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2024/05/10 (Fri)

『月まで3キロ』

友人がおもしろいと言っていたので読んだ本。

人生に悩みを抱える人たちが、科学(というかほぼ地学・天文学)に出会い、救われる。いわゆる「いい話」の短編集。
「いい話」なんだけれども押しつけがましい「感動」も「説教」もなく、普通の人の普通の悩みによりそって、地に足をつけて歩いていく力をもらえる感じでした。
話にもよるけど、基本的に、状況は変わらないんですよね。
死んだ人は還ってこないし、過去も変えられない。それでも会話を通じて考え方が少し変わって前向きになるみたいな。

それは、扱っているのが地学や天文学だからというのは理由のひとつにあると思うんですよね。
地質学的な過去も宇宙も壮大で悠久で、人間の力にはどうしようもないものだったりもするのだけれども、そういう壮大で悠久なものを知るために見るのは身近な石や月や雪だったりする。
身近なものだけれども、科学的な目を教えてもらって、知識をもったうえで見ると世界が広がる。
その世界の広がりが起こるのが、悩みに対してもあるというか
いい意味で相対化されるから前向きになれるみたいな。
ものすごくありふれた言い方をするなら、地球の歴史や宇宙の大きさの前では個人の悩みなんてちっぽけになるということなのかもしれない。
科学の書き方も淡々としていて、研究というものに敬意が見えて好感がもてた。地道に観察をしていくこと。資料と対話をすること。
雑学をひけらかすタイプの小説でもなかったので、本当に真摯にサイエンスを紹介しているように感じました。「エイリアンの食堂」で女性研究者への描写であったように、「科学的なことがらを誤解されるのが嫌なのかもしれない」。

そして、悩みを抱えた主人公が出会う人もまた悩みを抱えているというタイプの話が多かったのも、よかったです。
どちらもすごく普通の人で、こういうのも何だけど、ありふれた悩みなんですよね。つまずいた後、立ち上がれなかった人たちというか。私たちがいつそうなってもおかしくない、と思えるくらいのバランス。ドラマチックすぎず、卑小すぎず。
みんな、何かしら傷ついていて、それでも人と出会って前に進んでいくというメッセージに私は弱いのかもしれない。

語弊たっぷりに言うと「何も起こらない本」を久々に読んだ気がしますが、たまにはこういうのもいいなぁと思いました。

収録短編は6話。

表題作「月まで3キロ」は自殺しようとした男が、死に場所を求めて乗ったタクシーの運転手に「月に一番近い場所」に連れて行ってもらう。月に一番近い場所とはどこかがおもしろく、タクシー運転手の過去が重い。

「星六花」がいちばん好きでした。
男性不信気味のアラフォー未婚女性が、気象庁に勤める男性と知り合い、惹かれていく。
主人公の空回る感じとかが読んでいてきついところもあるんですけど、これもまた男性の過去が…。それでも彼女にとって、彼と出会えたことは幸福だと思う。
美しい花も、美しい鳥も、生殖のためにそうなっているにすぎないと考える苦しみ。そして雪の結晶の無機質の美に救われること。
ここの会話がとても胸につまって、好きでした。
作中に出てくる雪の結晶の撮影も、去年Twitterで見たのでリアル感があった。

「アンモナイトの探し方」
東京で中学受験と親の不仲に悩み、塾へ行けなくなった少年が、北海道で化石を掘る老人と出会い、自らも化石を探してみる。
これは他の短編に比べて、科学とのかかわりが薄いように感じました。
机上の知識だけはある少年が、体験を通して成長する的なよくある話に思えてしまった。

「天王寺ハイエイタス」
大阪のかまぼこ屋の3代目になる青年。その叔父で、元ブルースギタリスト、現プータローの過去を掘り下げる。
ハイエイタスがあったときの、叔父の気持ちを想像してみると、どうしようもなく切ない。才ある人が夢をあきらめる決心。一方で、才能のない流されるだけの人間がもつコンプレックスも、どうしようもなく分かってしまうことがつらい。

「エイリアンの食堂」
つくばにある妻を亡くした男の食堂に、素粒子物理学の女性研究者が毎夜訪れる。小学生の娘は彼女をエイリアンと怪しみ、それをきっかけに交流が始まる。
任期付き研究者としての生き方に対して、この話で描かれる好きだから根無し草でも、というのに寄り添いたいが別ベクトルで科学行政に対して憤りを感じる。
この話の肝になる部分の科学ネタが好きです。僕たちの血は、星屑の液体。

「山を刻む」
家族との関係に疲れた専業主婦が山に登り、山を刻む火山学者と学生に出会う。
えっ決断ってそれなの!?って思いました、正直。
あれだけ壊れかけた家族だの、家族に切り刻まれただの言っていたから、てっきり離婚とか不倫とかそういう系かと思ったよ……。
学生さんの、先生についての言葉がすごくよかった。「仕事なんて辛いもんだ、歯を食いしばってやるもんだ、なんて言うオヤジのもとで働いて、面白いわけないですもん」「実際、好きなことだけやって生きてる大人、初めて見ましたから。そんな人、マジでこの世に存在するんだって、結構衝撃で」

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『不思議を売る男』

「あやふや文庫」というTwitter上のアカウントがあります。
内容の一部しか覚えておらずタイトルを思い出せない「あやふや」な本を、Twitterの集合知で解決しようという試みをやっているアカウントで、私も何度か回答したことがあり、見ていて楽しいものです。もともと赤木かん子さんとか、にちゃんねるのそういう掲示板とか、レファ協とか、そういう本の探偵的なものが好きなんだと思う。
あやふや文庫自体はサービスの在り方とかに疑問を覚えるところもなくはないですが(せめてタイトルだけじゃなくて著者・出版社・出版年あたりの基本的な書誌情報は載せてほしい)、内容からおもしろそうな本を新しく知れることもできるし、Twitterで気軽なのでよく見ています。

そこで、何度かタイトルを見ることがあり、興味を持ったのがこの『不思議を知る男』でした。

古道具屋の娘エイルサが図書館で会った不思議な男は、エイルサの店で働くことになり、古道具の来歴の「お話」をまことしやかに語り、商品を売っていく。
概略をまとめるとそういう話。
訳者あとがきで「アラビアンナイト」と言っているけれども、枠物語があって作中作があって、相互にかかわりあっているような物語でした。

作中作にあたる個々の「お話」はおもしろかったです。
特に「中国のお皿」が好きでした。中国の若い陶工と、その師匠の娘の恋の話。中国の風景と皿の取り合わせがよかった。
「木彫りのチェスト」も好き。こちらも悲恋で、宗教と恋と三角関係。
「鉛の兵隊」も良い。父と子の人生を賭けた戦争ゲーム。

「テーブル」の暴飲暴食の挙句に倒れる貴族たちの詩で、知らない食べ物の名前があり、グーグル検索しても出てこなかったので気になっている。
ボーブ・シュープリゼというデザートなのだけれども。
情報をご存じの方がいればお知らせください。

MCCが語る「お話」は毎回、舞台やテーマが違っていてバラエティーに富んでいただけではなく、買いに来た客の素性や性格、シチュエーションに合わせた「ほんとう」の話だった。
名前も住所も過去もないような男が語る話が、なぜ「ほんとう」だったのか――というところが枠物語において、読者の興味をもつ盛り上がりになっているのですが。
正直、MCCの正体はとても残念でした。
これだけひっぱってこれ?みたいな。
少し違うけど夢オチみたいな感じで、がっかり感があった。
最後1ページは少しぞっとするような心持ちで、おもしろかったのですが……。
エイルサの淡い恋心とかもあり、応援したい気持ちで読んでいたので、この後にそれが叶うこと夢見られる終わりだったのはよいのだけれども。ううん。

ところで、住所不定無職でいかにもあやしく、格好も特徴的で本が好き……という特徴から、なんとなく教授を思い出しました。いや、教授は住所はわかっているというか引っ越しから話が始まるので違うんだけれども、印象が重なる感じ。

あと、お話が少し古めの清の中国や独立前のインドや19世紀イギリスだったりしたので、古道具屋さんに来るお客さんが「ヤマハのエレクトーンを持ってる」と言っていたときにちょっと戸惑いました。
固有名詞が出たことと、それがごく最近の時代のもののイメージだったので。

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『ディオゲネス変奏曲』

『13・67』の陳浩基による自薦短篇集。
本格ミステリあり、SFあり、ショートショートありとバラエティに富んだ作品集で、引き出しがこんなに多いのかと感嘆しました。

やっぱり『13・67』がおもしろかったので、似たようなどんでん返しの構造を持っている作品は巧いなという印象。
逆に、ショートショートとかはちょっと飛躍が大きすぎたり、ユーモアのある会話は(翻訳のせいか)ぎこちなく感じる部分があったりして、そういう作品を読みたいならこの作家でなくてもいいかなと感じてしまった。

「藍を見つめる藍」「作家デビュー殺人事件」「霊視」が特に好きでした。

あとがきで解説しているとおり同じ主題を変奏している作品もあり、「倒叙かと思いきや真犯人は別の人で、語り手は犯人と別の思惑で動いていた」という構造の話がいくつかあるんだけれども、どれもおもしろかったです。
さすが『13・67』の著者!

香港という舞台を強調した作品や、幻想に社会批判を織り込んだ短編もあり、読んでいる間、現在の現実の香港情勢が大変そうなのを思って祈るような気持ちになりました。
『13・67』のその後の世界を見ていきたい。

さて、以下各短編の感想を書いていきます。
内容に触れるところもあるかもしれません。

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つづきはこちら



「藍を見つめる藍」
ネットストーカーが現実に行動を起こす話。
猟奇殺人犯と思わせておいて実は……というひっくり返しがとても良かった。
いや、いろんな意味で犯罪は犯しているわけですが。
普通にヒロインがかわいそう。
ネットに個人情報を載せるのは危ないよね。

「サンタクロース殺し」
ニューヨークの浮浪者たちがサンタクロース殺人事件の話をする。
舞台立ても、ハッピーエンドになるところも、O.ヘンリーみたいな雰囲気。
1篇目とあまりに作風が違ってびっくりしたけどいい話だった。

「頭頂」
「狂っている」人にはただ世界の「本当の姿」を見えているだけかもしれない。
頭頂にいるものは何かとか、その人との関係とか想像してみるとおもしろい。

「時は金なり」
時間をお金に替える商売の話。
ちょっと世にも奇妙な物語っぽい。
このテーマでこういう話だとどういう結論になるかが分かりきっている感じで、ちょっと説教くさく感じてしまった。

「習作 一」
これにも感想を各必要があるのだろうか。文字通り習作の超短編。
叙述ではあるがあまりに短い。

「作家デビュー殺人事件」
作家を目指す青年がデビューの条件として提示されたのは、実際に人を一人殺してみることだった。
そんな、何それって感じの世界観で始まるけれども普通によくできたミステリでした。
でも現実はミステリの世界ではないので、トリックを弄しても警察の捜査は有能だし、名探偵が犯人だったりするんですよね。いや、ミステリの世界のできごとなんですけど。
良い弁護士がついて罪が軽くなるといいね、と思いました。むしろこれ弁護士視点でもおもしろい話になるのでは。逆転裁判的な感じで黒幕の人がぎゃふんってなるところが見たい。

「沈黙は必要だ」
あとがきで背景を読むと、香港……って気分になる。
沈黙は必要だという結論になる文章を書くというお題でこういう作品を書くのはおもしろい。発想の逆転ですね。

「今年の大晦日は、ひときわ寒かった」
猟奇殺人犯の話なんだろうけど、断片的なのと文体とでいまいち状況が理解しきれず、好みではなかった。

「カーラ星第九号事件」
SF的な舞台立てでのミステリ。
事件自体ではないオチはなんとなく読めていたんですけど、ロズウェル事件と結びつけるところはちょっと楽しかった。

「いとしのエリー」
妻の死を隠蔽する夫。
後にある「姉妹」と通じる構造の話。
こういう構造の話は好きですが、どうにもサザンの曲がちらつく。

「習作 二」
明かされる真実は重いが、なかなか状況が飲み込みにくい。

「珈琲と煙草」
目が覚めると、珈琲と煙草(と麻薬)が逆転した世界にいた男性の話。
スタバ的な煙草スタンドの光景はシュールでおもしろい。
「時は金なり」と同じようなSF的設定もあり、この人にも有能な弁護士とかつけてあげてほしいという気持ちにもなり。
私は珈琲が苦手なのであまり飲んだことないのだけれども、煙草や麻薬と入れ替える物語が成立する程度に常習性あるんですね……。

「姉妹」
香港らしい雰囲気の作品。
倒叙かと思ったら倒叙でした。

「悪魔団殺(怪)人事件」
悪の組織のジャガイモ怪人が何者かに殺害された!容疑者は、タマネギ怪人、カマキリ怪人など悪の組織の幹部たち。
――っていうあらすじを、この短編集を先に読んでた人から聞いて、この人ははぐらかすために嘘の話を作ったんじゃないかと疑ってしまったんだけど、冗談みたいなあらすじが本当だった。
どことなくフロシャイムを思い起こさせる牧歌的な悪の組織が読んでいて楽しい。
やっぱり、この短編集に出てくる人たちって、他の作品も含めて、単純な善人がかなり少ないよねと思う。犯人ではないが少なからず罪があったり、正義を推し進めるために人を殺したり。社会を書こうとするとそうなるものかもしれないが。

「霊視」
この短編集に入ってるショートショート的な作品のなかでこれが一番好きです。
幽霊が見える霊能者がその力を使って殺人事件を解決していたけれど……という話。
女性は怖い。
幽霊が自分を殺した人に憑いている、それを視て犯罪捜査をする、という設定が濱地健三郎を思い出させる。

「習作 三」
ここに載っている習作はどれも絵は浮かぶけれども、隠れた真相およびそこから導きだされるメッセージを伝えるには言葉足らずという印象が、後にいくほど強くなった。
市民が警察官に暴行したと思いきや、その直前に暴行を受けた警察官が別の人に暴力をふるっていたりする世の中なので、オーバーラップされる。

「見えないX」
大学の一般教養の「推理小説鑑賞」の授業で、犯人当てゲームが行われる。
いかにも知的遊戯という感じ。
初期新本格っぽい小説だよという呼び込みだったので期待して読んだら、事件が起こらず犯人当てだけがあったのでちょっとがっかりした。
読者にも解ける犯人当てになっているのだろうか。
私自身は、Xが誰かはそこ!そこ!ってなったんだけど、もうひとつの真相まではわからなかったです。オチはちょっとおもしろかった。
日本の推理小説やマンガ・アニメやテレビ文化はけっこう台湾に入っているのだろうか。かなり作中で言及があったので、気になった。
叙述トリックの代表として、綾辻行人と乙一が並ぶんだ……。
あと、毛利小五郎は別にジャイアンと違って、劇場版でも良くならないよね?映画にもよるけど、一本背負いの見せ場はあっても、推理力はあんまり上がらない気がする。むしろマンガでも、家族や友達が容疑者になったときは格好よく自分で推理してた。というのを主張したい。
上にも書いたとおり、この本を通じて、軽い口調の会話は翻訳の限界もあるかもだけれどぎこちないなと感じていたのですが、この「見えないX」は軽いノリでも楽しく読めました。最後だから慣れてきたのかもしれない。

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『ほうらいの海翡翠』

友達に勧められて。
とはいえ薦めてもらってから読み終わるまで1ヶ月以上経ってしまって申し訳ない(私信)

薦めてもらっておいて何ですが、序盤がなかなか興が乗らなくてページをめくる指が重くなってしまい、電車移動中とか昼休みとかに細切れで読んでいるので前読んだ分までの記憶も遠くなって余計読みにくく……って感じだったのですが、終盤はおもしろかったので続きも読んでみるつもり。

なぜ序盤が読み進みにくかったかというと、主にふたつ理由があります。
ひとつめ、キャラクターに愛着がもてなかった。特に萌絵が、ある種のミステリー(ドラマ)によくいるうざいヒロインにしか思えなくて、ほかのキャラクターも設定はあるけど距離感が遠くて、この人たちの話をもっと読みたいという気持ちになれなかった。
読み進んでいくにつれて、多少は思い入れができてきたので、まぁいいんですが。第一印象がこちらの色眼鏡もあり、かなり悪かったです。

もうひとつの理由も、それと多少関連するのだけれども、情報の出し方がなんとなく好きじゃなく、うざったく感じてしまった。
私はもともと古代史とか好きなので、常識じゃんってことをくどくどと説明されるのが好きじゃない。で、そういう常識的な知識に対して必要以上に驚いているキャラクターが、実際そうである以上に馬鹿に見えるので、余計嫌いになるというか。
詳しくない読者には必要なのはわかる。私も全部を知っているわけではないし、史実の説明もあるからフィクションもうまく溶け込めるわけで。
だから、単純に説明の書き方が好きではなかったのかな。と、反応も。
具体的にどの辺がというのはなんとも言いがたいけど。

拐われてからは普通に展開が楽しかったです。

ゴッドハンド事件は、私はあったということくらいしかしらないけれども実際日本の考古学というか先史学の研究を遅らせた大事件だったらしいので、それをこういう風に話にいれるんだって思った。
だって想起するじゃないですか、知ってたらどうしたって。
名前も違うし、研究対象の時代も変えているとはいえ。
ウィキペディアによるとご本人もご存命らしいので風化するほど昔じゃない事件を、登場人物の過去と関わる感じで、そしておそらく実際よりひどい人物として描くことに違和感を覚えた。
不謹慎というより、フィクションと現実ののりしろを感じてしまう。
現実にあった事件と似て非なるものなので、この世界と作品世界は違うのだということをつきつけられるというか。
でも扱っているのが超古代史的なものだから、明確にしておいたほうがいいのかもしれない。
作品世界ではそーゆー遺物が出てきて邪馬台国とか天皇の祖先とかが書いてあるようなことだったけど、それが現実にはそうではないと示しておくのは必要な措置なのかも。混同する人もいないとは思うけど、超古代史の本とか、小説ならいいけど……みたいなことがさも事実かのように書いてあるし。

ところで、考古学と古生物学の発掘を同じ人が担うのは実際あることなんだろうか。
出てきたものをもとに研究するところからしか見えないので、実際に現場で掘っている人たちがどんな人かというのはあまり考えたことなかった。
もちろん研究者や学生やアマチュア愛好家も掘るんだろうけど、大規模な発掘になったときにどうやって人を集めるんだろう、とか。
派遣事務所というのはフィクションかもしれないけど、今まで考えたこともなかった隙間を想像するきっかけになったのは良かったです。

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『魔眼の匣の殺人』

屍人荘の続編。

「魔眼の匣」って建物名だったんだ!?

つていうのが、見取り図を見た感想です。何と思っていたわけでもないけど、まさか建物名とは思わなかったよ……。いや、推理小説で「○○の殺人」みたいなタイトルって地名とか建物名とか入ること多いけど、あまりに建物名っぽくないじゃん。


喪失が色濃く残る第一章冒頭。ひとりでお昼ご飯当てをする葉村君はあまりに悲しい。
正直、安心しました。
よかった。もっと葉村君の傷になって、そこにいた証を見せてほしい。明智先輩が好きだったんです。俺のホームズ……。
こう、最後まで読んで思ったんですが、「俺のホームズ」は明智先輩だけにして、比留子とはホームズワトソンじゃない関係性にしたほうが互いに(この互いというのはキャラクターと私ですがw)平和ではないかと思いました。
俺のポアロとか俺の金田一とか、そういう感じで。「あなたはピーター卿で、わたしはハリエットね(by ヴェリティ)」みたいな。
私はあまり古い時代のものとか読んでないのでわからないけど、今回ラストで示したような在り方の探偵助手コンビもいるんじゃないですかね、知らんけど。


さて。

斑目機関の手がかりを求めて、比留子と葉村は超能力者研究所を訪れる。そこで「この2日間で男女2人ずつ、4人死ぬ」という予言を告げられる。唯一の通路である橋を焼かれ、陸の孤島と化した「魔眼の匣」で、偶然居合わせた人々が予言通り死んでいく――という舞台設定。


情報の出し方がすごく犯人当てっぽかった。
駒に属性で目鼻つけてとりあえずのキャラクターにする感じとか、情報の出し方とか、大学生の頃にやっていたのとあまりにも似ていて、読者への挑戦がないのが不思議なくらい。もう少し物語が読みたかったかなと思いました。
こういう書き方だと、情報がでた瞬間に、あ、これ使うんだなとわかってしまうので、後々の伏線回収に驚きにくい。


前作に比べて、パンチ力が弱いなと思いました。
前作はほら、クローズドサークルの状況の異様さがまず魅力的で、そこでなぜ殺人が起きたのかというワイダニットや、語り手自身が○○○だったという驚きやらがおもしろかった記憶があります。

今回は予言がある状況でのクローズドサークルだけど、こういうかたちの予言だったら、こうなるよねという論理をひたすら丁寧にやった印象。
ロジックも着眼点や飛躍がおもしろいというより、そう言われてたらそう思うよねでしかなかったので……。
○○○○を組み合わせていたのは一捻りあったけど、トリックのためのトリックかなぁって思ってしまいました。
時計のあれはちょっと飛躍が大きい印象だった。
パンチ力の強い印象的なシーンも特になく。
強いていえば、犯人の動機について想像すると、残穢のとあるシーンを思い出して楽しかったくらい。
犯人を追い詰める一言もよかった。狂人の論理ですね。
あと、何人かの意図がぶつかって行動を制約された感じとかはおもしろかったです。希望をいえばもっと、予言を恐れて/予言に乗じて動こうとする犯人が多いと好みだったかなと思います。

リーダビリティは思ったより高かったです。さくさくと読み進められた。
前作みたいに、明らかにアレな倫理観の人もいないですし。とはいえ、メタ/リアル感覚がかなり違うなというのは強く感じた。

なんか、この状況だったらもうちょっとこの辺深く掘ったらおもしろそうっていうポイントが違うんですよね。
悪い未来を予言し続ける人が恐れられるのとか、カサンドラの昔からそうだよなぁって思ったのでその辺の心理や経験をもう少し読んでみたかった。
この予言の設定なら絶対男女取り違えとかあるよなーって思ったら、あんな感じだったり。
過去だってもっと何か、と思うものの、シリーズ続けてくにあたってあまり機関に関しても多くは語れないんでしょうね。

あとびっくりしたのは、人が死ぬのが遅い!
残りページ数これだけなのに、まだこれだけしか死んでない……みたいな。
紙の本は残り量がわかりやすいから、こういうリミットある系のものだと、このペア数であとこれだけあってどう収集つけるんだろうって気になります。

また登場人物の覚え方を解説しはじめてて脱力した……。これシリーズ毎回やるってこと?
あまりにいたたまれない気分になる。
こういうところです、ダメなメタ感。

なので今回作中で、子供にヒルコと名をつけるなんて……みたいな話があってちょっとほっとしました。しかし、産まれてすぐではまだ体質が明らかになってないのではという気もし、やっぱり何を思って名づけたんだ……と思います。
そういえば社会学の教授という立場というか役割がすごく便利に扱われていましたね。


ところでサキミが神服を泰子と呼んでいるところがあり、伏線かと思ったけど回収されなかったので単なる誤植かな?

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