月に一度やっている「ふたり読書会」の、10月の課題本。
先週末に読んではいたんですが、感想をまとめるのが延び延びになってしまった。
離婚した元夫から15歳の息子を取り戻してほしいという女性の依頼を受けた私立探偵スペンサーは、夫婦の間で嫌がらせの取引材料のように扱われる少年を、自立させようと手を貸す。
という話。
少年とハードボイルドな探偵の心の交流は非常に良かったです。
生き方を教えるところの台詞なんかもかっこよくて、読後感もヤングアダルトっぽく爽やかで。
思春期に読んでいたら、こんな人間になりたいと思っていたのかもしれない。
ハードボイルドって、背中で語るというか、生き方にこだわりを持っていてもそれをあまり口に出して言わないようなイメージだったんです。大事なことはペラペラと言わないこと自体がこだわりのひとつみたいな。
でもこの話では、少年に生き方を教えるためかと思うんですけど、あえて口に出しているところが多くて、意外だった。
その人生訓が、横にマーキングしたくなるような、かっこよくて自分もそうありたくなるようなもので、良かったです。
もう一つ意外だったのが、泣いてもいいんだというようなことを言っていたことでした。
「ハードボイルド」も、この話に出てくるスペンサーも、マッチョイズム的なイメージなので泣くことを筆頭に、感情を表に出すのを否定しそうなイメージがあったので。
やっぱりこれも、不仲で尊敬できない両親の間で育ててもらえなかった少年に対して道を示すためのものなんだろうとは思う。
ただ、ものすごく読みにくかった。
文章は平易で簡潔なんだけど、会話とかに飛躍が多くて、意図がうまくつかめなかった。
おしゃれな洋画の台詞みたいな感じで、でも映像はないし地の文も行動は書かれるけど最低限だし、心情はほとんど書かれないので、ちょっと何を言いたいのか分からずに読むのに詰まってしまった。
ほとんど台詞で物語が進行していくのに、意図をつかめない台詞(ただの軽口かもしれないけど、そうとすら分からなかった)が多かったのがつらかった。
地の文でも主人公にとって自明なことはあえて説明されなかったりするので、読みにくかったです。たとえば車を車種で書いてあっても車なのかもわからないとか、名前が出てくるのは関係者か有名人か誰だろうみたいなことがちょくちょくあった。
洒落たかっこいい文章を目指してこうしているんだろうとは推測できるけど、読みにくさの方を冒頭から強く感じてしまってダメでした。
本編だけじゃなくて、解説もそんな感じで読みにくかったです。
ハードボイルド史の中でのスペンサーシリーズの立ち位置について書いていたんだろうとは思うんですけど、ハードボイルド小説の歴史の概要をこちらは全然知らないので、ほとんど何言っているか分からなかった。
前提を共有していない人に伝える気がないのかな、と思ってしまって、心に壁ができて猶更理解できないみたいな感じ。
一方で、帯もひどかったです。
「早川書房女子社員のオススメ本」ってなってて、「こんなイイ男、ほかにはいない 理想の男スペンサー」ってでかでかと書かれていた帯。
たぶん私この帯の文言だけ見ていたら絶対に読まなかっただろうなって思う。
だって「卓抜した恋愛小説」とか特に求めていないですし。
きっと、有名な作品だから、届くべき層にはほとんど読まれていて、違う層の読者に向けて書かれた惹句だと思うんですけど、どちらの層でもない私はドン引きした。
作中のこまごまとしたことなんだけど、謎料理が気になりました。
特に中華料理屋のシーン。
北京ラヴィオリは餃子のようなものかと思うんだけど、ムーシューポークってなんだろう。
と思ってぐぐったらこの本の話題が出てきて、やっぱりみんな気になるんですね。もとは中華料理で、アメリカナイズされたものらしい?
中盤くらいでスペンサーが作っていた料理も、材料の組み合わせが不思議だけど、なぜかおいしそうに感じた。缶詰のパイナップルは肉料理に使う意味ないと思うんだけど。
そういう風に料理の描写が多かったり、あと服装がブランドや色や模様まですごく詳細に描写されていたりするのは、車を車種で記すのと同じように、そのことで一人称の視点人物であるスペンサーが何に興味があるどういう人物かを示そうとしているんだろう。
台詞と、動作に関する短い文と、そういう目線でキャラクターを描写するという手法はなるほどと思いました。
やっぱりちょっと映画っぽい。
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