そういえば私、北方謙三も初めて読んだんですけど、ハードボイルドもまともに読んだのこれが初めてでした。
どんなジャンルであれ、そのジャンル内の約束事なりジャンルである故の評価基準とかあると思うんですけど、そういうわけで的外れな感想かもしれません。
おもしろかったのかは正直よくわからないです。不快とかつまらなかったとかは全然ないんだけれども。
まず、裏表紙の紹介がめちゃめちゃかっこいい。これ読んでもストーリーは全く分からないけど(笑)
引用します。
冬は海からやって来る。毎年、静かにそれを見ていたかった。
だが、友よ。人生を降りた者にも闘わねばならない時がある。
虚無と一瞬の激情を秘めて、ケンタッキー・バーボンに喉を灼く男。
折り合いのつかない愛に身をよじる女――。
夜。霧雨。酒場。本格ハード・ボイルドの幕があく!
ストーリーは、
クラブ『ブラディ・ドール』などを経営する実業家、川中が市長や暴力団や怪しい男たちから付け狙われるようになる。川中の弟は会社の機密を盗んで失踪しており、その機密情報や企業の暗部情報をめぐって様々な陣営が対立、抗争が起こり人が大勢死ぬ。
……みたいな感じ?うまくまとめられない。
読み始めは語り手の川中も、読者も何が起こっているのかが分からなくて、徐々に起きていることの背景や川中の過去が判明していく構造で、そこの引きが良かったです。
でも、人が死にすぎで、読んでいてちょっとだけしんどかった。
物語上重要な意図がある人とか、モブ悪人とかは、なんていうかまだいいんですよ。意味のある死だから。でも人が大勢死ぬとどんどん一人当たりの死の重みがなくなっていくような気がして。この人なんで死んだん?みたいに感じることもあって、しんどかったです。
特に内田と神崎。っていうか神崎。こんなに死ぬ必要なかったんじゃないかと思った。もっとどうにかならなかったのかとも。
全体的に、ざらっと乾いた雰囲気を感じました。
文章、文体というよりももっと曖昧に雰囲気なんですけど。
たぶん、主人公の感情を殊更に言語化しないようにしているから、そういうものを感じたのかなぁと思う。
悲しいことを「悲しい」とは書かないけれども、たとえば大切な人が死んでしまったところとかでは熱い感情を感じられる。その書き方がかっこいい。
弟が死ぬシーンが好きでした。
台詞もところどころかっこいいものがあって、好きです。
記録媒体がマイクロフィッシュ?で、時代を感じた。携帯電話もないんですねー。
女性の書き方は、時代というよりもジャンルの特性なのかもしれない。
男性キャラはかっこいいし好きなんですけど、女性キャラは微妙でした。
美津子も秘書の圭子も、配役的にはヒロインかもしれないけど、正直なところこの女のどこに惚れたんだみたいな気持ちになった。
うーん美津子については川中との関係がけっこう描写されるからまだ納得できるんですけど、圭子の方は本当につけたしっぽく感じました。最後のシーンね。
圭子に関しては、「私は、ただ彼女を守るだけでなく、そのことで別のなにかを守る気でいるのだ」という川中の言葉はものすごく印象に残っていて好きなんですけど。
解説で、北方さんが「ハードボイルド小説は女々しくていいと思う」と語っていたとありましたけれども、女々しいところもある男性キャラクター以上に女性が女々しくて、なんだかもやっとした。
10年ぐらい前によく見ていた同人サイト(複数)で、このシリーズが扱われていて、人気なんだなと思っていたんだけれども、一巻を読んだぐらいではその人気の理由までは分からなかったです。
とりあえずもう何冊か読んでみようと思う。
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