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2024/05/20 (Mon)

『13・67』

ものすごくおもしろかったです。今年読んだ中でもトップレベルに。

香港警察で「天眼」と呼ばれた名探偵クワンの物語で、1話目が2013年死の床に伏したクワンの最期の事件、6話目が1967年を舞台に若い頃経験した最初の事件、という風に時代を遡っていく構造の短編集。
同時に香港の街と香港警察の五十年史を描いた小説でもある。
香港の地理や歴史はほとんど知らないので(香港島と九龍半島に分かれてることも曖昧だったレベル)、若干読みづらいというかとっつきにくいところはあったのですが、そういうものなのかと思いながら読んだ。警察腐敗しすぎでは。

とにかく、1話目のシチュエーションの掴みがすごい。
かつて名探偵と謳われた人が病気で死にそうでほぼ意識がないような状態だけど、脳波測定装置をつけてYES・NOだけ表せるので、事件関係者を病室に集めて取り調べをする――というシチュエーション。
ちょっとソラチルサクハナ思い出しました。あれはYES・NOの間を探るためのものだったけど。
本当にYESとNOだけで真相を突き止めていておもしろいなと思ったら、さらにそこからもう一捻りあって、とにかくすごかったです。

そして読み進めていって6話目の最後までいくと、1話目に戻りたくなる仕掛けになっているのがとても熱い。
運命的なものを感じる。
覚えていたのだろうか、と感傷的な気分で想像してみるけど、そうだとしても変わらなかったんだろうな。
6話目から1話目への繋がりがあることによって、クワンの人生の物語であるこの小説がひとつの物語になっているような気がしました。


2話目から5話目までも、それぞれ凝ったつくりの推理小説ですごくおもしろいんだけど、全部の短編が凝ってて丁寧なせいで、この描写があるってことはこういう話だろうという推測が容易にできてしまったのが少し残念だった。
特に3話と5話。
話が複雑なので当然のように犯人も頭がいいので、読み合いや細かい穴を潰していくところが若干読んでいてかったるく感じることがありました。
なんていうか、感覚的にはそういうことだろうってわかってるのになかなかそこに到達してくれない、みたいな。

とはいえ、ロジックが丁寧でクワンの推理の糸口や経緯を説明していたところは好感度高かったです。
「天眼」と謳われて極端に言えば一目見ただけでも真相を解き明かせるような人だから、どこを見てどんな違和感を持ったかが書いてあるとすっきりする。
地の文が俯瞰的な視点でクワンの考えが書かれるところがあるにも関わらず、推理の様子は会話の中で説明されていたところが、興味深いなと思いました。


キャラクターについて。
登場人物がみんな地に足がついている感じだった。
なんだろう、警察官である前に人間であることを重視してるような価値観の作品だからかな。
クワンも名探偵なんだけど、すごく人間的な感じがしました。“ドケチ”だからかもしれませんが。普通に奥さんとかもいるし、同僚とも部下とも良い関係作ってるし。
……というと「名探偵」に人非人のイメージをもっているような感じになってしまいますが、わりとそういうところはありますよね(笑)

クワン以外のキャラクターでいうと、ロー警部の成長が著しくてびっくりした。
若かった頃から素質というか片鱗はあったけど、まだ初々しかったり、失敗にへこんだりしていたのが、最後には(つまり、第1話では)クワンの後継となるほどの捜査力を持っていて。
語られているところやそれ以外のところで、クワンから薫陶を受けたんだろうというのが想像できるので、なんだかあったかい気持ちになる。
この小説はクワンの警察官としての一代記だったけれども、彼が去った後も香港も警察組織も事件も変わらずにある(だってこれを読んでいる今は2013年よりも未来だから)。普通の名探偵なら舞台を去って終わりでもよいけれども、警察は個人がいなくなっても組織として続けていかなくてはいけなくて。たとえ官僚主義に堕そうとも、だからこそ市民を守れる人を残さなくてはならない。
だから次世代を育成して代替わりすることが(舞台を去ることよりも)大事な要素だったのではないかと思うのです。
だから1話目はああいう構成だったのでは、と。あの構成が驚かせるためだけじゃなくて、テーマみたいなところでも意味を持っていてほしいというだけなのですが。

2014年以降の香港と警察の物語も読んでみたいと思うし、1967年から2013年の間の、描かれなかった場面もいろいろ読んでみたいです。
ツォウ兄やラウやヒルとクワンの話とか。
っていうか、てっきり在英中の話がどこかに出てくると思ってたら、完全にスルーでしたね?


それぞれの短編について手短に感想を。
結末に関する重大なネタバレを含みます。

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「黒と白の間の真実」
これはもう、上でも書いたとおり最初のシチュエーション(YES・NOだけで推理する安楽椅子探偵)が興味を惹くのはもちろん、それが全部ひっくり返されるのが本当に凄すぎる。
そりゃね!2013年にはまだそんなにテクノロジー発達してないだろうとか、それはそうなんだけど。海外のことだしフィクションだからそういうものなのかなって思っちゃってたわ。
それで、頭が良くて周到な犯人をどうやって罪に問うのかと思ったら意外な手段を使っているのもおもしろかった。
王冠棠が警察官になっていたらどうだったのだろうと考えてみるのだけれども、クワンの人生を運命づけたあの台詞もたぶん本心から信じて言ったわけでもなかったのだろうし、4話目の人のようになるのがオチなのかなと思うんですがどうなんでしょうね。
1話目の話じゃなくなってきたのでこの辺で。

「任侠のジレンマ」
個々の短編の中では一番好きでした。
理由は、どんでん返しが多いから。こういう事件なのかなと思った構図が次々に覆されていくのが快感でした。
仕掛けのスケールの大きさも楽しい。
まぁ、ツッコミどころはいろいろあるんですけどね。そんな大規模なオペレーションができるのかとか、嘱託で顧問だからって好き放題しすぎだろうとか、そもそも囚人のジレンマならぬ任侠のジレンマがそんなにうまくはたらくのかとか。

「クワンのいちばん長い日」
クワンがCIBを退職する日に起きた、凶悪囚の脱走事件と硫酸爆弾事件とその他いろいろな事件。
ここまで2話で、この人はありとあらゆる伏線を回収してひっくり返す話を書く人だ、って認識ができてしまっているせいで、同日に起きたいろいろな事件も繋がってるんだろうって想定できちゃうし、逃げたと思わせて隠れていたのも病院で入れ替わるのもよくあるパターンなので、おもしろいけど読めてしまうのが難点でした。
これはむしろ倒叙として読んでみたい。収監された状態で、いったいどうやってここまで入念な計画を立てて実行に持っていったんだろう。

「テミスの天秤」
3話目で脱獄した石本添の弟の事件。3話目で因縁があった風に書いてあったわりに、クワン自身は石本勝とは直接対峙してなかったんですね。しかも、石本勝の凶悪性が3話目で語られていたほどには感じられなかったというか。犯人が凶悪すぎる。頭が良くて権力あるクズって手に負えないですね。
この話は、なんとなく好きじゃなくて。なんでだろうって考えたら結局、クワンが「負けた」のがもやもやしたということなのかな。
そして、石本添を逮捕するところは書かれないのかってことが何より衝撃的でした。
木の葉を隠すには森の中的な、シンプルな構造はおもしろかったです。
ロー刑事が若かった。弁当屋さんでびくびくしてるところがかわいい。
上司の命令に背いても目の前の命を優先するのは、経歴が「綺麗じゃない」のがこういうのばっかりならかわいそうだなと思いました。この件に関しては、その結果殺されなくて良かった。

「借りた場所に」
クワンの物語というよりも、香港警察史の一幕という印象が強かった。
被害者の立場と仕事が説明されていた段階で、まぁそっちが目的ですよねー。
誘拐もので身代金の授受のためにあちこち移動させることで、在りし日の香港を描くことが目的のひとつだったのかなと思いました。
クワンが不法侵入しているシーンは、いろんな意味でハラハラした。え、まさかそっち側だったの……って。
ラストの台詞にはほっこりしました。

「借りた時間に」
これも、この話自体は香港戦後史の側面が強かった。そのために説明が多くて、ほかの短編に比べて少し読みづらかったです。
ほかの話に比べたら、事件の構造自体は単純ですし。
これもあちこちに移動することで、香港を描くのがメインだったのかな。
一人称視点で、語り手は誰なのか、クワンはどこにいるのか(どちらなのか)というのがずっと疑問に思っていたら、最後に明かされた真実がもう凄かった。
警察官としての在り方を決定づけた人が、人生の幕を引くというのはとても運命的で熱いですよね。
クワンがむしろまだ才能を開花させていなかったので、10年間で何があったのかが気になって仕方ない。
ロー警部もだけれども、この物語の中での「名探偵」は天賦の才ではなくて、資質がある人が努力をすることで身につけた技能だったんですね。
思えば、「最後の事件」は最後ではなかったし、「最初の事件」も最初の事件ではあるけどまだ名探偵ではなかったので、この作品を紹介する文からしてトリックが仕掛けられてたんですね。

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『放課後の音符』

この物語を読むのも初めてですが、山田詠美を読むのもこれが初めてでした。
避けていたというよりも、アンテナに引っかかってこなかったという感じ。

うーん、中学生や高校生の頃に読んでいたらもうちょっと違う受け取り方をしていたかなぁと思います。
というのも、この本で描かれている恋愛って、一歩先が性愛に繋がっているものなので。なんていうかそういう現実さみたいなものと「少女」は遠いものであってほしいという幻想を私は抱いてしまっているから。
20代半ばになってこう言うのもあれだけれども、私は「女の子」でありたいと思っているんです。「女」にはなりたくない。実際はとても性格や行動が女性的であるのも自覚しているんだけれども、無性に憧れたりもする。
私はそういう感覚をもっているので、いつか羽化して「女」になっていく「女の子」を肯定的に描いたこの作品は、あまり沁み込んでこなかったです、残念ながら。
でも中高生の頃はそこまで自分のそういう感覚が確立していなかったので、この作品に何かしらの影響を受けられたかもしれないなと思います。
実際にその頃読んだもののなかで、この本と近いのって梨屋アリエだったのかもしれない。『プラネタリウム』とか。でもあれも内面描写はともかくとして、起きていることはだいぶ浮世離れしたファンタジーなので、結局そういうことなんだろうなと思っているわけです。


語り口のお洒落さや、「大人と少女が微妙に混じり合ってる」時期の繊細な感性の描写は好きでした。
言葉選びが本当に美しいですよね。
「Red Zone」の金木犀の匂い云々のところなんかすごくはっとする。
小道具の使い方も素敵でした。香水や、口紅や、お酒。
あと情景が映像的に想像しやすかった。
一方で、登場人物たちはなんとなく全体的に靄がかかっているような印象でした。
感情や感覚はすごく書かれているので彼女たちがどういう人なのかはわかるけれども、語り手を含めて存在感が薄い感じがしました。「その人」であることを限界まで希釈して、どこにもいそうな誰かにしている感じ。
普段読んでいるようなエンタメ小説の「キャラクター」の在り方とは違う書き方。

女子高生が主人公で、読者層も同年代を想定していそうなのに、登場人物たちが普通に飲酒喫煙セックスするのがすごくセンセーショナルな感じがしたのですが、教育現場とかで問題になったりはしなかったのかしら。
法的倫理的にグレーなものが書いてあっても、それ自体は問題ないことだと思うんです。それでもこの小説は思春期に読まれてこそのものだと思うから。
でも、だってこんな美しい文章で書かれていたら、自分も試してみたくなるじゃないですか。

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『カブキブ!7』

ついに最終巻でしたね。
最初から最後まで、これで終わりだっていう雰囲気が濃厚で、途中で登場人物が「この舞台が終わらなければいいのに」みたいなことを思うんですが、読んでいる私もその心情にシンクロした。この物語が終わらなければいいのに、って。
角川キャラクター文庫だし、2クール目あるかなとちょっと期待してる。

ただなんていうか、これも似たようなことが作中で書かれていた気がするけど、この作品って「今、この瞬間」の物語なんですよね。
今、この舞台を成功させることだけが大きな目的で、その先の長い人生のことは考えていないというか。
だから、続きがまったく想像できないんです。物語としての続きがどう描かれるかだけではなくて、文化祭公演が終わって3年生が引退したらカブキブはどうなってしまうのか(人も手も足りなくなりそう)それ以上に、たぶんあの部活はクロが引退したら成り立たなくなるのではないか。
部活ものって、主人公が一人の個人でも、その部活としての新陳代謝がおもしろいところのひとつかなと思うのですが。1年生3人組がまわしていくのとか想像できない。
逆にドラマのウォーターボーイズみたいに、初代の世代から数年後の伝説も栄光も今は昔みたいになった部活の話は読んでみたいかもしれません。
部活の未来もだけど、登場人物の進路も想像できない。
歌舞伎だと、部活でやってたからといってその道で生きていけるものでもないでしょうし。まぁ冒頭のシーンのあれで、プロになる道筋も開かれたかなとも思うんですけど。
ほかのキャラクターも、技術持った人はその方面にいくのかなと期待しているけど、むしろそうじゃない芳先輩とかが進路に悩むのを読みたい。


今回は、いろんな人の視点で描かれていたのが特徴的だった。
主人公や部員たちの視点もあるけど、たいていはもっと遠い立場の人。この世界に存在していたはずだけど、今までは会話の中で存在が明かされるだけだったような人が多かったです。
家族とか、恋人(?)とか。
まぁ今までにも、文化祭の三人吉三公演シーンも特に名前がない一般客視点だったりしたので、上演されてるところを書くには舞台に立ってる人よりも観客の方が適しているのかなと思った。
なにせ、今回は半分近くが歌舞伎だったので。
こんな人視点もあるんだって驚きもあったけど、ちょっと細切れな感じもしました。

歌舞伎の上演されてるシーンがじっくり読めたのはよかったです。
そもそも毛抜がどんな話かも知らなかったので、気になってた。あと、台詞の書き換えももちろん原本知らないけど、どういう工夫したのかも興味があったので。
台詞含めた細部はアレンジしたものだと思うので、動きとか衣装とかも気になるし実際に見てみたいかなと思いました。字幕付き映像とかで。
あるいはそれこそアニメ2期。


ただ、部員以外の視点が多く、舞台の上で進行するものの描写で物語が進んでいってしまうと、どうしてもレギュラーキャラクターについて物足りなさを感じた。
このときどう思ってたかというよりは、描かれなかった場面でどうしてたかみたいなことが。

これまでの巻で読んでて回収されるフラグなのかなと思っていたのが特に触れられずそのままだったのが、若干気になってる。え、あの件はどうなったの?って。
芳先輩の恋とか。は、たぶんでも特に進展もしないのではないだろうか。キャラクターの性格的に。
あと、クロの父親が明らかになってないのも、何かあるのかなと思ってたんですよね。

それと、渡子ちゃん。
彼女の心情が、そっちだったかってのは意外ではありましたが、だったらなおさらもっと掘り下げてほしかった。
掘り下げてというよりはなんだろう、クロとちゃんと向き合って(物理的に)、何かしらの決着をつけてほしかったんだと思う。
顔を合わせて決着をつけられる子じゃなさそうだけども。
見つけてくれたのが彼女だったってので終わりにしないで、もうちょっと踏み込んでよ。といいつ、心情がどうあれクロのほうもされたことを許せないだろうし難しいだろうなぁ。
許されないことが救いになるパターンかもしれないけど、それならオレンジジュース投げつけられたときがピークで話は終わってしまうんですよね。それもなんだか物足りない。
いやだってさ、大勢の似たものの中から一人を見つけるのってクラバートって思うんですよね。だったらそれはもう愛じゃん。いくら六方踏むとか分かりやすい挙動してたとはいえ。

蛯原も、カブキブのことがめちゃくちゃ気になってて、ピンチのときには駆けつけて助けてくれるのはとてもかっこよかったし良いツンデレだった。かわいい。
号泣するお母さんもとても良かった。
何も言わずに去っていくところまでも彼らしいし、舞台には立たないのが落としどころなのは納得がいく。
けど、物足りないと思っちゃうんだよね。
でも蛯原くんに関してはこれが文化祭に関わる最高のかたちだとも思うので、結局のところ最終巻だからこれ以上彼の物語を読めないと思うから物足りないんだろう。

最終巻という雰囲気は濃厚で物語としてはそれなりに美しい終わり方だったけど、全体的にあっさり味で、これで終わってしまうのは寂しい気がしました。
特にキャラクターが。
打ち切りみたいな感じだったのかな?


書かれていたことでいうと、阿久津の屋号にはしんみりしたし、遠見先生に影響を受けた生島さんに萌えました。
ところで最終ページのイラスト、一人誰か分からないイケメンがいたんだけど、消去法的にあれが生島さんなの?
左上端の人。
モジャモジャしてないのはいいとして、もっと斜に構えたような顔だと思ってた。

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『屍人荘の殺人』

おもしろかったです。
これはもう、設定勝ちだと思う。

その設定のところをなぜかツイッター上で見かける感想などでは伏せているのが謎なんですけど。
見ようとしなくても見えてしまう、ツイッターという場だからこそ伏せてたのかもしれないけど。
このタイトルで新しいタイプのクローズドサークルって聞いて、そういう感じかなとは読む前から想像できていたとはいえ、それはオープンにしたほうが興味を持つ読者層に広まるのではないかなと勝手に思っている。
ミステリにおいて、ネタバレってどこからなんでしょうね。
ミステリというのははじめに謎を提示してそれを解き明かすことを物語の中心においた作品だと思うので、中心となる謎の答えを明かされてしまうとおもしろさが減るのはわかるんです。犯人は誰か、どんなトリックを使ったのか、なぜそういう行動をとったのか。探偵役はなぜ真相に辿り着いたのか。
一方で、謎それ自体ではなくても、ストーリーを追う上で先に知ってしまうと興醒めする内容を伏せることもありますよね。誰が死ぬかとか、その物語の中で登場人物たちはどう行動するかとか。
この作品について殊更に隠されている要素は、確かに後者であるけれども、事件や物語の前提でしかないと思ってしまう。たとえば『名探偵コナン』で灰原哀は何者か、くらいの。

そんな感じで、私自身は伏せる必要を感じないんだけれども、念の為ワンクッションおきます。
続きからはネタバレ(誰が死ぬかや、犯人も含めて)ありますのでご注意ください。

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というわけで、別荘の周りをゾンビに取り囲まれてクローズドサークル!という設定がもう楽しいですよね。
私はほとんど映画を見ないので、ゾンビに思い入れとかは特にないんですけど、外部との連絡が不可能なのと一歩間違えればみんな死にかねないぎりぎりの極限状態なのが良かった。
そしてそんな状況でなぜ殺人事件が起きたのかという謎の設定も興味をひかれる。

文章のノリが軽いのでこんな状況なのに深刻になりすぎず、かと言ってマンガっぽすぎずにリアリティはあるくらいのバランス感覚が上手いなと思いました。
ゾンビが出てくる時点でリアリティも何もないですけど(笑)
登場人物もわりと、キャラっぽいわりに実際にこういう大学生いそうで人間味があって、それだから最後に明かされた犯人の動機が薄っぺらくならずに響いてきたような気がします。

その一方でヒロインがなんていうかすごくキャラでしかない感じがした。
たぶん作者はヒロインに思い入れがあるのだと思うんだけど、そのせいで設定盛りすぎててリアリティレベルが一人だけ違う。
体質の話も、行く先々で事件に巻き込まれる「名探偵の業」のようなものをそう言っているんだと思うけど、嘘っぽく聞こえてしまう。
いや、これは私が単にヒロインのこと嫌いだから一から十まで気に入らないだけなのかもしれないですが。
物語としておさまりがいいのはわかるけど、どうしても「この泥棒猫!」という感情を抱いてしまう。
助手がほしいなら自前で調達しろよ、人のもの奪おうとするなよ、って。
この主人公が良かったのではなくて、ワトソン役をやってる人が身近にいたから誰でもよかっただけなんじゃないかとも穿ってしまう。


ゾンビに対処しようとするときに、基本的には映画に出てくるゾンビを想定して考えているところで、読みながら本当にそれでいいのって思った。
作中のゾンビの設定が映画由来のものだとしても、登場人物がそれに疑問をもたないことに違和感。
ゾンビは人間や社会を反映するってのも、それはあくまでゾンビの出てくる物語だからそうなのであって、ゾンビ自体にそういう要素があるわけじゃないと思うんだけど……。


私は小説を読むときに、基本的には物語の中の登場人物は物語の中だけが世界でそこを現実と思って生きているものとして読むんです。
登場人物が現実に生きていると思うと別に普通なんだけど、作者が書いていると思うとどうも気持ち悪いなって感じる部分がありました。
登場人物の名前の語呂合わせを始めるシーン。
知らない人だらけの集まりに行ったときに特徴と名前を関連付けて覚えようとするのは、そこまですごく不自然ではないと思う。けど、それだけじゃなくてこれは推理小説なので、その先の話をスムーズに進められるように挿入されたシーンだというふうにも感じてしまって、その意図はなんとなく居心地が悪い。
見たくない舞台裏が見えてしまう感じというか。
他のキャラクター名前と性質が結びついているとしたら、主人公やヒロインもそうなのだろうか。
明智恭介は名探偵を体現したかのような名前だけど。
ヒルコは生まれることができなかったものだから、死ねなかった死体に対抗できるのかなという妄想をしてみたり。とはいえ、子供にそんな名前をつける親の気がしれない。


これは伏線っぽいなと感じる文章が多いわりに、別にそう感じた部分が謎解きに使われたわけでもなかったのが不思議だった。
本当に伏線になっていた、たとえばあの人の靴のことだとか、扉の隙間から目を合わせたとかはすごく自然だったのでなおさら。
部屋や建物の構造を説明する文章が長くてたどたどしかったから、伏線っぽいなと思ったような気がする。


ところで、初っ端からかなりミステリに関する話題が書かれていて、楽しいと同時に若干辟易しました。
ミステリはジャンルへの自己言及性が強いジャンルだとはいえ、ここまでとは、って。
あとそういうのって名前を明らかに出すのは物故作家の作品だけかと勝手に思っていたので「綾辻行人の館シリーズ」というワードが出てきたのには驚いた。

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『その絆は対角線』

カルチャーセンターで知り合った、育ちも性格も学校も違う中学生女子4人の交流を書いた『日曜は憧れの国』のシリーズ2作目。

タイトルのとおり、一方通行の憧れが四角形を描いていた4人の、対角線の関係に焦点を当てた作品だったと思うんですけど、タイトルのセンスがもう最高ですよね。


確かに前作以上にミステリ要素が薄かったけど、それはもはや問題ないというか。
むしろ1話目と2話目で、"友達に何を言うべきか"とか"あの人はなぜ怒ったのか"みたいな人間関係上の課題をミステリ的な謎として設定してるのが興味深かった。
そういうのも日常の謎ものでときどきあるような気もするんですけど(ふたりの距離の概算とか)、この作家/シリーズでやるのかという驚き。
毎回事件が起こるのもそれに女子中学生が首を突っ込むのも、続くといつか不自然に感じてしまうと思うので、シリーズが続くならこういう方向の謎もまたあったら良いですね。
実際、今回も3話目や5話目はちょっとなんでこの子たちが捜査してるのを周りの大人は許可してるんだろうと思ってしまったので。
3話目以降は人間関係の謎ではなくてもう少し事件っぽい感じのことが起こっていた。
ただ、3話目は推理合戦しているとはいえ真相が結局分からないものだし(途中にあったものはすごくそれっぽかったけど)、4話目は「犯人」を探して捜査はしているけど答えを知ったのは偶然なので、5話目がいちばんミステリっぽかったと思う。知識ネタ自体はありふれたものだけど、それによって明らかになった真相がおもしろかった。


そこそこの能力がある人が、さらにすごい才能を持っている人に劣等感や憧れを抱く話というのは、ルヴォワールシリーズもそうだったように、円居先生が書きたいテーマなのかなと思う。だから、きっとこの物語を必要とする読者がいるんだろう。4話目で語られていた「魔法」みたいに。
たぶん私ももっと若い頃に読んでいたら、というよりももっと遠いところで読めていたら素直に悶えていただろうなという気がします。
で、そのテーマがすごく出ているのが今回の3話目と4話目でしたね。
「本物と偽物」を達観してしまうには中2は早すぎるんじゃないかなと、個人的には思うんだけども。ぬるい人生しか送ってきてないからそう感じるだけなんだろう。
3話目は「本物と偽物」の話ではあったけど、それは前提でこの話の中では『巨人の標本』みたいに鮮烈な体験がないから、ただ鬱屈しているだけみたいな感じがしたのが少し微妙だった。いや、それが絶対的な価値ではないという結論なのだからそういうものなんだろうけど。
ともかく、真紀にとっては公子は「本物」なんだけど、4話目では公子が自分が(少なくともまだ)「本物」ではないと思い知る話で、その構造がすごくいい。
4話目の、創作を志している人たちが段違いにすごい作品に出会って思い悩むのは、身に覚えがあってとてもしんどかった。ただうまくまとまりすぎている感じもしたので、もっとプリミティブな感情で刺されたい。
3話目で本物か偽物かよりも意味と価値のある経験が大事という結論に至ったのが最終話のラストの方に効いてきていたのが、こういうふうに回収するのかと面白かった。


今回のメインキャラクターのエリカ・ハウスマンは、個人的には最初からどうも好きになれないタイプの人だなと思ってたら案の定だったわけですが、私の個人的な好き嫌いはともかくとして4人が彼女に抱いている感情と彼女から4人への態度がそれぞれ違っていて、それがキャラクターの性格とかを考えるととても納得できるものだったのがおもしろかった。


ところで逆転裁判ノベライズ読んだときの感想にも書いたような気がするんだけど、地の文がびっくりするくらいぎこちなかったように感じた。
会話はすごく良いのに、その間にはさまれる文が唐突だったり誰が何をしたのかよく分からなかったりということが多かったです。
ページ数や文量に制約でもあったのかしら。
べつに今までの作品ではそんなに地の文が読みにくいとか感じたことなかったので、なんだか不思議。



これはたぶんここに書いても通じる人ほとんどいないと思うし、めちゃくちゃネタバレなので何がどうとは言わないけど、国際問題だ……と思いました。

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