江戸時代に改暦を成し遂げた、渋川春海の物語。
関孝和との交流と、家の仕事である碁と、生涯を掛けた歴術と、そして恋。
この小説は改暦の話ではなく、貞享暦を作った渋川春海の人生を描いた小説なんだ、と思いました。
読んだ感じは思っていたよりも、あっさり風味だった。
だからこそエンタメとしておもしろく読めるものになっているのかもしれない。
和算も、歴術も、技術的な話を詳しくしていたらたぶん難しくて読めないのではないかと思われるので。でももうちょっとその辺の説明や解説がほしかったかな。分かりにくかったというよりも、読み応えという意味で。
文庫版で読んだので上下巻分冊だったわけなのですが、下巻の半分ぐらいになっても暦造りが軌道に乗らなくて、このページ数で足りるのか不安になった。
その後も期待したほど暦造りをしていたわけでもなく……。
主題のはずなのに、それ自体があまり描かれていない気がして、少し肩透かしをくらった気分。
むしろ後半は特に、それに伴う政治的根回しがメインだったように思いました。
そういうのの方が有名人絡んでおもしろいし、元ネタとなる史料も残ってそうだから、書きやすいのかもしれない。
ラストシーンは大河ドラマみたいだった。というよりも、こういう史実とフィクションの融合させ具合が全体的に大河ドラマっぽいのかもしれない。
そもそも、やっぱり私は時代小説苦手だと改めて感じた。この本はそこまででもなかったけど、それでも地の文のメタさが気になってしまう。
現代に生きる我々には馴染みのない世界の物語なんだから、ある程度は地の文での背景説明はある方がありがたいんだけれども、登場人物の知りえない、その後の事情や西洋の話なんかを入れられると、うわぁって思う。
完全に神視点の記述が嫌なのかなぁ。
とはいえ、水戸と会津の気質の違いについて、幕末を想起させる表現をしていたところは良かった。
あと、この辺の記述は何か史料に基づいてるのかな? みたいな想像をしながら読んでいたのは楽しかったです。合っているかは分からないけど。
エンタメだなぁとも思ったのは、キャラクターがとても魅力的だったから。
道策がかわいくて好きです。実際はともかく、才気に溢れた若い男の子で、主人公を慕っているというのが、キャラとしてとても完成されている。
それから、建部と伊藤とのシーンは胸が熱くなった。天地明察という言葉の意味が沁みる。
歴史に残る大事業は人との関わりがあったから成し遂げられたんだ、というのはよくある物語の定型だけど、ちゃんとやってはまるととおもしろいものなんですよね。
だからこそ定型になるんでしょう。
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