「出来心」にはちょっと笑いました。出来心だと思ったからそれを引用したんだよね、というところまで読んで笑えなくなったけれども。



これは所詮、自分の経験でしか判断できないので何とも言えないことですが。
図書委員会がやること多くない?って思った。私の経験と感覚では、それは生徒ではなく司書の先生がやることだと感じるものがいくつか。でも学校によっても違うだろうし、そういう図書委員会があってもおかしくないのだろう。

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ミステリーウェディングをしました(謎解き編1)

案の定、以前書いて続きは後日と言ってからかなり間があいてしまいました。

前回の記事の最後で「次は招待状」と書いたのですが、ペーパーアイテムまわりがプランニングをしていただいた会社のほうで事例紹介的な感じで使われていて、同じこと書いてもなと思ったので、招待状については割愛します。
ペルソナ5を参考にした予告状的な招待状&裏面に謎解きで会場を示唆、それだけではさすがに不親切にすぎるのでもう1枚探偵の調査報告書的なデザインで日時・会場・会費・地図等をまとめたもの、そして愛読者カード風の返信葉書と謎解きに使うスリップという4種セットで作っていただきました。
これだけの完成度のものを作ってくださったデザイナーさんに感謝です。



あ、デザインと関係ないところで、文面の話。 
予告状っぽいデザインがいいですと言ったものの、デザインしてもらうためには当たり前ながら素材が必要なわけで、予告状っぽさを出しつつ結婚披露パーティーの招待状っぽさを失わないテキストを考えるのが難しかったです。
そういうパロディ的なおもしろいものを作るセンスが、私も配偶者も残念ながら欠けているので。
上記がその努力の結晶。
予告状なので、暗号めいた文面にしたいよねと思って、最初数行はいかにもって感じの文面にしたんです。怪盗キッドを参考にして。
日付を表すのにいい表現ないかなと試行錯誤をした結果が、霧舎学園だったっていうそれってどうなのって感じになったんだけれども、送られた人の何人かは気づいて笑ってくれただろうか。
ちなみに私は00密室しか読んでないですごめんなさい。
あとけっこう深夜テンションで考えていたので、下3行が煽っていくスタイルなのも、今考えると相当あれですね。
とはいえ、我々がやりたいのが普通の結婚式・披露宴・2次会ではなさそうだなっていうのが一目で分かる点はよかったと思います。そういうのをやりたいから、このノリにつきあってくれそうな友達だけに招待状を送っているわけですし。内心でイタいとか寒いとか思われてる可能性もありますが……。

それから、私も配偶者も甘いものが好きなので返信用葉書の切手をスイーツ切手にしたのと、女性ゲスト送付分にだけスイーツ柄折り紙を使って封筒に飾り紙を貼ったりとかもしました。
この辺は正直情報サイトに踊らされていた、だって事例見るとかわいくてやってみたいと思っちゃうんだもん。
あと、封筒に貼ったシールもデザイナーさんに作っていただいたもので、十角館の見取り図的な十角形のシールでした。


招待状については以上として、今回は自分たちで作成した謎解きについて書くことにします。


前回の記事でも書いたように、謎解きはぜったいしたいことだったので、それをどうやってパーティーの中に組み込んでいくかをプランナーさんと話し合いをしていきました。
どうせやるのなら、ただ余興として謎解きをやるだけではなくて、全体の流れの中でそれをやる意味づけというかがほしいと思っていたんです。あと、明らかに脱出ゲームや謎解きをやり慣れている人とそうでない人とがいるので、勝ち負けを決める感じにはしたくないとも思っていて、その上で解いてもらうモチベーションを作りたいというのもありました。
そこのプロデュース会社の方針として、パーティーを通してゲストに新郎新婦を知ってもらって改めて祝福してもらうみたいなプログラムを会の中に組み込むというのがありまして、じゃあそれにしようということになり。
「余興で謎解きをやれたらいいなぁ」がいつの間にか「結婚披露謎解きパーティー」くらいのウェイトになっていました。

最初に決まったこととしては、「数字錠のついた箱を開けると、パズルのピースが入っていて、そこにメッセージを書いてもらう&みんなでパズルを完成させる」というゴールです。
そして目標として、謎解きを通してゲスト同士に交流が生まれてほしいということ。

それから、プロフィールブックの中でいくつかの項目を空白にしておいて、そこを埋めることによって新郎新婦について知ってもらうのをすると結婚パーティーっぽいかなっていうのもわりと早いうちに決まりました。
これは年末に金沢旅行をしたときに、謎屋珈琲店で遊んだリドルカフェにインスピレーションを得たんだったかな。

自分たちで作ることにしたものの、脱出ゲームに参加したことはあれど、作るのはこれが初めてだったので、とても大変でした。
まず何をすればいいのかがわからない。
とりあえずSCRAPの「リアル脱出ゲームのすべて」とか読んでみたけど、参考になるようなならないような。
役に立ったのは、自分の結婚式で謎解き要素を入れましたというブログでした。新郎新婦にまつわるクロスワードを作ったという記事を見て、これやりたい!と。
会場内の特定の属性の人(つまりどちらかの特定の時期の友人とか)しか知らないようなことをカギとしてクロスワードを解いてもらうことで、無理矢理にでもゲスト同士で会話をさせたいと思ったんです。

とにもかくにも謎解きの流れを決めなければということで、まずは数字錠を開けるまでにどのくらいの段階を踏むかの設定を決めました。
フローチャート的なものとかを書いて。
テーブルごとに一応チームを作って解いてもらうことにしたので、その人数プラスアルファくらいの小謎を作ることは決まっていたのですが、そこから数字錠を開ける4桁数字をどうやって導かせるかについて試行錯誤しました。
あの、脱出ゲームとかでよくある、答えの単語を並べて何文字めかを読んでいくと次の指示が出てくるというのをしたかったのですが、それは断念しました。
プロフィールブック内の空白を埋める=自分たちに何らかの関係のある単語にする、かつ、何文字めかを読むと文章になる、という条件を両立しつつそれらが答えになりそうな問題を作るのは、謎づくり初心者には難しすぎたので。
そして、上記のクロスワードをどこに入れ込むかということも悩みました。
ゲスト同士会話をさせるなら全員同じタイミングで解き始めないといけないけれども、ほかの謎との兼ね合いとか、次の謎にどうやって誘導するかとか。
解答をチェックして次のヒントなり謎なりを渡すというのが、答えで誘導しないでいいので謎づくりは簡単になるけれども、何度もチェックポイントがあると煩雑になるし、2時間半のパーティーの中で、ケーキカットとか食事とか他にすることもあるのであまり時間をかけすぎられないし、みたいな。

最終的に決まった流れとしては、
1.テーブルごとにクロスワードが入った封筒と小謎カード8枚が入った封筒、2種類を配る(筆記具も)
2.まずクロスワードから解いてもらい、解き終わったら小謎の封筒を開けてもらう(封筒に1、2と順番を記入しました。正直、良心とフェアネスに期待するしかなかった)
3.小謎を解くとプロフィールブックの空白が埋まる
4.高砂にプロフィールブックを持ってきてもらい、答え合わせ
5.合っていたら数字錠を開ける4桁数字の解き方が書かれたカード入りの3枚目の封筒を渡す
6.小謎の答えや解き方を再利用しつつ4桁数字を割り出し、箱を開ける
という感じでした。
けっこう煩雑ですね。
当日は時間も押してしまい、司会者の方が何度も食事をしながら謎を解いてくださいと促してらしたのが印象的でした。

けっこう字数が多くなってしまいましたので、これでいったん切ります。
個々の謎については次回。
……次回はもうちょっと早いうちに書けるよう頑張ります。

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2019/09/11 (Wed) 日々の徒然 CM(0)

『月まで3キロ』

友人がおもしろいと言っていたので読んだ本。

人生に悩みを抱える人たちが、科学(というかほぼ地学・天文学)に出会い、救われる。いわゆる「いい話」の短編集。
「いい話」なんだけれども押しつけがましい「感動」も「説教」もなく、普通の人の普通の悩みによりそって、地に足をつけて歩いていく力をもらえる感じでした。
話にもよるけど、基本的に、状況は変わらないんですよね。
死んだ人は還ってこないし、過去も変えられない。それでも会話を通じて考え方が少し変わって前向きになるみたいな。

それは、扱っているのが地学や天文学だからというのは理由のひとつにあると思うんですよね。
地質学的な過去も宇宙も壮大で悠久で、人間の力にはどうしようもないものだったりもするのだけれども、そういう壮大で悠久なものを知るために見るのは身近な石や月や雪だったりする。
身近なものだけれども、科学的な目を教えてもらって、知識をもったうえで見ると世界が広がる。
その世界の広がりが起こるのが、悩みに対してもあるというか
いい意味で相対化されるから前向きになれるみたいな。
ものすごくありふれた言い方をするなら、地球の歴史や宇宙の大きさの前では個人の悩みなんてちっぽけになるということなのかもしれない。
科学の書き方も淡々としていて、研究というものに敬意が見えて好感がもてた。地道に観察をしていくこと。資料と対話をすること。
雑学をひけらかすタイプの小説でもなかったので、本当に真摯にサイエンスを紹介しているように感じました。「エイリアンの食堂」で女性研究者への描写であったように、「科学的なことがらを誤解されるのが嫌なのかもしれない」。

そして、悩みを抱えた主人公が出会う人もまた悩みを抱えているというタイプの話が多かったのも、よかったです。
どちらもすごく普通の人で、こういうのも何だけど、ありふれた悩みなんですよね。つまずいた後、立ち上がれなかった人たちというか。私たちがいつそうなってもおかしくない、と思えるくらいのバランス。ドラマチックすぎず、卑小すぎず。
みんな、何かしら傷ついていて、それでも人と出会って前に進んでいくというメッセージに私は弱いのかもしれない。

語弊たっぷりに言うと「何も起こらない本」を久々に読んだ気がしますが、たまにはこういうのもいいなぁと思いました。

収録短編は6話。

表題作「月まで3キロ」は自殺しようとした男が、死に場所を求めて乗ったタクシーの運転手に「月に一番近い場所」に連れて行ってもらう。月に一番近い場所とはどこかがおもしろく、タクシー運転手の過去が重い。

「星六花」がいちばん好きでした。
男性不信気味のアラフォー未婚女性が、気象庁に勤める男性と知り合い、惹かれていく。
主人公の空回る感じとかが読んでいてきついところもあるんですけど、これもまた男性の過去が…。それでも彼女にとって、彼と出会えたことは幸福だと思う。
美しい花も、美しい鳥も、生殖のためにそうなっているにすぎないと考える苦しみ。そして雪の結晶の無機質の美に救われること。
ここの会話がとても胸につまって、好きでした。
作中に出てくる雪の結晶の撮影も、去年Twitterで見たのでリアル感があった。

「アンモナイトの探し方」
東京で中学受験と親の不仲に悩み、塾へ行けなくなった少年が、北海道で化石を掘る老人と出会い、自らも化石を探してみる。
これは他の短編に比べて、科学とのかかわりが薄いように感じました。
机上の知識だけはある少年が、体験を通して成長する的なよくある話に思えてしまった。

「天王寺ハイエイタス」
大阪のかまぼこ屋の3代目になる青年。その叔父で、元ブルースギタリスト、現プータローの過去を掘り下げる。
ハイエイタスがあったときの、叔父の気持ちを想像してみると、どうしようもなく切ない。才ある人が夢をあきらめる決心。一方で、才能のない流されるだけの人間がもつコンプレックスも、どうしようもなく分かってしまうことがつらい。

「エイリアンの食堂」
つくばにある妻を亡くした男の食堂に、素粒子物理学の女性研究者が毎夜訪れる。小学生の娘は彼女をエイリアンと怪しみ、それをきっかけに交流が始まる。
任期付き研究者としての生き方に対して、この話で描かれる好きだから根無し草でも、というのに寄り添いたいが別ベクトルで科学行政に対して憤りを感じる。
この話の肝になる部分の科学ネタが好きです。僕たちの血は、星屑の液体。

「山を刻む」
家族との関係に疲れた専業主婦が山に登り、山を刻む火山学者と学生に出会う。
えっ決断ってそれなの!?って思いました、正直。
あれだけ壊れかけた家族だの、家族に切り刻まれただの言っていたから、てっきり離婚とか不倫とかそういう系かと思ったよ……。
学生さんの、先生についての言葉がすごくよかった。「仕事なんて辛いもんだ、歯を食いしばってやるもんだ、なんて言うオヤジのもとで働いて、面白いわけないですもん」「実際、好きなことだけやって生きてる大人、初めて見ましたから。そんな人、マジでこの世に存在するんだって、結構衝撃で」

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『不思議を売る男』

「あやふや文庫」というTwitter上のアカウントがあります。
内容の一部しか覚えておらずタイトルを思い出せない「あやふや」な本を、Twitterの集合知で解決しようという試みをやっているアカウントで、私も何度か回答したことがあり、見ていて楽しいものです。もともと赤木かん子さんとか、にちゃんねるのそういう掲示板とか、レファ協とか、そういう本の探偵的なものが好きなんだと思う。
あやふや文庫自体はサービスの在り方とかに疑問を覚えるところもなくはないですが(せめてタイトルだけじゃなくて著者・出版社・出版年あたりの基本的な書誌情報は載せてほしい)、内容からおもしろそうな本を新しく知れることもできるし、Twitterで気軽なのでよく見ています。

そこで、何度かタイトルを見ることがあり、興味を持ったのがこの『不思議を知る男』でした。

古道具屋の娘エイルサが図書館で会った不思議な男は、エイルサの店で働くことになり、古道具の来歴の「お話」をまことしやかに語り、商品を売っていく。
概略をまとめるとそういう話。
訳者あとがきで「アラビアンナイト」と言っているけれども、枠物語があって作中作があって、相互にかかわりあっているような物語でした。

作中作にあたる個々の「お話」はおもしろかったです。
特に「中国のお皿」が好きでした。中国の若い陶工と、その師匠の娘の恋の話。中国の風景と皿の取り合わせがよかった。
「木彫りのチェスト」も好き。こちらも悲恋で、宗教と恋と三角関係。
「鉛の兵隊」も良い。父と子の人生を賭けた戦争ゲーム。

「テーブル」の暴飲暴食の挙句に倒れる貴族たちの詩で、知らない食べ物の名前があり、グーグル検索しても出てこなかったので気になっている。
ボーブ・シュープリゼというデザートなのだけれども。
情報をご存じの方がいればお知らせください。

MCCが語る「お話」は毎回、舞台やテーマが違っていてバラエティーに富んでいただけではなく、買いに来た客の素性や性格、シチュエーションに合わせた「ほんとう」の話だった。
名前も住所も過去もないような男が語る話が、なぜ「ほんとう」だったのか――というところが枠物語において、読者の興味をもつ盛り上がりになっているのですが。
正直、MCCの正体はとても残念でした。
これだけひっぱってこれ?みたいな。
少し違うけど夢オチみたいな感じで、がっかり感があった。
最後1ページは少しぞっとするような心持ちで、おもしろかったのですが……。
エイルサの淡い恋心とかもあり、応援したい気持ちで読んでいたので、この後にそれが叶うこと夢見られる終わりだったのはよいのだけれども。ううん。

ところで、住所不定無職でいかにもあやしく、格好も特徴的で本が好き……という特徴から、なんとなく教授を思い出しました。いや、教授は住所はわかっているというか引っ越しから話が始まるので違うんだけれども、印象が重なる感じ。

あと、お話が少し古めの清の中国や独立前のインドや19世紀イギリスだったりしたので、古道具屋さんに来るお客さんが「ヤマハのエレクトーンを持ってる」と言っていたときにちょっと戸惑いました。
固有名詞が出たことと、それがごく最近の時代のもののイメージだったので。

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『ディオゲネス変奏曲』

『13・67』の陳浩基による自薦短篇集。
本格ミステリあり、SFあり、ショートショートありとバラエティに富んだ作品集で、引き出しがこんなに多いのかと感嘆しました。

やっぱり『13・67』がおもしろかったので、似たようなどんでん返しの構造を持っている作品は巧いなという印象。
逆に、ショートショートとかはちょっと飛躍が大きすぎたり、ユーモアのある会話は(翻訳のせいか)ぎこちなく感じる部分があったりして、そういう作品を読みたいならこの作家でなくてもいいかなと感じてしまった。

「藍を見つめる藍」「作家デビュー殺人事件」「霊視」が特に好きでした。

あとがきで解説しているとおり同じ主題を変奏している作品もあり、「倒叙かと思いきや真犯人は別の人で、語り手は犯人と別の思惑で動いていた」という構造の話がいくつかあるんだけれども、どれもおもしろかったです。
さすが『13・67』の著者!

香港という舞台を強調した作品や、幻想に社会批判を織り込んだ短編もあり、読んでいる間、現在の現実の香港情勢が大変そうなのを思って祈るような気持ちになりました。
『13・67』のその後の世界を見ていきたい。

さて、以下各短編の感想を書いていきます。
内容に触れるところもあるかもしれません。

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つづきはこちら



「藍を見つめる藍」
ネットストーカーが現実に行動を起こす話。
猟奇殺人犯と思わせておいて実は……というひっくり返しがとても良かった。
いや、いろんな意味で犯罪は犯しているわけですが。
普通にヒロインがかわいそう。
ネットに個人情報を載せるのは危ないよね。

「サンタクロース殺し」
ニューヨークの浮浪者たちがサンタクロース殺人事件の話をする。
舞台立ても、ハッピーエンドになるところも、O.ヘンリーみたいな雰囲気。
1篇目とあまりに作風が違ってびっくりしたけどいい話だった。

「頭頂」
「狂っている」人にはただ世界の「本当の姿」を見えているだけかもしれない。
頭頂にいるものは何かとか、その人との関係とか想像してみるとおもしろい。

「時は金なり」
時間をお金に替える商売の話。
ちょっと世にも奇妙な物語っぽい。
このテーマでこういう話だとどういう結論になるかが分かりきっている感じで、ちょっと説教くさく感じてしまった。

「習作 一」
これにも感想を各必要があるのだろうか。文字通り習作の超短編。
叙述ではあるがあまりに短い。

「作家デビュー殺人事件」
作家を目指す青年がデビューの条件として提示されたのは、実際に人を一人殺してみることだった。
そんな、何それって感じの世界観で始まるけれども普通によくできたミステリでした。
でも現実はミステリの世界ではないので、トリックを弄しても警察の捜査は有能だし、名探偵が犯人だったりするんですよね。いや、ミステリの世界のできごとなんですけど。
良い弁護士がついて罪が軽くなるといいね、と思いました。むしろこれ弁護士視点でもおもしろい話になるのでは。逆転裁判的な感じで黒幕の人がぎゃふんってなるところが見たい。

「沈黙は必要だ」
あとがきで背景を読むと、香港……って気分になる。
沈黙は必要だという結論になる文章を書くというお題でこういう作品を書くのはおもしろい。発想の逆転ですね。

「今年の大晦日は、ひときわ寒かった」
猟奇殺人犯の話なんだろうけど、断片的なのと文体とでいまいち状況が理解しきれず、好みではなかった。

「カーラ星第九号事件」
SF的な舞台立てでのミステリ。
事件自体ではないオチはなんとなく読めていたんですけど、ロズウェル事件と結びつけるところはちょっと楽しかった。

「いとしのエリー」
妻の死を隠蔽する夫。
後にある「姉妹」と通じる構造の話。
こういう構造の話は好きですが、どうにもサザンの曲がちらつく。

「習作 二」
明かされる真実は重いが、なかなか状況が飲み込みにくい。

「珈琲と煙草」
目が覚めると、珈琲と煙草(と麻薬)が逆転した世界にいた男性の話。
スタバ的な煙草スタンドの光景はシュールでおもしろい。
「時は金なり」と同じようなSF的設定もあり、この人にも有能な弁護士とかつけてあげてほしいという気持ちにもなり。
私は珈琲が苦手なのであまり飲んだことないのだけれども、煙草や麻薬と入れ替える物語が成立する程度に常習性あるんですね……。

「姉妹」
香港らしい雰囲気の作品。
倒叙かと思ったら倒叙でした。

「悪魔団殺(怪)人事件」
悪の組織のジャガイモ怪人が何者かに殺害された!容疑者は、タマネギ怪人、カマキリ怪人など悪の組織の幹部たち。
――っていうあらすじを、この短編集を先に読んでた人から聞いて、この人ははぐらかすために嘘の話を作ったんじゃないかと疑ってしまったんだけど、冗談みたいなあらすじが本当だった。
どことなくフロシャイムを思い起こさせる牧歌的な悪の組織が読んでいて楽しい。
やっぱり、この短編集に出てくる人たちって、他の作品も含めて、単純な善人がかなり少ないよねと思う。犯人ではないが少なからず罪があったり、正義を推し進めるために人を殺したり。社会を書こうとするとそうなるものかもしれないが。

「霊視」
この短編集に入ってるショートショート的な作品のなかでこれが一番好きです。
幽霊が見える霊能者がその力を使って殺人事件を解決していたけれど……という話。
女性は怖い。
幽霊が自分を殺した人に憑いている、それを視て犯罪捜査をする、という設定が濱地健三郎を思い出させる。

「習作 三」
ここに載っている習作はどれも絵は浮かぶけれども、隠れた真相およびそこから導きだされるメッセージを伝えるには言葉足らずという印象が、後にいくほど強くなった。
市民が警察官に暴行したと思いきや、その直前に暴行を受けた警察官が別の人に暴力をふるっていたりする世の中なので、オーバーラップされる。

「見えないX」
大学の一般教養の「推理小説鑑賞」の授業で、犯人当てゲームが行われる。
いかにも知的遊戯という感じ。
初期新本格っぽい小説だよという呼び込みだったので期待して読んだら、事件が起こらず犯人当てだけがあったのでちょっとがっかりした。
読者にも解ける犯人当てになっているのだろうか。
私自身は、Xが誰かはそこ!そこ!ってなったんだけど、もうひとつの真相まではわからなかったです。オチはちょっとおもしろかった。
日本の推理小説やマンガ・アニメやテレビ文化はけっこう台湾に入っているのだろうか。かなり作中で言及があったので、気になった。
叙述トリックの代表として、綾辻行人と乙一が並ぶんだ……。
あと、毛利小五郎は別にジャイアンと違って、劇場版でも良くならないよね?映画にもよるけど、一本背負いの見せ場はあっても、推理力はあんまり上がらない気がする。むしろマンガでも、家族や友達が容疑者になったときは格好よく自分で推理してた。というのを主張したい。
上にも書いたとおり、この本を通じて、軽い口調の会話は翻訳の限界もあるかもだけれどぎこちないなと感じていたのですが、この「見えないX」は軽いノリでも楽しく読めました。最後だから慣れてきたのかもしれない。

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