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2024/05/08 (Wed)

『月まで3キロ』

友人がおもしろいと言っていたので読んだ本。

人生に悩みを抱える人たちが、科学(というかほぼ地学・天文学)に出会い、救われる。いわゆる「いい話」の短編集。
「いい話」なんだけれども押しつけがましい「感動」も「説教」もなく、普通の人の普通の悩みによりそって、地に足をつけて歩いていく力をもらえる感じでした。
話にもよるけど、基本的に、状況は変わらないんですよね。
死んだ人は還ってこないし、過去も変えられない。それでも会話を通じて考え方が少し変わって前向きになるみたいな。

それは、扱っているのが地学や天文学だからというのは理由のひとつにあると思うんですよね。
地質学的な過去も宇宙も壮大で悠久で、人間の力にはどうしようもないものだったりもするのだけれども、そういう壮大で悠久なものを知るために見るのは身近な石や月や雪だったりする。
身近なものだけれども、科学的な目を教えてもらって、知識をもったうえで見ると世界が広がる。
その世界の広がりが起こるのが、悩みに対してもあるというか
いい意味で相対化されるから前向きになれるみたいな。
ものすごくありふれた言い方をするなら、地球の歴史や宇宙の大きさの前では個人の悩みなんてちっぽけになるということなのかもしれない。
科学の書き方も淡々としていて、研究というものに敬意が見えて好感がもてた。地道に観察をしていくこと。資料と対話をすること。
雑学をひけらかすタイプの小説でもなかったので、本当に真摯にサイエンスを紹介しているように感じました。「エイリアンの食堂」で女性研究者への描写であったように、「科学的なことがらを誤解されるのが嫌なのかもしれない」。

そして、悩みを抱えた主人公が出会う人もまた悩みを抱えているというタイプの話が多かったのも、よかったです。
どちらもすごく普通の人で、こういうのも何だけど、ありふれた悩みなんですよね。つまずいた後、立ち上がれなかった人たちというか。私たちがいつそうなってもおかしくない、と思えるくらいのバランス。ドラマチックすぎず、卑小すぎず。
みんな、何かしら傷ついていて、それでも人と出会って前に進んでいくというメッセージに私は弱いのかもしれない。

語弊たっぷりに言うと「何も起こらない本」を久々に読んだ気がしますが、たまにはこういうのもいいなぁと思いました。

収録短編は6話。

表題作「月まで3キロ」は自殺しようとした男が、死に場所を求めて乗ったタクシーの運転手に「月に一番近い場所」に連れて行ってもらう。月に一番近い場所とはどこかがおもしろく、タクシー運転手の過去が重い。

「星六花」がいちばん好きでした。
男性不信気味のアラフォー未婚女性が、気象庁に勤める男性と知り合い、惹かれていく。
主人公の空回る感じとかが読んでいてきついところもあるんですけど、これもまた男性の過去が…。それでも彼女にとって、彼と出会えたことは幸福だと思う。
美しい花も、美しい鳥も、生殖のためにそうなっているにすぎないと考える苦しみ。そして雪の結晶の無機質の美に救われること。
ここの会話がとても胸につまって、好きでした。
作中に出てくる雪の結晶の撮影も、去年Twitterで見たのでリアル感があった。

「アンモナイトの探し方」
東京で中学受験と親の不仲に悩み、塾へ行けなくなった少年が、北海道で化石を掘る老人と出会い、自らも化石を探してみる。
これは他の短編に比べて、科学とのかかわりが薄いように感じました。
机上の知識だけはある少年が、体験を通して成長する的なよくある話に思えてしまった。

「天王寺ハイエイタス」
大阪のかまぼこ屋の3代目になる青年。その叔父で、元ブルースギタリスト、現プータローの過去を掘り下げる。
ハイエイタスがあったときの、叔父の気持ちを想像してみると、どうしようもなく切ない。才ある人が夢をあきらめる決心。一方で、才能のない流されるだけの人間がもつコンプレックスも、どうしようもなく分かってしまうことがつらい。

「エイリアンの食堂」
つくばにある妻を亡くした男の食堂に、素粒子物理学の女性研究者が毎夜訪れる。小学生の娘は彼女をエイリアンと怪しみ、それをきっかけに交流が始まる。
任期付き研究者としての生き方に対して、この話で描かれる好きだから根無し草でも、というのに寄り添いたいが別ベクトルで科学行政に対して憤りを感じる。
この話の肝になる部分の科学ネタが好きです。僕たちの血は、星屑の液体。

「山を刻む」
家族との関係に疲れた専業主婦が山に登り、山を刻む火山学者と学生に出会う。
えっ決断ってそれなの!?って思いました、正直。
あれだけ壊れかけた家族だの、家族に切り刻まれただの言っていたから、てっきり離婚とか不倫とかそういう系かと思ったよ……。
学生さんの、先生についての言葉がすごくよかった。「仕事なんて辛いもんだ、歯を食いしばってやるもんだ、なんて言うオヤジのもとで働いて、面白いわけないですもん」「実際、好きなことだけやって生きてる大人、初めて見ましたから。そんな人、マジでこの世に存在するんだって、結構衝撃で」

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