「藍を見つめる藍」
ネットストーカーが現実に行動を起こす話。
猟奇殺人犯と思わせておいて実は……というひっくり返しがとても良かった。
いや、いろんな意味で犯罪は犯しているわけですが。
普通にヒロインがかわいそう。
ネットに個人情報を載せるのは危ないよね。
「サンタクロース殺し」
ニューヨークの浮浪者たちがサンタクロース殺人事件の話をする。
舞台立ても、ハッピーエンドになるところも、O.ヘンリーみたいな雰囲気。
1篇目とあまりに作風が違ってびっくりしたけどいい話だった。
「頭頂」
「狂っている」人にはただ世界の「本当の姿」を見えているだけかもしれない。
頭頂にいるものは何かとか、その人との関係とか想像してみるとおもしろい。
「時は金なり」
時間をお金に替える商売の話。
ちょっと世にも奇妙な物語っぽい。
このテーマでこういう話だとどういう結論になるかが分かりきっている感じで、ちょっと説教くさく感じてしまった。
「習作 一」
これにも感想を各必要があるのだろうか。文字通り習作の超短編。
叙述ではあるがあまりに短い。
「作家デビュー殺人事件」
作家を目指す青年がデビューの条件として提示されたのは、実際に人を一人殺してみることだった。
そんな、何それって感じの世界観で始まるけれども普通によくできたミステリでした。
でも現実はミステリの世界ではないので、トリックを弄しても警察の捜査は有能だし、名探偵が犯人だったりするんですよね。いや、ミステリの世界のできごとなんですけど。
良い弁護士がついて罪が軽くなるといいね、と思いました。むしろこれ弁護士視点でもおもしろい話になるのでは。逆転裁判的な感じで黒幕の人がぎゃふんってなるところが見たい。
「沈黙は必要だ」
あとがきで背景を読むと、香港……って気分になる。
沈黙は必要だという結論になる文章を書くというお題でこういう作品を書くのはおもしろい。発想の逆転ですね。
「今年の大晦日は、ひときわ寒かった」
猟奇殺人犯の話なんだろうけど、断片的なのと文体とでいまいち状況が理解しきれず、好みではなかった。
「カーラ星第九号事件」
SF的な舞台立てでのミステリ。
事件自体ではないオチはなんとなく読めていたんですけど、ロズウェル事件と結びつけるところはちょっと楽しかった。
「いとしのエリー」
妻の死を隠蔽する夫。
後にある「姉妹」と通じる構造の話。
こういう構造の話は好きですが、どうにもサザンの曲がちらつく。
「習作 二」
明かされる真実は重いが、なかなか状況が飲み込みにくい。
「珈琲と煙草」
目が覚めると、珈琲と煙草(と麻薬)が逆転した世界にいた男性の話。
スタバ的な煙草スタンドの光景はシュールでおもしろい。
「時は金なり」と同じようなSF的設定もあり、この人にも有能な弁護士とかつけてあげてほしいという気持ちにもなり。
私は珈琲が苦手なのであまり飲んだことないのだけれども、煙草や麻薬と入れ替える物語が成立する程度に常習性あるんですね……。
「姉妹」
香港らしい雰囲気の作品。
倒叙かと思ったら倒叙でした。
「悪魔団殺(怪)人事件」
悪の組織のジャガイモ怪人が何者かに殺害された!容疑者は、タマネギ怪人、カマキリ怪人など悪の組織の幹部たち。
――っていうあらすじを、この短編集を先に読んでた人から聞いて、この人ははぐらかすために嘘の話を作ったんじゃないかと疑ってしまったんだけど、冗談みたいなあらすじが本当だった。
どことなくフロシャイムを思い起こさせる牧歌的な悪の組織が読んでいて楽しい。
やっぱり、この短編集に出てくる人たちって、他の作品も含めて、単純な善人がかなり少ないよねと思う。犯人ではないが少なからず罪があったり、正義を推し進めるために人を殺したり。社会を書こうとするとそうなるものかもしれないが。
「霊視」
この短編集に入ってるショートショート的な作品のなかでこれが一番好きです。
幽霊が見える霊能者がその力を使って殺人事件を解決していたけれど……という話。
女性は怖い。
幽霊が自分を殺した人に憑いている、それを視て犯罪捜査をする、という設定が濱地健三郎を思い出させる。
「習作 三」
ここに載っている習作はどれも絵は浮かぶけれども、隠れた真相およびそこから導きだされるメッセージを伝えるには言葉足らずという印象が、後にいくほど強くなった。
市民が警察官に暴行したと思いきや、その直前に暴行を受けた警察官が別の人に暴力をふるっていたりする世の中なので、オーバーラップされる。
「見えないX」
大学の一般教養の「推理小説鑑賞」の授業で、犯人当てゲームが行われる。
いかにも知的遊戯という感じ。
初期新本格っぽい小説だよという呼び込みだったので期待して読んだら、事件が起こらず犯人当てだけがあったのでちょっとがっかりした。
読者にも解ける犯人当てになっているのだろうか。
私自身は、Xが誰かはそこ!そこ!ってなったんだけど、もうひとつの真相まではわからなかったです。オチはちょっとおもしろかった。
日本の推理小説やマンガ・アニメやテレビ文化はけっこう台湾に入っているのだろうか。かなり作中で言及があったので、気になった。
叙述トリックの代表として、綾辻行人と乙一が並ぶんだ……。
あと、毛利小五郎は別にジャイアンと違って、劇場版でも良くならないよね?映画にもよるけど、一本背負いの見せ場はあっても、推理力はあんまり上がらない気がする。むしろマンガでも、家族や友達が容疑者になったときは格好よく自分で推理してた。というのを主張したい。
上にも書いたとおり、この本を通じて、軽い口調の会話は翻訳の限界もあるかもだけれどぎこちないなと感じていたのですが、この「見えないX」は軽いノリでも楽しく読めました。最後だから慣れてきたのかもしれない。
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