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2025/03/15 (Sat)

『初秋』

月に一度やっている「ふたり読書会」の、10月の課題本。
先週末に読んではいたんですが、感想をまとめるのが延び延びになってしまった。

離婚した元夫から15歳の息子を取り戻してほしいという女性の依頼を受けた私立探偵スペンサーは、夫婦の間で嫌がらせの取引材料のように扱われる少年を、自立させようと手を貸す。
という話。

少年とハードボイルドな探偵の心の交流は非常に良かったです。
生き方を教えるところの台詞なんかもかっこよくて、読後感もヤングアダルトっぽく爽やかで。
思春期に読んでいたら、こんな人間になりたいと思っていたのかもしれない。

ハードボイルドって、背中で語るというか、生き方にこだわりを持っていてもそれをあまり口に出して言わないようなイメージだったんです。大事なことはペラペラと言わないこと自体がこだわりのひとつみたいな。
でもこの話では、少年に生き方を教えるためかと思うんですけど、あえて口に出しているところが多くて、意外だった。
その人生訓が、横にマーキングしたくなるような、かっこよくて自分もそうありたくなるようなもので、良かったです。
もう一つ意外だったのが、泣いてもいいんだというようなことを言っていたことでした。
「ハードボイルド」も、この話に出てくるスペンサーも、マッチョイズム的なイメージなので泣くことを筆頭に、感情を表に出すのを否定しそうなイメージがあったので。
やっぱりこれも、不仲で尊敬できない両親の間で育ててもらえなかった少年に対して道を示すためのものなんだろうとは思う。


ただ、ものすごく読みにくかった。
文章は平易で簡潔なんだけど、会話とかに飛躍が多くて、意図がうまくつかめなかった。
おしゃれな洋画の台詞みたいな感じで、でも映像はないし地の文も行動は書かれるけど最低限だし、心情はほとんど書かれないので、ちょっと何を言いたいのか分からずに読むのに詰まってしまった。
ほとんど台詞で物語が進行していくのに、意図をつかめない台詞(ただの軽口かもしれないけど、そうとすら分からなかった)が多かったのがつらかった。
地の文でも主人公にとって自明なことはあえて説明されなかったりするので、読みにくかったです。たとえば車を車種で書いてあっても車なのかもわからないとか、名前が出てくるのは関係者か有名人か誰だろうみたいなことがちょくちょくあった。
洒落たかっこいい文章を目指してこうしているんだろうとは推測できるけど、読みにくさの方を冒頭から強く感じてしまってダメでした。

本編だけじゃなくて、解説もそんな感じで読みにくかったです。
ハードボイルド史の中でのスペンサーシリーズの立ち位置について書いていたんだろうとは思うんですけど、ハードボイルド小説の歴史の概要をこちらは全然知らないので、ほとんど何言っているか分からなかった。
前提を共有していない人に伝える気がないのかな、と思ってしまって、心に壁ができて猶更理解できないみたいな感じ。

一方で、帯もひどかったです。
「早川書房女子社員のオススメ本」ってなってて、「こんなイイ男、ほかにはいない 理想の男スペンサー」ってでかでかと書かれていた帯。
たぶん私この帯の文言だけ見ていたら絶対に読まなかっただろうなって思う。
だって「卓抜した恋愛小説」とか特に求めていないですし。
きっと、有名な作品だから、届くべき層にはほとんど読まれていて、違う層の読者に向けて書かれた惹句だと思うんですけど、どちらの層でもない私はドン引きした。


作中のこまごまとしたことなんだけど、謎料理が気になりました。
特に中華料理屋のシーン。
北京ラヴィオリは餃子のようなものかと思うんだけど、ムーシューポークってなんだろう。
と思ってぐぐったらこの本の話題が出てきて、やっぱりみんな気になるんですね。もとは中華料理で、アメリカナイズされたものらしい?
中盤くらいでスペンサーが作っていた料理も、材料の組み合わせが不思議だけど、なぜかおいしそうに感じた。缶詰のパイナップルは肉料理に使う意味ないと思うんだけど。

そういう風に料理の描写が多かったり、あと服装がブランドや色や模様まですごく詳細に描写されていたりするのは、車を車種で記すのと同じように、そのことで一人称の視点人物であるスペンサーが何に興味があるどういう人物かを示そうとしているんだろう。
台詞と、動作に関する短い文と、そういう目線でキャラクターを描写するという手法はなるほどと思いました。
やっぱりちょっと映画っぽい。

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『私が殺した少女』

私立探偵沢崎のシリーズ2作目。
前作に引き続き、おもしろかったです。

あらすじ。
沢崎は一本の電話で呼び出され、少女誘拐事件の身代金受渡し役を引き受けることとなった。ところがアクシデントが起こり、犯人に渡す前に身代金の入ったスーツケースがなくなってしまう。

誘拐ものなので犯人の指示に従って動き回ったり、捜査シーンでも尾行をしたりと動きが多かったのもあって、1作目よりもさくさくと読み進められたし、おもしろくてあっという間に読み終わった。


タイトルから分かるとおり、少女が死ぬので、前作より事件の痛ましさが強かった。死体の損傷の描写もけっこう詳しかったし。それが必要なのは分かる。
とはいえ、死因も含めてどうしてもやるせなさがある。


タイトルの「私」は誰なんだろう。
読んでる間は沢崎だと思ってた(沢崎の一人称の小説だし)けど、真相を読んでからは犯人という可能性もあるかもと思った。
というか、「私」は複数いるのかもしれないと思った、という方が正しいのかも。
この物語に出てるあらゆる人が「私が殺した」と思っているみたいな。


捜査シーンを沢崎の行動を追って読んでいくのは楽しかったし、怪しそうな人をいろいろ調べてみても最後まで犯人の手がかりが掴めないのも、わくわくしたんだけど、最終的に沢崎がいつ何をきっかけに真犯人にたどり着いたのかがいまいち分からなかった。
真相そのものは意外で驚いたのだけど、意外だからこそ、その発想はどこから出てきたのか知りたくてやきもきしてしまう。
1作目も肝心なところで沢崎の推理の根拠が分からなくてもやもやしたから、なんかそういうシリーズなのかもしれない。
せっかく事件も捜査も真相もおもしろいのに、探偵の行動と思考を一人称で書いているのに、どうしてその推理にいたったかの手がかりがつかめないのが残念。
それを差し引いても、かなりおもしろい小説だったから、尚更残念だと思ってしまう。
もっとも、探偵の行動と思考を一人称で書いているからこそ、早い段階で気づかせてしまうと謎を解くわくわく感がなくなるっていうことなのかなとも思いますが。
違うタイプのミステリだとワトソン役の導入という発明でどうにかなっているけど、こういう作品は一人称だと隠すしかないからこうなるのかなと。


沢崎が中学生男子と行動していた取り合わせが微笑ましかった。
私はまだ中学生の感覚の方に近いので、中学3年生の描写にしては幼いように感じたんだけど、沢崎の目を通したらあのくらいが妥当なのかもと思いました。
たぶんそれなりに大人びた中3だとしても、40歳くらいで、酸いも甘いも苦いのもいろいろな経験を経てきた皮肉屋の沢崎には、実際以上に幼く見えているのかもしれない。

あと、沢崎の目を通した描写としては、目白署の面々と比較して、錦織ならもっとうまくやっただろうみたいなニュアンスの文章が時折あるのがちょっとおかしかった。
本当にこいつらは、信頼してないのに信用してるみたいな、本当に屈折している。良い。

橋爪も、沢崎のことを信用してる感じのあれが良かったです。
しかし橋爪はこの物語の上でどういう意味があったんだろう。事件にはぶっちゃけ関係ないじゃないですか。
沢崎のメンタルに影響を、たぶん多少は与えてるのだと思うのですが。

沢崎はタフな男だけど、本当に完全に完璧にそうなのではなくて、あくまでもタフであろうとしている人なんだと思います。うん、1作目の巻末のあれみたいだけど。そうでないといけないのではないかという問いかけを自分に対して持っているような。
メンタルが頑強なら、事務所の名前だって変えてるんじゃないかとも思う。
だから今回、自分の役割を果たせなかったことに自責の念を抱いて若干ぼろぼろになっているところがよかった。
そこに橋爪がああなって、らしくなく依頼を押しつけてくるから、余計にダメージを負って。
でも、そういう風に傷ついているところが、人間らしくて良いなあと思うんです。


あとラストの方の一瞬の邂逅!
テンション上がりました。
風景がスローモーションになって、走馬灯のように記憶がめぐるところが鮮やかで、読んでいて追体験したような感じになった。ドラマみたい。
その後の、話したいけど話せないという文章とか、最後にいつもと違う行動をしてみたりとか、その辺まで含めて心情を想像するととても熱い。
あれに心を動かされた程度には、かなりこの作品の登場人物たちに思い入れ強くなってるんだなと思った。


この物語中の時代は1980年代なので当然まだ携帯電話がないし、それはそういうものだと思うだけなんだけど。
捜査中にあるシーンで、テレフォンカード式の公衆電話が新しいものとして描かれていたのに衝撃を受けました。
携帯電話がなければ公衆電話を使うのは、私が子供の頃もそうだったし、コイン式の方が古くからあったのだろうという想像はできるけど、テレフォンカードが新しいものと認識されていた時代は想像の範囲外にあったというか。
なんというか、ジェネレーションギャップでした。
テレカが出てきたのがいつ頃かもよく知らなかったし。
ということはもしかして、作中に出てくる公衆電話機は緑色じゃないのかしら。


今回の巻末掌編は、沢崎が原尞を調査するという体の話だったんだけど、こういうの好きです。物語の外部が物語の中に組み込まれて、現実と物語が曖昧になる感じ。

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『そして夜は甦る』

初めの方は状況がよく分からなくて読み進めるのに時間がかかったのですが、半分を過ぎた辺りからは一気に読んだ。

あらすじ。
私立探偵沢崎の事務所へ海部と名乗る男が訪れ、ルポライターの佐伯が来たか知りたがった。同日、弁護士からも電話があり、ルポライターの佐伯について問い合わせられる。沢崎は行方不明の佐伯を調査することになったが、事件は東京都知事選で起こった狙撃事件と関連していく。


ハードボイルドってなんとなく、敵味方含めて大量の死体の山を乗り越えて進み続ける探偵、みたいなイメージがあったんです。
あんまりハードボイルド読まないからこそ、読んだことある数少ない例をイメージとして持っちゃったんだろうと思いますが。ブラディドールとかね。
この話では人がそんなには死なないし、死んだ人もほとんど犯罪者なので、読んでてつらくなることがなかったからよかった。
人死にが少ないだけでなく、暴力とか女とかの方面でもつらくなるような描写がなかったのですごく読みやすかったです。
暴力というかアクション的な立ち回りはあるものの綺麗なものだったし、女については沢崎はあえて避けているような雰囲気があった。

だからこそ、素直に思う。沢崎、めちゃくちゃかっこいいですね!
皮肉の利いた台詞もいちいちかっこいいし、その背後にあるだろう彼の生き方というかこだわりみたいなものにも深みがあって痺れる。
本編中でもそうなんだけど、巻末にある「マーロウという男」という掌編がもう、沢崎のかっこよさの粋を集めたようなものでした。本編にも出てくるルポライターの佐伯と沢崎の会話という体で、フィリップ・マーロウについて語っている作品なのですが、その中での「男はタフでなければ生きていられない、やさしくなれなければ生きる資格がない」という台詞に関する沢崎の言葉が、かっこいいし考えさせられる。
チャンドラーは読んでいないのでそれが妥当なのかは私には分からないのですが。


そしてラストシーンの余韻がとても良かったです。
ラストシーンというより、34節~36節のそれぞれの終わり方が好き。洒落た一文に、せつなさと明るさとが含まれている。それぞれ別の方向性で感慨深いのだけれども、それが3連続でどんどんどんと畳みかけてきて、もうかっこいいとしか言えない。
真実は告げられるべきだ、私はそう思うんだけど、それを信じていない沢崎がかっこよすぎて。やるせないと思う一方で、告げられることがなくても、たった一人でも知っていれば、そしてそれが彼なら、救いがあるのではないかと思えた。


警察との距離感もおもしろかった。
こういうジャンルの小説だと、警察とは対立しているのかなと思いきや、かなり協力し合って事件の捜査に当たっていた。でも、中心となっている錦織警部は沢崎を盲信しているわけでも好感を抱いているわけでもない。能力は認めているものの、嫌っている。
そもそも錦織警部は沢崎の元パートナーである渡辺が警察にいた頃の部下で、渡辺が過去に1億円と覚醒剤を奪って逃げたときに、沢崎を共犯者と疑い取り調べをした警官だった。
この過去の事件の因縁と、今でも時折紙飛行機で便りを送ってくる渡辺に対する沢崎の心情がすごく良かったです。
あまり、沢崎自身の内面は深く語られることはなかったので、渡辺に対する述懐ではそれが垣間見えるからなおさら沁みたというか。


おおむね満足なんだけど、記憶喪失の男と都知事狙撃事件とを結びつけるところの根拠が少し薄い気がして、そこだけはちょっと引っかかっていた。
ハードボイルドだから、論理にそこまで重きを置いていないからほかの怪しげな事件を検証していなくても仕方がないのかもしれない、とも思うんだけれども。
結果的に正しかっただけで、ほかの事件が俎上に載ってもいないのはなんとなく気持ち悪い。
というよりもむしろ、最後の方で怪文書事件や狙撃事件の真犯人を推理するところなんかでは、かなり論理がしっかりしていたような気がしたので、捜査上で大きな転換点になるだろうその選択ではあまり論証がなされていないのが引っかかったのかもしれない。


興味深かったのは、この年に起こった事件やスポーツの話題がたぶんそのまま書かれていること。とはいえ、この作中の年代(1985年?)に私は生まれていないので、たぶん本当にあったんだろうと推測しているくらいなんだけれども。
だから、どこまでが現実にあった事件で、どこからがフィクションとして作られた事件なのか判別つかなくなって不思議な感じでした。

そしてこの物語のキーパーソンである東京都知事兄弟。
兄の都知事は作家としても活躍していて、弟は俳優で実業家でヨット乗りで――という設定なんですけど、これはあの兄弟をモデルにしているんですよね。たぶん。
そう思って調べてみたら、この小説が書かれた当時はまだ実在する方の人は都知事になっていなかったらしくてびっくりした。まあ、だからこそこの話をかけたのかもしれませんが。

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『一鬼百歌 月下の死美女』

平安京が舞台なので、てっきり平安時代のお話だと思ったんですよ。
「武士が台頭してきた動乱の世」っていうから、承平天慶の乱のあった10世紀前半くらいかなーと思っていたわけなんですよ。だから手に取ったというのもある、摂関政治がまだ全盛期になる前の時代に興味があるので。
読み出してわりとすぐにそれが誤解だったと気付きました。
台頭してきたっていうか、すでに都での戦争も終わって東国に幕府開いてんじゃん!
たぶん1190年くらいかな。後鳥羽天皇が11歳の頃。
とはいえ、貴族の家の対立とか後宮での努力と駆け引きとか雅やかな雰囲気とか、平安京を舞台にした物語に望むことはだいたい描かれていたので、思っていた時代と違ってびっくりしただけで物語自体はおもしろかったです。
読んでみたら、この時代だからこその話という感じもしましたし。

主人公は希家という名前だけど、御子左家の人で官職的にもこれは定家ですよね?
主人公の父親の名前が春成(しゅんぜい)だったり、あえて字を変えているんだろうけど。
だったらなぜ御子左家はそのままなのか。
二条院讃岐もそのまま出て来るのは、鵺の話で源三位頼政のエピソードがあるからかなぁとは思うけど。
曖昧にするところと、史実や伝説をそのまま使うところと、直接的にはいわないけど歴史知ってたら察することができる程度には書かれているところとがあって、Wikipedia見ながら真名を推測したり、どこまでが実際にあったことなのだろうと推測しながら読んでいました。
行幸はあれば記録に残ってるはずだけど。鵺の怪異とか帝の癖とかはどうなんだろう。
あと、「名にしをはば逢坂山の真葛」の歌の解釈が、私はすごく衝撃的でなるほどって思ったんですけど、現代や12世紀末当時の解釈にそういうものはあるのかが気になりました。


あらすじ。
歌人の家に生まれ、和歌のことにしか興味が持てない貴公子・希家は、詩作のため吟行していた夜、花に囲まれた月下の死美女を発見する。そして御所では、姿の見えない「ぬえ(空鳥)」の鳴き声が人々を震撼させ、ぬえに食われたような死者まで現れる。怪異譚を探し集める宮仕えの少女・陽羽と出会った希家は、凸凹コンビで幽玄な謎を解く。


一番最初の事件で、和歌のことしか考えていない変人が和歌のことを熱弁していただけなのに犯人は自分の犯行を見透かされていると思って自首しちゃう、というのがすごくおもしろくて、こういう話が続くのかなとわくわくしていた。
そしたら連作短編ではなく最初の事件もひとつのストーリーの一角だった。
後半の方は、陽羽に押されて渋々ながらも自分から事件に関わっているので、そこもやっぱり最初の方が好みだったなぁ。

タイトルになっている死美女の美しさの描写は幻想的で好き。
そこから天香久山を連想するのはさすがに飛躍が大きく感じましたが、だからこそ変人っぽさが際立つ。

鵺(空鳥は変換できない)の怪異は、この時代にその登場人物たちでやったらそうなるよね、みたいな感じでした。
怪異と言いつつ、作中で起こることは全部人為的な事件だったのが意外な感じ。
聖霊狩りとか闇に歌えばとか好きだったので、オカルトというか、怪異は「ある」話だと思ってたんですよね。
まぁ、源三位頼政が倒した鵺の正体については言及されていないので、「ない」世界観かどうかは観測されてないわけですが。
あるかないかはともかく、人々は信じているというのが前提になっているのはおもしろい。


桂木の君の正体には驚きました。
ちょっと前の時代に悪左府もいるので同性の恋人というのはともかく、それでも性自認は生物的な方と一致してるのが大半だったのだろうなと思うと、今との感覚の違いが不思議な感じ。まぁ現代でも性指向と性自認は別なんですけどね。
そういう人がいてもおかしくないけど、何か物語や記録残ってたりするのかしら。とりかへばや?
白妙の相手って、あー、と気づいてなんとも切ない気分になった。
そういう感じて、真実が明らかになってから読み返すと趣きが深まる部分が多かったように思います。

人は何人か死んでるものの生臭くなくあんまりどろどろしてなくて、ストレスなく読めてよかったです。
明らかに裏がありそうな人が犯人だったり、伏線というかフラグというか分かりやすくて。こういう描写があるってことはこういうことだよね、が違わずにある安心感。
とはいえ犯人も実行犯にすぎないんじゃないかとなんとなく感じている。
いつから、何のために、というところにドラマがありそうで、続刊で明かされるのが楽しみ。

中宮の心情も好き。
家のために天皇を愛し支えなくてはと思う反面、秘めた想い人を探してしまう辺りとか、いいですよね。


文章はかなりライトなので読みやすかった。ただ、「〜て。」「〜で。」で終わる文がちょっと多い気がして、そこはもうちょっと少ない方が雰囲気出て好きかなと思いました。

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『逆転裁判 時間旅行者の逆転』

私は普段ほとんどゲームをしない人間なんですけど、ひょんなことから1か月ちょっと前に逆転裁判をやってみました。スマホ版の無料のところまで(逆転裁判1の1話と2話)と、レイトン教授vs逆転裁判。
推理をして正しそうな選択肢を次々選んでいくのは楽しかったです。一方で、文字が出てくるのを待ったり、所定の行動をしなければ先に進めなかったり、答えは見えているのに選択肢はどれを選べばいいか分からなかったり、面倒に思ってしまうことも多くて、それ以上は遊んでいない状態です。
あとは、アニメをやっていたときに何話か見てました。

逆転裁判についてはそのくらいしか知らなくて、キャラクターとかもそこまで把握していないのにノベライズを読んだのは円居先生が書いてらっしゃるからなんですけど。
あと、時間軸としては2話と3話の間でそこまでならやっているし、ストーリーはオリジナルらしいので読めるだろうと思った。
それでも、原作を知っている方が楽しめたんだろうな。
映画や漫画とかで全く同じストーリーを小説化したものは原作知らないままで読んだことがあるし、それなりに楽しめたんですけど(レッドクリフとかのだめカンタービレとか)
これはそういうのとも違うので、むしろよく知らない作品の二次創作を読むときみたいな感じがしました。

そんなわけで原作ファンならこの辺とか楽しいのかもしれない、と思うところは何か所かありました。狩魔冥2歳とか?
そもそも第一部が15年前の事件なので、御剣信vs狩魔豪の裁判なんですよね。
まあ私アニメでちょうどその辺のエピソードを見逃しているので、その二人の因縁も良く分からないんですけど。
ナルホドくんと真宵ちゃんの会話とかは、なんとなくこういう人というのは知っていたので読んでいて楽しかったです。


裁判の進みが実際のゲームやったときの感じと似ていて、おもしろかった。
ゲームの裁判パートは証言の矛盾を突きつつ、小さな論点が浮かび上がってくるのでそれを解決できる証拠品とかを突き付けて、そうすると検察側が新たな情報を提示してきて……というのを何度か繰り返していってた印象があるのですが、その枠組みをこの小説ではそのまま踏襲していたように感じました。
だからこそ、双竜会のような大胆な飛躍とかはなかったのが若干残念なところではありましたが。
捜査パートの書き方も、ゲームを遊んだときと同じ感じがしました。

一番核になっているロジックはすごく好きなタイプのものでした。
被害者がタイムマシンを信じていたから、不可解に見える行動をとったというやつ。
それから最後のオチというかも、SFっぽくて好き。ちょっと星新一っぽい。
タイムトラベルもコールドスリープもある世界ってことでいいのか。霊媒があるし、何でもありなのかしら。


なんか、よそのキャラクターや世界を借りている遠慮なのかわかんないですけど、なんとなく地の文の書き方とかが不自然な気がした。文章もっと巧い作家さんだったと思ったんですけど。
円居さんの本は今週確か2冊くらい出るはずなので、楽しみです。

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