A女学院に勤めるニシ・アズマ先生を探偵役にした連作推理短編集。
連作短編だけれども一作一作はごく短いし、どこから読んでもよさそうな感じです。
日常の謎っぽい雰囲気なんだけど、殺人とか盗難とか普通に警察沙汰の事件が起こる。
おもしろかった。
北村薫が何かで紹介していたという話を聞いたのだけれども、ベッキーさんシリーズに通じる上品さがある気がします。連載されていたのが昭和30年代らしいですし、作中の時間もたぶん戦後で発表時期とそんなに変わらないだろうから、設定とかはだいぶ違うんですが。
ニシ・アズマ以下、登場人物が全員カタカナ表記なのが気になる。本名でないだろう呼び名の人もいたし、匿名性ということなのかしら。
実際、名前はどうでもいいような話ですしね。
主人公のニシ・アズマと同僚の鶯と院長先生ぐらいはいくつかの話に通じて出てくるけど、その人たち含めても記号でしかない。
というかたぶん、古い作品だし、キャラクターに興味ないんだろうと思います。一方で、ニシ・アズマの小柄で愛嬌がある顔をした見た目とか、推理をするときには似合っていない赤縁のロイド眼鏡かけたりとか、そういうひとつひとつの要素はうまく使えば魅力的なキャラクターものにできそうで、でも当時は(という話なのかしら)そういう観念はないんだろうなあ。
それと似たような話なんだけれども。
短い話だということもあって、犯人の動機が全く語られないのがちょっとだけフラストレーションでした。
愛憎という意味での動機はまあどうでもいいんだけれども、なぜ犯人がそういうかたちで犯行を行ったかというところは何かしらのエクスキューズがほしかった。
だって表題作の「黒いハンカチ」も、あの人は何者かが気になってしょうがない。
「蛇」は珍しく動機がどっちの意味でも説明されていたけれども、その推理が本当かは明らかになっていないわけで。
この作品集の主眼が「探偵はどのように真相に気づいたか」というところに置かれているから、動機だの犯人の人となりだのが描かれないんだろうと思います。
どのように、といってもニシ・アズマが鋭い観察眼をもっているからといったことになるのだけど。そしてタイトルになっているものがだいたい一番の手がかりになるアイテムなのですが、だからといって展開がわからないのがすごい。
着眼点に関しては「時計」が一番好きです。びっくりしたし、納得した。
ただ、単調なのでずっと読んでるとちょっと飽きてきてしまいますね……。
これはどうでもいいことなんですが、主人公が教師のわりには生徒が特に出てこないし事件とも関係しないのが不思議な感じがしました。
雑誌の読者層が成人女性だからとか、当時としては女性の職業で知的なものは教師ぐらいだったとか、そういう理由なのかしら。
っていうかニシ家ってたぶんそれなりにいい家ですよね。アズマも働いてはいるけど、お金に困ってなさそうだし友達も裕福そうで、上流階級って感じ。ほんとうの貴族というよりは実業家とか知識人とかそういう系の。
だからベッキーさん思い出したのかも。
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