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- 2017/01/19 『おにぎりスタッバー』
- 2017/01/17 『週末探偵』
- 2017/01/12 『火星年代記』
- 2017/01/10 『黒いハンカチ』
- 2017/01/05 『天地明察』
『おにぎりスタッバー』
大学サークルの同期と先日あったときに、「売れないかもしれないけれども正しい本だ」と猛プッシュされて手に取ってみた本。
あのときああいう風にダイレクトマーケティングされなければきっと読んでいなかっただろうと思うので、彼女には感謝しています。
すごくおもしろかったです。
とりあえずあらすじを引用。
中萱梓。愛称アズ。見た目も成績も地味なのに「なんか援交だか売春だかをやっているらしい」という噂によって、クラス全員に避けられている。彼女があの時男を連れ込んで、俺が台所にいて、まあいわゆる修羅場になったせいで、魔法少女やらおにぎりやらが出てくる奇怪な事件が始まったんだが、そんなのは些細な話だ。俺が誰かも気にしなくていい。だけどどうか彼女の話を聞いてやってくれ。世界を巻き込む危険で切実な恋愛小説、登場。
あらすじは全然この物語のすべてではないのだけれども、じゃあどういう話かというのは、(ネタバレしないようにだとなおさら)うまく説明できない。数少ない読書経験から拾い上げるとハルヒ一人称の『涼宮ハルヒの憂鬱』みたいな?……全然違う気もするのだけれども。
地味で刹那的に生きていた女の子が、恋をして仲間を得ていく話……なのかな。
ただ、ストーリーというか、「起こったできごと」が重要な物語ではないのだと思う。
もちろん、ちょくちょくサプライズがはさまれるのは読んでいて楽しいし、あらすじの「俺」が誰かに思い至った瞬間はちょっと鳥肌が立ったけれども。
この小説の一番の魅力は文章かなと思います。
地の文がアズの一人称なのだけれども、一文がすごく長くて全然改行がなくて、目が滑るといったらまあそういう部分もあるのだけれども、リズム感と勢いがあって文章を読んでいて心地よい。
舞城みたいな……というより、軽さもあって「薔薇のマリア」のマリア視点の文も思い出したり。
キャラクターでいうと、サワメグが好きです。
若干、消去法的な選び方であることは否めないけれども。
だから、続編がサワメグとアズの出会いの物語で、たぶんサワメグ一人称なのかなと思うので、とても楽しみにしている。
彼女の決意を読みたいと思う。未来の可能性を売ってまで抜け出したいと思っていた場所も。ああ、そういうところがたぶん登場人物で一番、感情移入しうるから、好きなのかもしれない。
あのときああいう風にダイレクトマーケティングされなければきっと読んでいなかっただろうと思うので、彼女には感謝しています。
すごくおもしろかったです。
とりあえずあらすじを引用。
中萱梓。愛称アズ。見た目も成績も地味なのに「なんか援交だか売春だかをやっているらしい」という噂によって、クラス全員に避けられている。彼女があの時男を連れ込んで、俺が台所にいて、まあいわゆる修羅場になったせいで、魔法少女やらおにぎりやらが出てくる奇怪な事件が始まったんだが、そんなのは些細な話だ。俺が誰かも気にしなくていい。だけどどうか彼女の話を聞いてやってくれ。世界を巻き込む危険で切実な恋愛小説、登場。
あらすじは全然この物語のすべてではないのだけれども、じゃあどういう話かというのは、(ネタバレしないようにだとなおさら)うまく説明できない。数少ない読書経験から拾い上げるとハルヒ一人称の『涼宮ハルヒの憂鬱』みたいな?……全然違う気もするのだけれども。
地味で刹那的に生きていた女の子が、恋をして仲間を得ていく話……なのかな。
ただ、ストーリーというか、「起こったできごと」が重要な物語ではないのだと思う。
もちろん、ちょくちょくサプライズがはさまれるのは読んでいて楽しいし、あらすじの「俺」が誰かに思い至った瞬間はちょっと鳥肌が立ったけれども。
この小説の一番の魅力は文章かなと思います。
地の文がアズの一人称なのだけれども、一文がすごく長くて全然改行がなくて、目が滑るといったらまあそういう部分もあるのだけれども、リズム感と勢いがあって文章を読んでいて心地よい。
舞城みたいな……というより、軽さもあって「薔薇のマリア」のマリア視点の文も思い出したり。
キャラクターでいうと、サワメグが好きです。
若干、消去法的な選び方であることは否めないけれども。
だから、続編がサワメグとアズの出会いの物語で、たぶんサワメグ一人称なのかなと思うので、とても楽しみにしている。
彼女の決意を読みたいと思う。未来の可能性を売ってまで抜け出したいと思っていた場所も。ああ、そういうところがたぶん登場人物で一番、感情移入しうるから、好きなのかもしれない。
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サワメグだけではなくて、松川さんや穂高センパイやネジも、あとアズのお母さんやお父さんも、主人公になりうるポテンシャルをもっている。けれども、「おにぎりスタッバー」はアズの物語だから、ほかの人たちはアズから見える範囲でしか語られない。
これから、もしかしたらそういったほかの人たちが主人公で続編が次々と書かれていくのかもしれないけれども(カクヨムは読んでいないのでよくわからないけど)。
なんかね、そういうところは好きだし、主人公以外のキャラクターもこの物語のために作られたのではなくて広がりがありそうなところは好感がもてるんだけど、もどかしくもある。
結局、魔法少女とかおにぎりとかエクスカリバーとか境界って何なのよ!
っていうところが、気になってしまうのです……。
この世界は何なのか、いや場所自体は現代日本なのだけれども、普通に魔法とか鬼とかがあるので、そういったところの設定を、物語中である程度説明がほしかったと言いますか。
「おにぎりスタッバー」という本はこれで完成されているので、たとえばアズにとって当たり前のことは説明されないということでいいんだけど。
読者としては、説明がほしい。けどそれをどうやって盛り込むとうまく収まるのかがわからないです。
続刊が出続けたらいずれエクスキューズがあるのでしょうか……。
まあ単純に、ほかの人視点だとどういう話になるのか、読んでみたいです。全然違うものになりそうで。
『ハルヒ』っぽいと思うのはきっとそういうところ。
あと個人の友情や愛情が世界を救うのとか、セカイ系って感じで。
カスタードクリームケーキ食べたい。
そういえばカスタードクリームケーキって確かにあんまり食べたことないわ。
あと、読み終わってから調べたら章題がわりとそのままだった。うまいこと騙されていた感がすごいです。
おにぎりってそういう!
これから、もしかしたらそういったほかの人たちが主人公で続編が次々と書かれていくのかもしれないけれども(カクヨムは読んでいないのでよくわからないけど)。
なんかね、そういうところは好きだし、主人公以外のキャラクターもこの物語のために作られたのではなくて広がりがありそうなところは好感がもてるんだけど、もどかしくもある。
結局、魔法少女とかおにぎりとかエクスカリバーとか境界って何なのよ!
っていうところが、気になってしまうのです……。
この世界は何なのか、いや場所自体は現代日本なのだけれども、普通に魔法とか鬼とかがあるので、そういったところの設定を、物語中である程度説明がほしかったと言いますか。
「おにぎりスタッバー」という本はこれで完成されているので、たとえばアズにとって当たり前のことは説明されないということでいいんだけど。
読者としては、説明がほしい。けどそれをどうやって盛り込むとうまく収まるのかがわからないです。
続刊が出続けたらいずれエクスキューズがあるのでしょうか……。
まあ単純に、ほかの人視点だとどういう話になるのか、読んでみたいです。全然違うものになりそうで。
『ハルヒ』っぽいと思うのはきっとそういうところ。
あと個人の友情や愛情が世界を救うのとか、セカイ系って感じで。
カスタードクリームケーキ食べたい。
そういえばカスタードクリームケーキって確かにあんまり食べたことないわ。
あと、読み終わってから調べたら章題がわりとそのままだった。うまいこと騙されていた感がすごいです。
おにぎりってそういう!
『週末探偵』
住宅街に置かれた貨物列車の車掌車で、週末だけの探偵事務所を始めた男2人が、ささやかだけど不思議な謎を解く話。
うーん、おもしろくなかったわけではないのだけれども、期待していたものではなかったという感じです。
私は『夜の床屋』読んで何が一番おもしろかったかって、謎の不思議さ綺麗さももちろんだけど、そこから真相への飛躍の大きさだったんですよね。なんかいきなりファンタジーになったりとか。
だから、そういうのを期待していた。
でもこの『週末探偵』は、そこの部分がなくなって、よくある普通の日常の謎連作短編集みたいだった。
よくある普通の日常の謎短編集、別に悪くはないしある程度はおもしろいのだけれども、私がこの作者で読みたかったのはそこの部分ではなかったです。
普段は会社員をしていて、週末だけ探偵事務所を開く。しかも本業の妨げにならないよう、扱う謎は緊急性がなく犯罪に関わらない、些細だけれど魅力的な謎に限る。という設定はおもしろいなと思いました。
探偵が解くのが日常の謎であることを、ある意味で合理化している。もちろん、解いたら犯罪につながったということもある。
2人が探偵事務所にしている鉄道車輌だって、なんでそんなところにあるのか……ってのが「最初の事件」なのですが、実際に謎はとてもおもしろいんですよね。
現実と地続きのようで、少しだけ浮遊しているくらいの、気にしはじめると気になってしまうような、謎の「ささやかさ」のバランスが絶妙です。
ただ、謎だけを取り出したら不思議な状況なのだけれども、付随する説明を読んでいたらわりと「こういう方向性の話なのかな」という予想ができて、そしてそれはそんなには大きく外れない。
解けて嬉しいというよりも、もっとひねりがほしかった!ってなります。
特に帽子とか蝉の話でそう感じました。
謎の魅力でいうと、「桜水の謎」が好きです。
川を桜の花びらが流れていく、けれどもその川の上流には桜の木は1本もないはず――。
この短編は、真相に着地するまでの距離も比較的大きくて、その点も好きです。
短編集の中で一番、「いやいやまさか」って思う真相。
短編の中では他に「探偵たちの雪遊び」も好きなのですが、こっちは謎がない話です。倒叙っぽいとはいえ別にミステリをしていない話なんですよね。ただ雪遊びしているだけ。だから好きなのは、視点人物の少年に寄り添う気持ちになるからかもしれません。
探偵が2人いるのだから、キャラクター重視のバディものっぽい話になるのだろうかと思ってたら、全然そんなこともなかったですね。
探偵たちと周りの人々・依頼人という軸では、人間関係も描かれていたのですが、探偵同士の関係性は無に近かった。お互いがお互いをどう思っているかということが、特に何もなかった。べつに、BLとかブロマンスとかそういうのでもなく。
っていうか、探偵2人のキャラの書き分けを特に感じられなかった。
探偵が2人いるのは、たとえば議論したり勝負したりで、探偵役が1人の場合より試行錯誤する部分を不自然ではなくスピーディにするためなのかとは思ったのだけれども。そこで、どちらがどういう推理をしがちみたいなキャラ付けがあったらよかったのかな。
最後の2編は、そこまで「事件」にならなくてもよかったかなと思ってしまった。それよりも、ささやかで、不思議で、美しい謎をもっといろいろ読んでみたかった。
十五夜の猫ちゃんも、気になります。
うーん、おもしろくなかったわけではないのだけれども、期待していたものではなかったという感じです。
私は『夜の床屋』読んで何が一番おもしろかったかって、謎の不思議さ綺麗さももちろんだけど、そこから真相への飛躍の大きさだったんですよね。なんかいきなりファンタジーになったりとか。
だから、そういうのを期待していた。
でもこの『週末探偵』は、そこの部分がなくなって、よくある普通の日常の謎連作短編集みたいだった。
よくある普通の日常の謎短編集、別に悪くはないしある程度はおもしろいのだけれども、私がこの作者で読みたかったのはそこの部分ではなかったです。
普段は会社員をしていて、週末だけ探偵事務所を開く。しかも本業の妨げにならないよう、扱う謎は緊急性がなく犯罪に関わらない、些細だけれど魅力的な謎に限る。という設定はおもしろいなと思いました。
探偵が解くのが日常の謎であることを、ある意味で合理化している。もちろん、解いたら犯罪につながったということもある。
2人が探偵事務所にしている鉄道車輌だって、なんでそんなところにあるのか……ってのが「最初の事件」なのですが、実際に謎はとてもおもしろいんですよね。
現実と地続きのようで、少しだけ浮遊しているくらいの、気にしはじめると気になってしまうような、謎の「ささやかさ」のバランスが絶妙です。
ただ、謎だけを取り出したら不思議な状況なのだけれども、付随する説明を読んでいたらわりと「こういう方向性の話なのかな」という予想ができて、そしてそれはそんなには大きく外れない。
解けて嬉しいというよりも、もっとひねりがほしかった!ってなります。
特に帽子とか蝉の話でそう感じました。
謎の魅力でいうと、「桜水の謎」が好きです。
川を桜の花びらが流れていく、けれどもその川の上流には桜の木は1本もないはず――。
この短編は、真相に着地するまでの距離も比較的大きくて、その点も好きです。
短編集の中で一番、「いやいやまさか」って思う真相。
短編の中では他に「探偵たちの雪遊び」も好きなのですが、こっちは謎がない話です。倒叙っぽいとはいえ別にミステリをしていない話なんですよね。ただ雪遊びしているだけ。だから好きなのは、視点人物の少年に寄り添う気持ちになるからかもしれません。
探偵が2人いるのだから、キャラクター重視のバディものっぽい話になるのだろうかと思ってたら、全然そんなこともなかったですね。
探偵たちと周りの人々・依頼人という軸では、人間関係も描かれていたのですが、探偵同士の関係性は無に近かった。お互いがお互いをどう思っているかということが、特に何もなかった。べつに、BLとかブロマンスとかそういうのでもなく。
っていうか、探偵2人のキャラの書き分けを特に感じられなかった。
探偵が2人いるのは、たとえば議論したり勝負したりで、探偵役が1人の場合より試行錯誤する部分を不自然ではなくスピーディにするためなのかとは思ったのだけれども。そこで、どちらがどういう推理をしがちみたいなキャラ付けがあったらよかったのかな。
最後の2編は、そこまで「事件」にならなくてもよかったかなと思ってしまった。それよりも、ささやかで、不思議で、美しい謎をもっといろいろ読んでみたかった。
十五夜の猫ちゃんも、気になります。
『火星年代記』
すごく良かったです!
ブラッドベリは『華氏451度』だけ読んだことがあって、それはそこまで合わなかったんだけれども、『火星年代記』はすごく好きです。
なんだろう、「おもしろかった」というよりも「良い」とか「好き」という言葉で語りたい。
短編をひとつ読み終わって「すごく良いなぁ」という余韻にひたりながら次の短編を読むと、そっちも同じくらいに素敵、ってのが続いていく一冊でした。
あらすじはうまく説明できないんだけれども、1999年の冬から始まる、人類の火星への植民の物語。それぞれ独立した短編が断片となって、緩やかにひとつの長編を織りなしている。
はじめの頃、地球人の探検隊は火星人にほろぼされた。それでも地球人は何度も挑戦し、ついには火星を植民地とした。火星には地球の社会そのものが持ち込まれた。一方、地球では核戦争が始まった……。
みたいな感じ。
SF小説で、詩的な文章や幻想があるから小説として完成しているけれども、この作品で一番大事なのって文明批判なんですよね。
火星への植民の話だけれども、そこで起きていることは結局、地球上で現実に起きていたことを映したものにすぎないというか。
すべての描写は、物語は、現実の社会への警句になっている。
そういうところが良い、もっとこの問題について考えなくてはと感じる反面、小説が手段でしかないようにも思えてしまって、少しがっかりしてしまう。
批判されている文明や社会は、1950年に書かれた頃の予想しうる最悪の未来のひとつなんだろうと思いますが、作中の未来の年代を越えた今でも、状況は良くなっていなくて、むしろ後戻りしているんではないかというところがあり、このままでいいのか、と思う。
でも確実に当時よりも改善されているところはあるはずだから、どうか、この結末のような未来が現実には来ないように、我々はしていかなければならない。
核戦争による世界の終焉や、科学技術の進みに倫理や精神が追いついていない人類なんていうモチーフは使い古されたものだし、現在ではリアリティも薄くなっていると思うんですよね。冷戦時代なんかに比べたら。
でも、そういったことはかたちを変えて現在の現実社会にもあるんだろう。
SFの描く未来って、現実を反映していることが多いのではないかと思っているので、たとえば現代作家が『火星年代記』を書いたら、こういう風にはならないんだろうなぁ。
各短編について。
「空のあなたの道へ」はアメリカの黒人差別ってこんなに……なんていうか、根付いていたものなのかと吃驚した。勉強も想像力も不足していて恥ずかしいのだけれども、情報としては知っていても、実感としては知らなかったというか。戦後になってもこういうものが書かれる前提になるほどだったのか。
普通に好きな短編は「第三探検隊」「夜の邂逅」あたりです。
「第三探検隊」はブラックな感じでおもしろいし、「夜の邂逅」は二つの時間が交差する話なのだけれども神秘的で美しくて、ブラッドベリの文体と調和していて好き。
「地球の人々」も、星新一のショートショートにありそうな感じで、おもしろかったです。
短編の時代が下るにしたがってだんだん文明批判の色が強くなっていくので、純粋に好きとかおもしろいだけではなくて、少し読んでいて苦しくなっていくので、おおむね中盤ぐらいまでの短編の方が好きでした。
物語全体としては、後半も良いのですが。
「第二のアッシャー邸」は、もうちょっとポーを読んでいたらもっと楽しめたんだろうな。大ザルに殺されて煙突に突っ込まれたところとかは、わかったので笑えた。
あとこの世界でも焚書があったのか、と。
この作家の場合、そのモチーフを好んでいたというよりも、おそれていたのかなあと思います。なんとなく。私も嫌だ。
好きとは言い切れないのだけれども、どうしても心に残るのが「月は今でも明るいが」
個々の短編ではなくて『火星年代記』全体としてもこれが要というか、キーになっている気がします。
私自身、歴史と物語が好きだからスペンダーの考えに共感する。けれども、そのやり方には賛同できない。もう二度と元には戻せないものを壊すという点では、文化財の破壊も殺人も同じだから。
短編小説としても、作者の主張がつよすぎて少し身構えてしまうので、好きとは言い切れない。
ブラッドベリは『華氏451度』だけ読んだことがあって、それはそこまで合わなかったんだけれども、『火星年代記』はすごく好きです。
なんだろう、「おもしろかった」というよりも「良い」とか「好き」という言葉で語りたい。
短編をひとつ読み終わって「すごく良いなぁ」という余韻にひたりながら次の短編を読むと、そっちも同じくらいに素敵、ってのが続いていく一冊でした。
あらすじはうまく説明できないんだけれども、1999年の冬から始まる、人類の火星への植民の物語。それぞれ独立した短編が断片となって、緩やかにひとつの長編を織りなしている。
はじめの頃、地球人の探検隊は火星人にほろぼされた。それでも地球人は何度も挑戦し、ついには火星を植民地とした。火星には地球の社会そのものが持ち込まれた。一方、地球では核戦争が始まった……。
みたいな感じ。
SF小説で、詩的な文章や幻想があるから小説として完成しているけれども、この作品で一番大事なのって文明批判なんですよね。
火星への植民の話だけれども、そこで起きていることは結局、地球上で現実に起きていたことを映したものにすぎないというか。
すべての描写は、物語は、現実の社会への警句になっている。
そういうところが良い、もっとこの問題について考えなくてはと感じる反面、小説が手段でしかないようにも思えてしまって、少しがっかりしてしまう。
批判されている文明や社会は、1950年に書かれた頃の予想しうる最悪の未来のひとつなんだろうと思いますが、作中の未来の年代を越えた今でも、状況は良くなっていなくて、むしろ後戻りしているんではないかというところがあり、このままでいいのか、と思う。
でも確実に当時よりも改善されているところはあるはずだから、どうか、この結末のような未来が現実には来ないように、我々はしていかなければならない。
核戦争による世界の終焉や、科学技術の進みに倫理や精神が追いついていない人類なんていうモチーフは使い古されたものだし、現在ではリアリティも薄くなっていると思うんですよね。冷戦時代なんかに比べたら。
でも、そういったことはかたちを変えて現在の現実社会にもあるんだろう。
SFの描く未来って、現実を反映していることが多いのではないかと思っているので、たとえば現代作家が『火星年代記』を書いたら、こういう風にはならないんだろうなぁ。
各短編について。
「空のあなたの道へ」はアメリカの黒人差別ってこんなに……なんていうか、根付いていたものなのかと吃驚した。勉強も想像力も不足していて恥ずかしいのだけれども、情報としては知っていても、実感としては知らなかったというか。戦後になってもこういうものが書かれる前提になるほどだったのか。
普通に好きな短編は「第三探検隊」「夜の邂逅」あたりです。
「第三探検隊」はブラックな感じでおもしろいし、「夜の邂逅」は二つの時間が交差する話なのだけれども神秘的で美しくて、ブラッドベリの文体と調和していて好き。
「地球の人々」も、星新一のショートショートにありそうな感じで、おもしろかったです。
短編の時代が下るにしたがってだんだん文明批判の色が強くなっていくので、純粋に好きとかおもしろいだけではなくて、少し読んでいて苦しくなっていくので、おおむね中盤ぐらいまでの短編の方が好きでした。
物語全体としては、後半も良いのですが。
「第二のアッシャー邸」は、もうちょっとポーを読んでいたらもっと楽しめたんだろうな。大ザルに殺されて煙突に突っ込まれたところとかは、わかったので笑えた。
あとこの世界でも焚書があったのか、と。
この作家の場合、そのモチーフを好んでいたというよりも、おそれていたのかなあと思います。なんとなく。私も嫌だ。
好きとは言い切れないのだけれども、どうしても心に残るのが「月は今でも明るいが」
個々の短編ではなくて『火星年代記』全体としてもこれが要というか、キーになっている気がします。
私自身、歴史と物語が好きだからスペンダーの考えに共感する。けれども、そのやり方には賛同できない。もう二度と元には戻せないものを壊すという点では、文化財の破壊も殺人も同じだから。
短編小説としても、作者の主張がつよすぎて少し身構えてしまうので、好きとは言い切れない。
『黒いハンカチ』
A女学院に勤めるニシ・アズマ先生を探偵役にした連作推理短編集。
連作短編だけれども一作一作はごく短いし、どこから読んでもよさそうな感じです。
日常の謎っぽい雰囲気なんだけど、殺人とか盗難とか普通に警察沙汰の事件が起こる。
おもしろかった。
北村薫が何かで紹介していたという話を聞いたのだけれども、ベッキーさんシリーズに通じる上品さがある気がします。連載されていたのが昭和30年代らしいですし、作中の時間もたぶん戦後で発表時期とそんなに変わらないだろうから、設定とかはだいぶ違うんですが。
ニシ・アズマ以下、登場人物が全員カタカナ表記なのが気になる。本名でないだろう呼び名の人もいたし、匿名性ということなのかしら。
実際、名前はどうでもいいような話ですしね。
主人公のニシ・アズマと同僚の鶯と院長先生ぐらいはいくつかの話に通じて出てくるけど、その人たち含めても記号でしかない。
というかたぶん、古い作品だし、キャラクターに興味ないんだろうと思います。一方で、ニシ・アズマの小柄で愛嬌がある顔をした見た目とか、推理をするときには似合っていない赤縁のロイド眼鏡かけたりとか、そういうひとつひとつの要素はうまく使えば魅力的なキャラクターものにできそうで、でも当時は(という話なのかしら)そういう観念はないんだろうなあ。
それと似たような話なんだけれども。
短い話だということもあって、犯人の動機が全く語られないのがちょっとだけフラストレーションでした。
愛憎という意味での動機はまあどうでもいいんだけれども、なぜ犯人がそういうかたちで犯行を行ったかというところは何かしらのエクスキューズがほしかった。
だって表題作の「黒いハンカチ」も、あの人は何者かが気になってしょうがない。
「蛇」は珍しく動機がどっちの意味でも説明されていたけれども、その推理が本当かは明らかになっていないわけで。
この作品集の主眼が「探偵はどのように真相に気づいたか」というところに置かれているから、動機だの犯人の人となりだのが描かれないんだろうと思います。
どのように、といってもニシ・アズマが鋭い観察眼をもっているからといったことになるのだけど。そしてタイトルになっているものがだいたい一番の手がかりになるアイテムなのですが、だからといって展開がわからないのがすごい。
着眼点に関しては「時計」が一番好きです。びっくりしたし、納得した。
ただ、単調なのでずっと読んでるとちょっと飽きてきてしまいますね……。
これはどうでもいいことなんですが、主人公が教師のわりには生徒が特に出てこないし事件とも関係しないのが不思議な感じがしました。
雑誌の読者層が成人女性だからとか、当時としては女性の職業で知的なものは教師ぐらいだったとか、そういう理由なのかしら。
っていうかニシ家ってたぶんそれなりにいい家ですよね。アズマも働いてはいるけど、お金に困ってなさそうだし友達も裕福そうで、上流階級って感じ。ほんとうの貴族というよりは実業家とか知識人とかそういう系の。
だからベッキーさん思い出したのかも。
連作短編だけれども一作一作はごく短いし、どこから読んでもよさそうな感じです。
日常の謎っぽい雰囲気なんだけど、殺人とか盗難とか普通に警察沙汰の事件が起こる。
おもしろかった。
北村薫が何かで紹介していたという話を聞いたのだけれども、ベッキーさんシリーズに通じる上品さがある気がします。連載されていたのが昭和30年代らしいですし、作中の時間もたぶん戦後で発表時期とそんなに変わらないだろうから、設定とかはだいぶ違うんですが。
ニシ・アズマ以下、登場人物が全員カタカナ表記なのが気になる。本名でないだろう呼び名の人もいたし、匿名性ということなのかしら。
実際、名前はどうでもいいような話ですしね。
主人公のニシ・アズマと同僚の鶯と院長先生ぐらいはいくつかの話に通じて出てくるけど、その人たち含めても記号でしかない。
というかたぶん、古い作品だし、キャラクターに興味ないんだろうと思います。一方で、ニシ・アズマの小柄で愛嬌がある顔をした見た目とか、推理をするときには似合っていない赤縁のロイド眼鏡かけたりとか、そういうひとつひとつの要素はうまく使えば魅力的なキャラクターものにできそうで、でも当時は(という話なのかしら)そういう観念はないんだろうなあ。
それと似たような話なんだけれども。
短い話だということもあって、犯人の動機が全く語られないのがちょっとだけフラストレーションでした。
愛憎という意味での動機はまあどうでもいいんだけれども、なぜ犯人がそういうかたちで犯行を行ったかというところは何かしらのエクスキューズがほしかった。
だって表題作の「黒いハンカチ」も、あの人は何者かが気になってしょうがない。
「蛇」は珍しく動機がどっちの意味でも説明されていたけれども、その推理が本当かは明らかになっていないわけで。
この作品集の主眼が「探偵はどのように真相に気づいたか」というところに置かれているから、動機だの犯人の人となりだのが描かれないんだろうと思います。
どのように、といってもニシ・アズマが鋭い観察眼をもっているからといったことになるのだけど。そしてタイトルになっているものがだいたい一番の手がかりになるアイテムなのですが、だからといって展開がわからないのがすごい。
着眼点に関しては「時計」が一番好きです。びっくりしたし、納得した。
ただ、単調なのでずっと読んでるとちょっと飽きてきてしまいますね……。
これはどうでもいいことなんですが、主人公が教師のわりには生徒が特に出てこないし事件とも関係しないのが不思議な感じがしました。
雑誌の読者層が成人女性だからとか、当時としては女性の職業で知的なものは教師ぐらいだったとか、そういう理由なのかしら。
っていうかニシ家ってたぶんそれなりにいい家ですよね。アズマも働いてはいるけど、お金に困ってなさそうだし友達も裕福そうで、上流階級って感じ。ほんとうの貴族というよりは実業家とか知識人とかそういう系の。
だからベッキーさん思い出したのかも。
『天地明察』
江戸時代に改暦を成し遂げた、渋川春海の物語。
関孝和との交流と、家の仕事である碁と、生涯を掛けた歴術と、そして恋。
この小説は改暦の話ではなく、貞享暦を作った渋川春海の人生を描いた小説なんだ、と思いました。
読んだ感じは思っていたよりも、あっさり風味だった。
だからこそエンタメとしておもしろく読めるものになっているのかもしれない。
和算も、歴術も、技術的な話を詳しくしていたらたぶん難しくて読めないのではないかと思われるので。でももうちょっとその辺の説明や解説がほしかったかな。分かりにくかったというよりも、読み応えという意味で。
文庫版で読んだので上下巻分冊だったわけなのですが、下巻の半分ぐらいになっても暦造りが軌道に乗らなくて、このページ数で足りるのか不安になった。
その後も期待したほど暦造りをしていたわけでもなく……。
主題のはずなのに、それ自体があまり描かれていない気がして、少し肩透かしをくらった気分。
むしろ後半は特に、それに伴う政治的根回しがメインだったように思いました。
そういうのの方が有名人絡んでおもしろいし、元ネタとなる史料も残ってそうだから、書きやすいのかもしれない。
ラストシーンは大河ドラマみたいだった。というよりも、こういう史実とフィクションの融合させ具合が全体的に大河ドラマっぽいのかもしれない。
そもそも、やっぱり私は時代小説苦手だと改めて感じた。この本はそこまででもなかったけど、それでも地の文のメタさが気になってしまう。
現代に生きる我々には馴染みのない世界の物語なんだから、ある程度は地の文での背景説明はある方がありがたいんだけれども、登場人物の知りえない、その後の事情や西洋の話なんかを入れられると、うわぁって思う。
完全に神視点の記述が嫌なのかなぁ。
とはいえ、水戸と会津の気質の違いについて、幕末を想起させる表現をしていたところは良かった。
あと、この辺の記述は何か史料に基づいてるのかな? みたいな想像をしながら読んでいたのは楽しかったです。合っているかは分からないけど。
エンタメだなぁとも思ったのは、キャラクターがとても魅力的だったから。
道策がかわいくて好きです。実際はともかく、才気に溢れた若い男の子で、主人公を慕っているというのが、キャラとしてとても完成されている。
それから、建部と伊藤とのシーンは胸が熱くなった。天地明察という言葉の意味が沁みる。
歴史に残る大事業は人との関わりがあったから成し遂げられたんだ、というのはよくある物語の定型だけど、ちゃんとやってはまるととおもしろいものなんですよね。
だからこそ定型になるんでしょう。
関孝和との交流と、家の仕事である碁と、生涯を掛けた歴術と、そして恋。
この小説は改暦の話ではなく、貞享暦を作った渋川春海の人生を描いた小説なんだ、と思いました。
読んだ感じは思っていたよりも、あっさり風味だった。
だからこそエンタメとしておもしろく読めるものになっているのかもしれない。
和算も、歴術も、技術的な話を詳しくしていたらたぶん難しくて読めないのではないかと思われるので。でももうちょっとその辺の説明や解説がほしかったかな。分かりにくかったというよりも、読み応えという意味で。
文庫版で読んだので上下巻分冊だったわけなのですが、下巻の半分ぐらいになっても暦造りが軌道に乗らなくて、このページ数で足りるのか不安になった。
その後も期待したほど暦造りをしていたわけでもなく……。
主題のはずなのに、それ自体があまり描かれていない気がして、少し肩透かしをくらった気分。
むしろ後半は特に、それに伴う政治的根回しがメインだったように思いました。
そういうのの方が有名人絡んでおもしろいし、元ネタとなる史料も残ってそうだから、書きやすいのかもしれない。
ラストシーンは大河ドラマみたいだった。というよりも、こういう史実とフィクションの融合させ具合が全体的に大河ドラマっぽいのかもしれない。
そもそも、やっぱり私は時代小説苦手だと改めて感じた。この本はそこまででもなかったけど、それでも地の文のメタさが気になってしまう。
現代に生きる我々には馴染みのない世界の物語なんだから、ある程度は地の文での背景説明はある方がありがたいんだけれども、登場人物の知りえない、その後の事情や西洋の話なんかを入れられると、うわぁって思う。
完全に神視点の記述が嫌なのかなぁ。
とはいえ、水戸と会津の気質の違いについて、幕末を想起させる表現をしていたところは良かった。
あと、この辺の記述は何か史料に基づいてるのかな? みたいな想像をしながら読んでいたのは楽しかったです。合っているかは分からないけど。
エンタメだなぁとも思ったのは、キャラクターがとても魅力的だったから。
道策がかわいくて好きです。実際はともかく、才気に溢れた若い男の子で、主人公を慕っているというのが、キャラとしてとても完成されている。
それから、建部と伊藤とのシーンは胸が熱くなった。天地明察という言葉の意味が沁みる。
歴史に残る大事業は人との関わりがあったから成し遂げられたんだ、というのはよくある物語の定型だけど、ちゃんとやってはまるととおもしろいものなんですよね。
だからこそ定型になるんでしょう。