住宅街に置かれた貨物列車の車掌車で、週末だけの探偵事務所を始めた男2人が、ささやかだけど不思議な謎を解く話。
うーん、おもしろくなかったわけではないのだけれども、期待していたものではなかったという感じです。
私は『夜の床屋』読んで何が一番おもしろかったかって、謎の不思議さ綺麗さももちろんだけど、そこから真相への飛躍の大きさだったんですよね。なんかいきなりファンタジーになったりとか。
だから、そういうのを期待していた。
でもこの『週末探偵』は、そこの部分がなくなって、よくある普通の日常の謎連作短編集みたいだった。
よくある普通の日常の謎短編集、別に悪くはないしある程度はおもしろいのだけれども、私がこの作者で読みたかったのはそこの部分ではなかったです。
普段は会社員をしていて、週末だけ探偵事務所を開く。しかも本業の妨げにならないよう、扱う謎は緊急性がなく犯罪に関わらない、些細だけれど魅力的な謎に限る。という設定はおもしろいなと思いました。
探偵が解くのが日常の謎であることを、ある意味で合理化している。もちろん、解いたら犯罪につながったということもある。
2人が探偵事務所にしている鉄道車輌だって、なんでそんなところにあるのか……ってのが「最初の事件」なのですが、実際に謎はとてもおもしろいんですよね。
現実と地続きのようで、少しだけ浮遊しているくらいの、気にしはじめると気になってしまうような、謎の「ささやかさ」のバランスが絶妙です。
ただ、謎だけを取り出したら不思議な状況なのだけれども、付随する説明を読んでいたらわりと「こういう方向性の話なのかな」という予想ができて、そしてそれはそんなには大きく外れない。
解けて嬉しいというよりも、もっとひねりがほしかった!ってなります。
特に帽子とか蝉の話でそう感じました。
謎の魅力でいうと、「桜水の謎」が好きです。
川を桜の花びらが流れていく、けれどもその川の上流には桜の木は1本もないはず――。
この短編は、真相に着地するまでの距離も比較的大きくて、その点も好きです。
短編集の中で一番、「いやいやまさか」って思う真相。
短編の中では他に「探偵たちの雪遊び」も好きなのですが、こっちは謎がない話です。倒叙っぽいとはいえ別にミステリをしていない話なんですよね。ただ雪遊びしているだけ。だから好きなのは、視点人物の少年に寄り添う気持ちになるからかもしれません。
探偵が2人いるのだから、キャラクター重視のバディものっぽい話になるのだろうかと思ってたら、全然そんなこともなかったですね。
探偵たちと周りの人々・依頼人という軸では、人間関係も描かれていたのですが、探偵同士の関係性は無に近かった。お互いがお互いをどう思っているかということが、特に何もなかった。べつに、BLとかブロマンスとかそういうのでもなく。
っていうか、探偵2人のキャラの書き分けを特に感じられなかった。
探偵が2人いるのは、たとえば議論したり勝負したりで、探偵役が1人の場合より試行錯誤する部分を不自然ではなくスピーディにするためなのかとは思ったのだけれども。そこで、どちらがどういう推理をしがちみたいなキャラ付けがあったらよかったのかな。
最後の2編は、そこまで「事件」にならなくてもよかったかなと思ってしまった。それよりも、ささやかで、不思議で、美しい謎をもっといろいろ読んでみたかった。
十五夜の猫ちゃんも、気になります。
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