めちゃくちゃおもしろかったです!
今年読んだ中ではトップクラス!!
舞台は中央アジア、干上がったアラル海に建てられた国家アラルスタン。主人公は紛争で両親を亡くした日本人少女ナツキ。彼女は後宮に身を寄せるが、大統領によって居場所のない有能な少女たちの高等教育機関となっていた。
ある日大統領が暗殺され、議員は逃亡、イスラム過激派の侵攻が迫る中、後宮の少女たちは「国家をやってみる」ことにした。
……というのがあらすじ、というよりも設定ですね。
物語はそこから始まって、イスラム過激派との戦いだとか、周辺国との外交だとか、後宮の「お局」との対立だとか、裏切りとかテロとか、演劇の練習や少女たちの友情と葛藤などなど、さまざまな要素があります。
めちゃくちゃおもしろいです。何度でも言う。
まず、雰囲気が異国情緒たっぷりで、そこに住んでいる人たちの暮らしをそのまま見ているみたいな感じ。現地で生まれ育った人たちの視点で描かれるので、私がそこにいるような、と感じるには距離があるけれども。だからこそ生活感があって良かったです。
アラルスタンって実際にあるんだっけ?って思わず地図を見てしまった。
そういう雰囲気の巧さは、『王とサーカス』とか『叫びと祈り』みたいな感じです。
冒頭で、砂漠は海でラクダは船に喩える歌を吟遊詩人が吟じていたから、想起したのかもしれないですが。
料理もおいしそうでした。
中央アジア料理って日本で食べられるところあるのかしら。でも私羊苦手なんだよな。
そういえばアラルスタンってアミルスタンと字面似てますね。
戦闘もあるしテロリストとも対峙するし、そもそも大国に挟まれた小国家が独立を維持しようとする政治の話なので、実際はかなり深刻なのだけれども、かなりライトに読めました。
筆致が軽いし、何といっても女の子たちが主役だからね。そして彼女たちはつらいときこそ笑おうとする。
もちろん読んでいて楽だったのには、ナツキの人柄もあると思う。無条件に人を信じ愛する無邪気さと危うさ。欠けたものはあるけれども、彼女に周りの人はきっと愛されることに救われていたのだと思います。
それでも読んでいる最中はやっぱりときどきハラハラするし、大人たちの無理解は悲しいし、人が死ぬときはしんどくなったけれども。
でも結局名前のある人は誰も死んでなかったですねよかった!中盤は本当にこの先どうなるか気になってどんどん読み進められました。
なんだかんだでこれから良くなっていくことを感じさせるような終わり方でよかった!
現実的ではないのかもしれないけれども、物語でくらい良い未来を思い描きたいです。
それにしても死んだと思っていた人が生きていたことにはびっくりしたよ。ちょっと都合が良すぎない?いや死んだと思わせておいてあそこで助けに来るナジャフめちゃくちゃかっこいいんですけど。好き。ラストは本当に素敵で、アラルスタンという国の行方も希望が見えるし、アイシャやナツキやほかの少女たちの成長も見られて良かったのですが、一番ふふってなったのはママチャリさん(仮名)です。わずか一年で形にしたんだね、愛ってすごいね。
途中途中にはさまれていたブログ部分が、緊張感を和らげてくれたと同時に外部の目から見るとどう見えるかを示していて良い演出だったなと思います。
アイシャが独裁者となる未来も、物語の展開的にはおもしろそうだけれども、ナツキとジャミラがいたら止められるだろうと信じている。
劇中で特に触れられてないけど、一応イスラム国家で女性が大統領になるのすごいですよね、たぶん……。
イスラム教国だからという意味では女性として不当に扱われるシーンはなかったけれども、一般に日本でも言われるような「女だから」とか、側室だから子供だからと無理解な大人たちに蔑まれるシーンは、私も女のはしくれなので読んでいて悲しくなった。
そういうところが、なんとなく昔読んでいた彩雲国とか図書館戦争とか思い出しました。
一方でイスラム過激派のナジャフは少女だからと見くびらないで、ナツキやアイシャやジャミラの手腕を正当に評価して接していたのが良かった。
ナジャフは本当にもうかっこよかったです。
信念を持って行動しているところが。
プロポーズ、その後結局どうなったのかしら……。
あれでも後宮にいると結婚できないのかしら、大統領からは側室扱いされていなかったとはいえ。
ところで彼はいつナツキがあのときの女の子だとわかったのでしょう……。
あと、メインで出てくる人たちが基本的にみんな頭がいい人ばっかりだったのでストレスがあまりなかったです。
というか真っ先に逃げていった議会の連中しかり、無能な人は敵対する存在として性格づけられていたので。
味方に無能な馬鹿がいて足引っ張られるのって、読んでて苛々しません?
宮内さんの作品は今回初めて読んだんですけど、SF作家ということで、アラル海の緑化とか水を集める塔とか地球工学とかの話はそれっぽかった感じがしました。
ほかの作品も読んでみたい。
「子供たちは狼のように吠える」といい、最近ロシア周辺の国と地域(ざっくり)の小説に面白いものが多いので、その辺が舞台になっているおもしろい小説がほかにもあったら読んでみたいです。
これを読んでくださっている方でおすすめの作品があれば、ぜひ教えてください。
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