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妖怪と神話とミステリと甘いものが好き。腐った話とか平気でします。ネタバレに配慮できません。

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2024/04/29 (Mon)

『13・67』

ものすごくおもしろかったです。今年読んだ中でもトップレベルに。

香港警察で「天眼」と呼ばれた名探偵クワンの物語で、1話目が2013年死の床に伏したクワンの最期の事件、6話目が1967年を舞台に若い頃経験した最初の事件、という風に時代を遡っていく構造の短編集。
同時に香港の街と香港警察の五十年史を描いた小説でもある。
香港の地理や歴史はほとんど知らないので(香港島と九龍半島に分かれてることも曖昧だったレベル)、若干読みづらいというかとっつきにくいところはあったのですが、そういうものなのかと思いながら読んだ。警察腐敗しすぎでは。

とにかく、1話目のシチュエーションの掴みがすごい。
かつて名探偵と謳われた人が病気で死にそうでほぼ意識がないような状態だけど、脳波測定装置をつけてYES・NOだけ表せるので、事件関係者を病室に集めて取り調べをする――というシチュエーション。
ちょっとソラチルサクハナ思い出しました。あれはYES・NOの間を探るためのものだったけど。
本当にYESとNOだけで真相を突き止めていておもしろいなと思ったら、さらにそこからもう一捻りあって、とにかくすごかったです。

そして読み進めていって6話目の最後までいくと、1話目に戻りたくなる仕掛けになっているのがとても熱い。
運命的なものを感じる。
覚えていたのだろうか、と感傷的な気分で想像してみるけど、そうだとしても変わらなかったんだろうな。
6話目から1話目への繋がりがあることによって、クワンの人生の物語であるこの小説がひとつの物語になっているような気がしました。


2話目から5話目までも、それぞれ凝ったつくりの推理小説ですごくおもしろいんだけど、全部の短編が凝ってて丁寧なせいで、この描写があるってことはこういう話だろうという推測が容易にできてしまったのが少し残念だった。
特に3話と5話。
話が複雑なので当然のように犯人も頭がいいので、読み合いや細かい穴を潰していくところが若干読んでいてかったるく感じることがありました。
なんていうか、感覚的にはそういうことだろうってわかってるのになかなかそこに到達してくれない、みたいな。

とはいえ、ロジックが丁寧でクワンの推理の糸口や経緯を説明していたところは好感度高かったです。
「天眼」と謳われて極端に言えば一目見ただけでも真相を解き明かせるような人だから、どこを見てどんな違和感を持ったかが書いてあるとすっきりする。
地の文が俯瞰的な視点でクワンの考えが書かれるところがあるにも関わらず、推理の様子は会話の中で説明されていたところが、興味深いなと思いました。


キャラクターについて。
登場人物がみんな地に足がついている感じだった。
なんだろう、警察官である前に人間であることを重視してるような価値観の作品だからかな。
クワンも名探偵なんだけど、すごく人間的な感じがしました。“ドケチ”だからかもしれませんが。普通に奥さんとかもいるし、同僚とも部下とも良い関係作ってるし。
……というと「名探偵」に人非人のイメージをもっているような感じになってしまいますが、わりとそういうところはありますよね(笑)

クワン以外のキャラクターでいうと、ロー警部の成長が著しくてびっくりした。
若かった頃から素質というか片鱗はあったけど、まだ初々しかったり、失敗にへこんだりしていたのが、最後には(つまり、第1話では)クワンの後継となるほどの捜査力を持っていて。
語られているところやそれ以外のところで、クワンから薫陶を受けたんだろうというのが想像できるので、なんだかあったかい気持ちになる。
この小説はクワンの警察官としての一代記だったけれども、彼が去った後も香港も警察組織も事件も変わらずにある(だってこれを読んでいる今は2013年よりも未来だから)。普通の名探偵なら舞台を去って終わりでもよいけれども、警察は個人がいなくなっても組織として続けていかなくてはいけなくて。たとえ官僚主義に堕そうとも、だからこそ市民を守れる人を残さなくてはならない。
だから次世代を育成して代替わりすることが(舞台を去ることよりも)大事な要素だったのではないかと思うのです。
だから1話目はああいう構成だったのでは、と。あの構成が驚かせるためだけじゃなくて、テーマみたいなところでも意味を持っていてほしいというだけなのですが。

2014年以降の香港と警察の物語も読んでみたいと思うし、1967年から2013年の間の、描かれなかった場面もいろいろ読んでみたいです。
ツォウ兄やラウやヒルとクワンの話とか。
っていうか、てっきり在英中の話がどこかに出てくると思ってたら、完全にスルーでしたね?


それぞれの短編について手短に感想を。
結末に関する重大なネタバレを含みます。

拍手[1回]

つづきはこちら



「黒と白の間の真実」
これはもう、上でも書いたとおり最初のシチュエーション(YES・NOだけで推理する安楽椅子探偵)が興味を惹くのはもちろん、それが全部ひっくり返されるのが本当に凄すぎる。
そりゃね!2013年にはまだそんなにテクノロジー発達してないだろうとか、それはそうなんだけど。海外のことだしフィクションだからそういうものなのかなって思っちゃってたわ。
それで、頭が良くて周到な犯人をどうやって罪に問うのかと思ったら意外な手段を使っているのもおもしろかった。
王冠棠が警察官になっていたらどうだったのだろうと考えてみるのだけれども、クワンの人生を運命づけたあの台詞もたぶん本心から信じて言ったわけでもなかったのだろうし、4話目の人のようになるのがオチなのかなと思うんですがどうなんでしょうね。
1話目の話じゃなくなってきたのでこの辺で。

「任侠のジレンマ」
個々の短編の中では一番好きでした。
理由は、どんでん返しが多いから。こういう事件なのかなと思った構図が次々に覆されていくのが快感でした。
仕掛けのスケールの大きさも楽しい。
まぁ、ツッコミどころはいろいろあるんですけどね。そんな大規模なオペレーションができるのかとか、嘱託で顧問だからって好き放題しすぎだろうとか、そもそも囚人のジレンマならぬ任侠のジレンマがそんなにうまくはたらくのかとか。

「クワンのいちばん長い日」
クワンがCIBを退職する日に起きた、凶悪囚の脱走事件と硫酸爆弾事件とその他いろいろな事件。
ここまで2話で、この人はありとあらゆる伏線を回収してひっくり返す話を書く人だ、って認識ができてしまっているせいで、同日に起きたいろいろな事件も繋がってるんだろうって想定できちゃうし、逃げたと思わせて隠れていたのも病院で入れ替わるのもよくあるパターンなので、おもしろいけど読めてしまうのが難点でした。
これはむしろ倒叙として読んでみたい。収監された状態で、いったいどうやってここまで入念な計画を立てて実行に持っていったんだろう。

「テミスの天秤」
3話目で脱獄した石本添の弟の事件。3話目で因縁があった風に書いてあったわりに、クワン自身は石本勝とは直接対峙してなかったんですね。しかも、石本勝の凶悪性が3話目で語られていたほどには感じられなかったというか。犯人が凶悪すぎる。頭が良くて権力あるクズって手に負えないですね。
この話は、なんとなく好きじゃなくて。なんでだろうって考えたら結局、クワンが「負けた」のがもやもやしたということなのかな。
そして、石本添を逮捕するところは書かれないのかってことが何より衝撃的でした。
木の葉を隠すには森の中的な、シンプルな構造はおもしろかったです。
ロー刑事が若かった。弁当屋さんでびくびくしてるところがかわいい。
上司の命令に背いても目の前の命を優先するのは、経歴が「綺麗じゃない」のがこういうのばっかりならかわいそうだなと思いました。この件に関しては、その結果殺されなくて良かった。

「借りた場所に」
クワンの物語というよりも、香港警察史の一幕という印象が強かった。
被害者の立場と仕事が説明されていた段階で、まぁそっちが目的ですよねー。
誘拐もので身代金の授受のためにあちこち移動させることで、在りし日の香港を描くことが目的のひとつだったのかなと思いました。
クワンが不法侵入しているシーンは、いろんな意味でハラハラした。え、まさかそっち側だったの……って。
ラストの台詞にはほっこりしました。

「借りた時間に」
これも、この話自体は香港戦後史の側面が強かった。そのために説明が多くて、ほかの短編に比べて少し読みづらかったです。
ほかの話に比べたら、事件の構造自体は単純ですし。
これもあちこちに移動することで、香港を描くのがメインだったのかな。
一人称視点で、語り手は誰なのか、クワンはどこにいるのか(どちらなのか)というのがずっと疑問に思っていたら、最後に明かされた真実がもう凄かった。
警察官としての在り方を決定づけた人が、人生の幕を引くというのはとても運命的で熱いですよね。
クワンがむしろまだ才能を開花させていなかったので、10年間で何があったのかが気になって仕方ない。
ロー警部もだけれども、この物語の中での「名探偵」は天賦の才ではなくて、資質がある人が努力をすることで身につけた技能だったんですね。
思えば、「最後の事件」は最後ではなかったし、「最初の事件」も最初の事件ではあるけどまだ名探偵ではなかったので、この作品を紹介する文からしてトリックが仕掛けられてたんですね。
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