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2025/03/16 (Sun)

『ヨハネスブルグの天使たち』

『あとは野となれ大和撫子』がめちゃくちゃおもしろかったので、宮内さんのほかの作品も読んでみようと思って手に取った一冊。
宮内さんってすごい作家ですね。
溜息が出る。

紛争・テロ、高層建築、DX9(日本製ロボット。物理インターフェイスのあるボーカロイドみたいな感じ)、落下の四題噺みたいな感じの短編集でした。
落下し続ける少女ロボットのイメージが鮮烈。
5つの短編それぞれは全て同じ世界での出来事で、表題作以外は緩やかに関連している。共通する登場人物が出てきていたり、ほかの短編で描かれた出来事について記述されていたり。表題作がほかの短編と関連があるかはちょっと気づけなかったです。南アの内戦について軽く触れられてたくらい?

『~大和撫子』は政情不安定な中央アジアが舞台で、テロリズムとかも起こってはいたけれども、ノリが軽かったからしんどくなく読めたんですよね。主人公たちも、恵まれた立場にいたし。なんだかんだでハッピーエンドだったし。
その軽さは、やっぱりかなり意図的なものだったんだろうなと思った。その方が、間口が広がるだろうから。
『ヨハネスブルグの天使たち』はそれよりもシリアスで重くて、読んでいて素直に楽しいものではなかったです。
むしろ、しんどいけど圧倒される。すごい作品だった。
重さも含めて咀嚼しなければいけないと思う。
解説で引用されていた宮部みゆきの直木賞選評にあった、「『われわれは何者で、どこへ行こうとしているのか』を考えるためにある」作品だというのが、とてもしっくりきました。

各短編、終わり方に希望があるとはいえ、全体的にやるせないんですよね。
人は死ぬし戦いはなくならないし世界はどうしようもない。
何か重大な事件が起こるからどうしようもないんじゃなくて、内戦すらも日常で、その日常に閉塞感があることが、やるせない気持ちになるんだと思う。
「だから」とか「でも」ということは、それぞれの物語の登場人物が考えることであって、読者である私(たち)が考えることでもあって、でもそれは一致しない。
うーん何を言いたいのかまとまらないです。
考えなければいけないと言いつつ、そこで思考が止まって何も考えてないから、まとめるべきことが出てこないのかもしれない。

「夕立」で始まって「夜雨」で終わる構造は美しくて好きでした。
1話目と5話目は、少年少女が主人公なことでも相似形にあるんですね。

「ジャララバードの兵士たち」と、その後の話になってる「ハドラマウトの道化たち」が、特に好きでした。
「ジャララバードの兵士たち」がミステリっぽい(技巧ではなく物語運びという意味で)話だったからというだけかもしれない。
あとほかの短編は少し言葉足らずな気もして。


読んでいて伊藤計劃(というか『虐殺機関』と『ハーモニー』)を思い出しましたた。
近未来とはいえ、この地球の延長線上の話で、紛争やテロリズムをテーマにしてて、という設定のものをほかにあまり知らないから連想しただけかもしれませんが。
〈現象の種子〉はハーモニーっぽかった。

2作しか読んでいなくてそれだけを比べるのもどうかと思うんだけど。
『大和撫子』は、主人公は日本人の血を引いているけれども、生まれも育ちもアラルスタンなので日本人であることに物語上の意味はなかったんですよね。
インパクトのあるタイトルと、せいぜい日本人である我々読者が登場人物とあの土地に親近感をもつための設定でしかない。
で、一方この作品は、DX9が日本製のロボットであることや、登場する人が日本人・日系人であることには意味がありそうな気がしました。
具体的にどういう意味というのは言語化しにくいんですけど。他人事ではないというのはもちろんだけど、きっとそれ以上に。

とりあえず今のところ読んだ2作品は、テーマは比較的似ているけれども雰囲気がかなり違って、でもどちらもおもしろかったので、宮内さんもっと読んでみたい。
SF色強めのものとかも出してるんですよね。
とりあえず『盤上の夜』かなー。
『スペース金融道』もタイトルからして楽しそうな作品で、気になっている。


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つづきはこちら

各短編について。
ネタバレというほどのネタバレもありませんが。

「ヨハネスブルグの天使たち」
内戦が続く南アフリカで、マディバ・タワー(ポンテタワーがモデルらしい)から耐久試験のため落ち続けるDX9と意思疎通を試みる少年少女の話。
過去の話をしたり、一気に数十年後になったりと時間が飛ぶので、えっどういうことってなることも何回かあった。
カルヴァン主義の運命論と人種差別が合体してアパルトヘイトが行われたという説明には、なるほどと思いました。そこで出てくる「ニュー・マン」という概念が伏線になってこの物語の結末に収束していくのが良いですね。
この後の短編にも思うんだけど、人格をロボットに転写ってどういうことよ。
人格って何かとか自己同一性とか、そういう哲学的な話がどこかでもうちょっとあるともっと良かったんですけど、短編だし難しいんだろうな。

「ロワーサイドの幽霊たち」
死者の人格をDX9にインプットし、9.11の世界貿易センター崩壊を再現しようとする試みの話。
うーん、この話はよく分からなかったです。
9.11や世界貿易センターや行動分析学についてのさまざまな証言が挿入されるんだけど、そのせいで物語がかなり断片的になっていて、何が起こっているのかつかみづらい。
何が起ころうとしているのかは分からないけど、不吉な気配だけがずっと漂ってるし。初めは再現であることを知らずに読み進めるので、余計に。
前述の人格や自己同一性の問題は、議論されているわけではないんだけど、行動や記録のインプットと行動分析学の利用で、「行動が先んじれば、意識程度のものは後からついてくる」意識なんて「ノイズにすぎない」と言い切っている人が出てくる。それには反発を覚えるけれども、この企画については意識は必要ないのではないかと思うし。それでも結果的にビンツには意識が生まれているわけで。
そもそもなんで再現しようとしたのかがよく分からないんですよね。

「ジャララバードの兵士たち」
アフガニスタンで、旅行者のルイ(隆一)と護衛に雇われた米兵のザカリーが、米兵殺人の捜査をする。
紛争地帯の地雷原で、夜に殺害されていることがミステリー的不可能状況を作り出しているのがおもしろい。つまり、ライトがなければ地雷が爆発、ライトを点ければゲリラに狙撃される。
ルイが被害者とたまたま小学校の同級生だったこともあり、生前を知っている人に聞き込みをしたりするので、ストーリー的にはミステリーっぽいんですけど、この作品は推理小説ではないんですよね。だからトリックとかも別にない。
むしろワイダニットの方が物語的には重要で、そっちはすごく楽しかったです。
強いて難点をいえば被害者がルイの知り合いだったってのがご都合主義的すぎ。
あとルイとザカリーが協力関係になることと、幕切れがとても良かった。切ないけど好きです。
これが次の「ハドラマウトの道化たち」に直接つながっていくのも良い。

「ハドラマウトの道化たち」
世界遺産に登録されたイエメン、シバームの泥煉瓦高層建築。そこを支配する新宗教を排斥する米兵の話。
この話の主人公はザカリーの元上官だった日系人アキトで、たまたまシバームにいたルイが遭遇することで、物語が進展していくのがおもしろかったです。
あ、たまたまじゃなくて待ち伏せしてたのか、もしかして。
ということはそこまでの絆が生まれていたのだということがとても良いですね。
聖書のシバの女王のエピソードがモチーフに使われているのは好きです。聖書よく分からないんですけど。
世界遺産を傷つけないように闘えというアメリカの傲慢さや、多様性を掲げた宗教が画一化に陥ること、なんかは鋭い指摘だと思った。
サーバーのデータ処理による直接民主制という意思決定システムも興味深い。
世界遺産を傷つけないように工夫して戦略を立てるあたりもおもしろかったです。
人格転移に関するアイデンティティの問題はこの作品が一番正面から取り組んでいるようで、視点人物はアキトなので別にそこはメインではないんですよね。
アキトとタヒルがこの後どうなったのか、気になります。
部下の人たちにしろ町の人たちにしろ、抗生物質はそんなに簡単に手に入るものなのかっていう疑問は残りました。

「北東京の子供たち」
北東京の団地で、閉塞感を感じながら一緒に育ってきた中学生の誠と凛乃。この団地では毎夜、大人たちがDX9を利用した疑似的な自殺を楽しんでいた。
舞台が東京なので、ほかの短編と違って逼迫した生命の危険はない。けれども、だからこそどうしようもない不安感が町を満たしていて、子供たちは必死で抗おうとする。
少年が成長する青春の物語ということでうまくまとまっているんだけど、なんとなく物足りない感じがあります。
さらっと書いている文章が示唆的だったり(「何事も、許されてしまえば救われない」が印象深かった)、単品の青春小説としては良いんだけれど。この短編集の掉尾を飾るにはパンチが弱いような。
やっぱり日本がほかの国よりも余裕があるからかなあ。
スティーブとシェリルの話を読んだ後だと、家庭の問題で悩める誠と凛乃は恵まれていると思ってしまう。
だからといって彼らの悩みが価値が低いというわけではないんだが。
誠は隆一(ルイ)の弟なんだけど、大人たちの自殺遊びを止めるためにDX9を団地の一室に閉じ込めた話を聞いた隆一が「俺なら、ウイルスを流して住人の無意識の方を改変しようと考える」と言ったのにぞわっとした。
この団地の外の日本はどんな状況なんだろうというのは気になりました。移民が流入して、貧富の差が拡大して、それで?
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