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- 2016/12/08 『英国幻視の少年たち――ファンタズニック』
- 2016/12/05 『時が新しかったころ』
- 2016/11/29 『書楼弔堂 炎昼』
- 2016/11/27 『うちの執事が言うことには 9』
- 2016/11/25 『トランプソルジャーズ 名探偵三途川理vsアンフェア女王』
『英国幻視の少年たち――ファンタズニック』
しかし、高里さんを引き合いに出されるとそりゃあちょっと点が辛くなっちゃいますよね。好きなんだもん仕方がないよ。
比べるとかではなくて、方向性の話だということはまぁわかっていますが。
イギリス留学中の日本人大学生カイは幽霊が見える目をもっている。そこで英国特別幻想取締報告局の一員であるランスと知り合い、妖精や精霊と関わるなかで、少しずつ変わっていく、というお話。
高里さんっぽいって言われたけれども、舞台立てとか設定とかもあって、篠原美季とか香月日輪とかをなんとなく思い出す。
まぁ要するにそういう傾向の話なわけなのですけれども。
この寂しさは、確かに沁みるなと思いました。
”第二の目”があるせいか、カイもランスも二人とも孤独で、失う恐怖を抱えていて、半分くらいあっちの世界に魂を置いている。キャラクターとしてもそういう人として描かれているし、ストーリーも彼らの抱えた寂しさを読者に明かすように進んでいく。
カイの一人称の地の文も抑制された雰囲気で書かれていて、妙に残る。
だから、届く人にはきっと響くのだろうと思います。
私もたぶん好き。
いくつか、好きな台詞もありました。
「忘れたいことを忘れられない人間は、みんな寂しい」とか。
リチャードさんの台詞とかも、すごく良い。この小説の言葉って、寂しいし悲しいけれどなんとなく綺麗ですよね。だから好きになれるんだと思うけど。
寂しい人と寂しい人が出会って、孤独じゃなくなる話になっていくのだろうと思うんだけれども、これから先たとえどんなに仲良くなったとしても、彼らは寂しさを忘れることはできないんだろうなぁ。
主人公たち以外に出てきてたキャラクターがほぼ女の子だったんだけれども、妖精のスーも水の精霊のシンシアも、あとまぁ幽霊の美柴も、恋が執着になっているところが共通していてなんとなくおもしろい。
その辺が今後回収されたらすごくおもしろいだろうと思います。
あとどうでもいいことだけれども、妖精やら精霊やら吸血鬼やらそういったひとたちの総称を日本語でどう表現するのかって作者や訳者のセンスが出てくるところだよねって常日頃考えている。この物語では、そうした生物は「幻想的生命体」で彼らが引き起こす事件は「ファンタズニック」で、スマートではないけど名前つけるのは強いなと思いました。
phantasmicではなくてnなんですよね……。nはどこからやってきたんだろう。
比べて云々というか、いる場所は近くても向いている方向はきっと違うのでこれは単なる自分の好みになっちゃうのだけれど、もうちょっとキャラやストーリーの見え方が二転三転したほうがおもしろいなと思いました。
わりとありがちと思ってしまう感じだったので。
あの人が実は”幻想的生命体”だった、ってのもありがちの範囲内だから、そういう属性じゃなくて性質とかの点で何かほしかった。
というか、この人のはもっとライトじゃない小説を読んでみたい。
明るさではなくて密度として。
とりあえずこのシリーズも3作くらい出てるらしいので、続きを読んでみたいです。
『時が新しかったころ』
おもしろかったし、好きです。
あらすじ。
白亜紀後期の地層から出土した人間の化石を調査するため、トリケラトプス型タイムマシンで白亜紀にやってきたカーペンターは、二人の子供に出会う。彼らは火星の王子と王女で、誘拐されて地球に来たのだと言う。カーペンターは誘拐犯から子供たちを守ろうとする。
「たんぽぽ娘」を書いた人の作品だなぁ、っていうのが一番の感想です。読みながらも思っていたし、ラストシーンを読んで改めてそう感じた。
タイムトリップとボーイ・ミーツ・ガール。文章は爽やかで甘酸っぱくて。
ストーリーや舞台立ては異なるけれども、メインの部分は「たんぽぽ娘」と変わらないと思います。好きです。
が、長編だと少し間延びして感じました。
誘拐犯たちとの間でアクションシーンもあるし、火星の生活文化の描写とか、謎のクーの存在とか、興味をひく工夫は随所にあったんだけれども、でも途中が若干退屈だった。
訳者あとがきによると、中編版もあるらしいので、そっちも読んで比べてみたい。
っていうか、クーは何なんでしょうね。
謎のまま去っていってびっくりした。三目並べってまさか。
『たんぽぽ娘』(短編集)読んでても、なんていうか宇宙の絶対的存在がいる話が多かったから、そういうのが作者に共通する世界観なのかしら。電車のやつとか。
とはいえクーが謎すぎて。
火星人と地球人が見た目同じことの理由づけにはなっているのだけれども。
火星人は空間移動で、地球人は時間移動の方に文明が発展しているという違いがなんとなくおもしろいなと思いました。
でも、作中の「現代」が1998年なのがマジかって思う。ヤング80年代に亡くなってるらしいから、タイムマシンが実用化されている未来としてありえそうな年代設定ではないと思うんだけれども、なんでだろうなぁ。
私はあまり理系っぽい頭の構造をしていないので、時間SFって仕組みが分からずに読みにくく感じることが多いんです。でもこれは確かに最後の方とか、何が起こったのかは分からないままなんだけど、文章が綺麗ですごく読みやすい。
恐竜は、トリケラトプスとティラノサウルスとプテラノドンぐらいしか名前から姿形を想像できなかったので、グーグル画像検索をしつつ読んでいたんだけれども、その手間がないともっと没入できたなと思いました。
恐竜も好きなんだけれども名称を覚えられないのです。
『書楼弔堂 炎昼』
めちゃくちゃおもしろかったです。『虚実妖怪百物語』の百倍くらい(個人の感想です)
このシリーズって、明治時代の著名人が弔堂を訪れて憑き物落し的な塩梅で本を薦められるという話なので、続編を書こうと思えばいくらでもできるのでしょうけれども、破暁の語り手だった高遠彬自身も「1冊」を薦められて物語から退場していたのでどうなるんだろうと思っていたら、完全に語り手が変わっていました。
今回の語り手は十代後半くらいの女性。そんなわけで、この時代の女性の在り方についても触れられているのですが、厳格な元薩摩藩士の祖父に禁止されているので小説を読んだことがなかった、という設定がおもしろいなと思いました。
破暁、炎昼と続いたからには夕方とか夜とかそれ系のタイトルで続巻がたぶんあるんだと思いますが、そしたらまた違う語り手で話が展開していくんだろうな。
で、高遠彬にしろ今回も最後に名前を明かされる天馬塔子にしろ、ほかの客とは違ってたぶん非実在なわけなのですが、彼らがその後どうなるのだろうということが気になります。
続巻なりほかのシリーズなりで何か拾われるのでしょうか。
今回の語り手は塔子なんだど、彼女を主人公って言っても差し支えないんだけど、巻を通じて出てくる客がもう一人いて。その人のほうを主人公と呼んでもいいんじゃないかっていう気持ちです。
私は教養がないので、なんでこの人こんなに毎回出てくるんだろうと思って読み進めてて、3話目でようやく膝を打ちました。そりゃ京極さんも贔屓するはずだわ。
で、正体がわかってから読むと福來友吉との会話がすごいおもしろいし、彼が円了先生について語るところとか、南方熊楠の論文を取り寄せていたとかも興味深いです。
でも、ここで登場している松岡と『虚実』の方で呼ぶ子石で呼び出した人は全然別の人なんだろうなあなどとも思います。時代が違うとか観測者の膜がとかそういうだけじゃなくて。それとも同じなのかもしれないけれども。
しかし、明治を生きた著名人、特に文化人はだいたい弔堂で背中を押されたんじゃないの、って思っちゃいますね、ここまでくると。
作中に登場して本を薦められている人だけじゃなくて、会話の中で出てくる人とかも結構いるよね。田中稲城がどんな本を求めたか気になります。
ほら今文豪とか流行ってるらしいですし、そういうノリで売れるんじゃないですか、と適当に言ってみたり。いや京極だしめっちゃおもしろいしそうじゃなくても読んでほしいですけど。
弔堂を訪れる客は有名人ばかりなので、実作を読んだことなくても、何をしたか知らなくても、名前は知っている。聞いたことがある。といいつつ2話目の人は微妙。けど、もっと理解するために伝記や作品を読みたいなと思います。とりあえず新体詩は青空文庫に入ってなかったよ……。ちくまの全集に何かしら入ってた気がするのでその辺かな。岩波の新体詩の巻には載ってたのかしら。
この感じだと次は折口さんとか来るんじゃないですかねー。名前出てたから熊楠もあるかも。
あと今回は最初の方は特に、客が一度に複数人(語り手の塔子、レギュラーの松岡ともう一人)いるので、その場で議論が行われるのがおもしろかったです。順番は逆なのはわかってるだけど、この人が/この人にこういうこと言うんだ、というのがにやにやします。
「この人が」というのがなくても普通に議論が興味深かったり、明治時代の流行の考え方などを知れておもしろいです。「わたくし」という膜の話とか興味深いんだけれども、でもべつに目新しい話なわけでもなく京極さんはデビュー作からそういうことをずっと書いてますね。
その人が後に何をするか知って調べた上でそれに導くような物語のつくりをしているのは頭ではわかっているのですが、読んでいるときは私も明治時代の書楼弔堂にいる気分になるので。むしろ弔堂主人だけ現代(平成)的感覚でちょっと変な感じもする。なんていうか、ほかの客たちは明治時代を生きる人の感覚で考え、話している(ように書かれている)のに、そこに(結果を知っている)現代人が混ざっていて、現代の考え方や知識から教え諭しているような気がほんの少し、してしまう。言い方悪いけど異世界転生っぽい感じ。
いや、弔堂は別に現代的な感覚ですらないんですけどね。現代的っていうか京極夏彦的っていうか。
客のその後を知っているからこそその場での会話がおもしろく感じるのだけれども、この作品を読んでいる間は、弔堂での経験があって→その後の活躍につながった、という順番を信じていたい、信じさせてほしい。
というわけでその後を知っている私は、弔堂主人が源三さんに情を大事にと言ったのが死なないでと言っているように読み取れ、切ない気持ちになりました。
それと、私は近代文学が自然主義由来の私小説なのが嫌で(特別な体験をしてないと特別な作品を書けないのか思うと絶望するから)(というのは後付けの理由で、単に幼稚な体制への反発を引きずっているだけかもしれないけれども)ほとんど読んでいないのだけれども、そもそも自然主義というものの受け取り方が違ったんだとか、こういう考えをもって田山花袋も私小説を書いたのかと思うと手を出そうかなとも思うよね。
とはいえ破暁読んだ後にもそういうこと思ったものの別に泉鏡花も巖谷小波も読んでないですからね……
あと特定の作家とか作品とかではないけど、明治時代につくられた「伝統的な道徳」にも興味があるのでその辺も追々勉強していきたい。
ちょっと前巻の方を読み直してないんだけれども、弔堂主人の名前って前回出てきてましたっけ? 龍典さんというだけ? 苗字が知りたい。
もしや山田では――?
って思いついてしまったんですけど、ただの思い付きなんで検証のしようがない。
あと時代が合うのかもよくわからないです。
勝海舟とも乃木希典とも顔馴染みで、かつては禅宗の僧侶だった龍典さんの過去がいったいどういうものだったか、とても気になるんだけれども、明かされるのはこのシリーズではないんじゃないかという気がしてならない。
このシリーズは語り手と探偵役(と便宜上呼ぶ)が何者か分からないというところが重要なのかなと思うので。
御一新前から生きていたならどこかで御行一味とすれ違っていても不思議はないと思うんですけど。その辺どうなんでしょうね。
『うちの執事が言うことには 9』
今回でシリーズ完結らしいですが、第2部が続くようで、安心するような、嬉しいような、でもちょっとだけもやっとするような複雑な気持ちです。
今回の話も、すごくおもしろかったし、この子たちかわいいなーとにやにやしたりもしていたのだけれども、本音を言うとやっぱり薬屋探偵の方を出してほしいと思ってしまう。
いや、来年出るらしいことは分かってるし(狂喜乱舞した)、こっちを書いているからあっちが出ないという単純なことでもないのだろうとも想像はできますが。
作品の出来不出来とかそういう問題でもなくて、単に私の思い入れと年季の問題で、薬屋探偵の新作がやっぱり読みたいのです。
……という、微妙な気持ちから書き始めてしまったわけですが、別にこのシリーズが嫌いなわけじゃないんです。今回も普通におもしろかったですよ。
ただ、シリーズ完結というのがあんまり実感としてわからなかったです。
たとえばそれこそ『海紡ぐ~』とか『終焉の詩』とかって、すごく「この巻で完結」っぽさがあったじゃないですか。内容的に。
執事9巻が第1部最終巻というのは、言われなければわからなかっただろうな、と思います。
基本的にこのシリーズって、未熟な主従が個人としても主従関係としても成長していく話なので、巻を追うごとに成長してはいるわけですが、ここで完成というわけでもない。赤目さんや、沢鷹兄妹や、ほかのキャラクターたちとの関係が決定的に変わったわけでもない(ように思えた)ので、ほかの巻と同じく、通過点のひとつにしか今のところ感じられていないです。
でも第2シーズンになったら全然違う展開の話になるのかもしれないので、振り返ってみるとやはりと思うのかも。
この9巻は、巻を通じたテーマとして「誰かのために死ねるか」「全てを差し出せるか」みたいな問いが繰り返し出てくる感じで、すごく主従ものっぽかったですが、その問いに対するそれぞれのキャラクターの回答がその人らしくて、そういうところがとても良いなと思いました。
たとえば薬屋探偵のキャラとかがそういう問いにどう答えるかなーと妄想しても楽しいですよね。
石漱くん視点の話があってすごく良かったです! こういう子とても好き!
過去エピソード読んでますます良いなって思いました。
大学生なのだから、北海道にも行けると思うよ、また縁が繋がればいいよね!
でも鳳さんはいったいどういう手を使ったんだろう……。年齢と地方と全国大会出場である程度絞り込めるのかもしれませんが。
沢鷹兄や赤目さんの視点の話は、読んでもあんまり彼らが何考えてるのかわからないなって感じです。「可愛らしい嫉妬ではない」のが何なのか本当に分からないよ……。なに、重い嫉妬なの……? 花穎に友達ができたこと、ではなくて、それを橘がチェックしていたことに対しておもしろくないんだろうなとは何となく思ったのですが、その感情を言語化するのは語彙力がない私には難しいので、罪悪感を含む嫉妬になってしまう。こういうやり取りの後だったから、墓荒らし事件のときに主従交換したんだろうか。
赤目さんと橘と花穎の超シリアスなどろどろのBLが読みたい。
沢鷹兄の、他人に無関心ゆえに人当たりがいい性質はなんとなく座木さんを思い出します。
早苗さんは普通に素直でいい人だ、ってちょっと吃驚した。この兄妹にも彼らの背景があって、考えるところがあって、それでいろいろしていたのか、って思うと愛おしくなる。高里さんはそういうのを書くのが上手な人だと思ってます。短編の青枝さんの話とかもそんな感じ。今までモブでしかなかった人にもその人の物語があって、スポットライトがあたって主演になれば、みんな好きになれる。
花穎と衣更月は、順当に成長してきているなぁという感じで、見ていて安心できるし、すごくかわいいですね。
絵を見たときの会話とかすごく好き。罵倒してるはずなのに客観的事実だけだったり結果的に褒めてるだけだったりするのもかわいい。
あと、1話の台詞を回収してくるのもうまいなぁ。最期の方、かわいいしか感想出てこなかったです。あ、あとおいしそう、も。
未熟だからっていうのは、作中でもちゃんと理由があったんだなと納得しました。
『トランプソルジャーズ 名探偵三途川理vsアンフェア女王』
前作の、ワスレロモノで存在がほのめかされていた三途川の姉が出てくるんだけど、いつものごとく別に話が繋がってるわけではない。時系列的にはむしろ三途川が幼い頃の話。
そんな姉・三途川数は三途川理に輪をかけて悪辣でワガママなのにどこかかわいらしいのは、森川さんの書く女の子特有の浮世離れ感があるからでしょうか。あと、イラストがかわいいよね。
権々会じゃん、って言ったらものすごく嫌がられそうですけど、イカサマがあるのが前提で読む話の脳内前例が他にないのでなんとなく頭に浮かんでしまいました。
ほら、暗闇作るのとかそれっぽいですし(?)
ルールはごく普通のトランプゲームなんだけど、舞台がアリス的な不思議の国なので、当たり前のようにトランプは動くし喋るんですよね。タイトルからしてトランプソルジャーズですから。
で、そういう状況を利用して互いに試行錯誤するあたりがおもしろかったです。
三途川姉弟や、不思議の国の生き物たちがそれぞれ性質が違っていて、だから用いるイカサマの傾向も違ってるのがうまいなぁ、と。
最終的にああやって勝つというのも、そういう構造として見ればおもしろいですよね。都合良すぎるとも思ってしまいますが。
舞台がアリスの不思議の国で、話の構造もアリスを踏まえているのは私の好みどんぴしゃでした。構造っていうか、冒頭とラストですね。
数が赤の女王の役なのは言わずもがなですが、他のキャラクターたちもアリスに出てくるひとたちばかりで、読んでて楽しい。主人公が寝坊してばかりの時計屋の兎なのとか。
でも一番笑ったのは、ハンプティダンプティですねー。元探偵で、今は引退してかぼちゃ育ててるってどこのベルギー人ですか。
森川さんの換骨奪胎の仕方はいつも好きです。そういえば思い出泥棒も何か元ネタあったのかしら。
かいけつゾロリみたいな感じで、あるいはもう少し高学年向けにパスワードシリーズでもいいけど、児童書で出したら受けるんじゃないかなとやっぱり思います。