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2025/03/15 (Sat)

『それまでの明日』

待望っていうほどには待っていないのだけれども、ともかくも原尞の新刊!
昨年の秋頃に初めて読んでめちゃくちゃはまって、でも10年以上続き出てないのかーと思っていたところ年明けに新刊の告知が出たので、読んだ時期がすごく良かったなと思います。
そんなわけで、前4作と短編集からあまり時間を空けずに読んだので、14年とか待った人の感想とは違うのかもしれない。

おもしろかったし、とても読みやすかった。
一章一章の区切りが短いのと、会話が多かったのが読みやすさの理由だと思います。
ただ、やっぱり初期三部作の方が好きかなと思う。

沢崎のもとを望月皓一と名乗る金融会社の支店長が現われ、赤坂の料亭の女将の身辺調査をしてくれと依頼する。調査を始めると、その女将は死去していることが判明。沢崎は望月の勤める金融会社を訪れるが、そこで強盗事件に巻き込まれ、依頼人は行方不明となっていた。

という話で、中盤は強盗事件の捜査と望月の捜索に乗り出すわけなのですが、その部分って別にこの小説における核心部分ではなかったんだろうなと思う。
じゃあ何が核心かというと、テーマは父子だったのではないかと。
そのテーマを補強するかたちで挿入された、近頃の親子関係を示すちょっとしたエピソードが好きでした。

あとファンサービス的なくすぐりが多かったですね。
冒頭からして、今まで渡辺探偵事務所を訪れた「記憶を失くした射撃選手」や「性転換したゴースト・ライター」や「探偵志願の不良少年」について触れているので、とても楽しい。
久々に読むファンにも新規の人にも、この世界の広さや繋がりを示しているのかなと思った。

ものすごく気になったんだけど、捜査の課程で沢崎が聞き取りする人々、親切すぎない?
みんなこんなにペラペラ喋ってくれてたっけ?なんかもっと警戒したり後ろ暗いところがあったり意識的にも無意識にも嘘を吐いていたりして、こんなに要点の整理された証言を引き出せることが少なかったイメージ。
だからこそ沢崎がはったりを言ったり誘導尋問をしたりして、どうにか使える証言を引き出していた気がする。そこがおもしろいところのひとつでもあった。その過程で沢崎がかっこいい皮肉を言ったりしていて。
なので沢崎が身元を偽って訊き始めたときに証言するのは良いんだけど、その後本当の身分を明かしたときに驚いたり怪しんだりしないのがすごく違和感があった。
そういう風に、証言が都合よすぎるのって(本格)ミステリにありがちな現象だと思うんですけど、原尞はその意味では本格の人じゃないじゃないですか。むしろ捜査シーンはハードボイルド的ででも謎解きは本格っていうところがおもしろい作家だったはず。どうしたんだろう。
あれかな、14年の間に東京の人々がまるくなって自分語り大好きになったのだろうか。錦織や橋爪も、そもそも沢崎も幾分か柔和になった気がするし。彼らは年のせいだろうけど。
依頼人や海津が長々と喋っていたのは、むしろそこがこの物語の中で大事な部分だったからまぁ構わないと思うんです。そこでの沢崎とのやりとりはかなり好きなシーンだったので。

上にもちょっと書いたけど、錦織も橋爪も、本当にまるくなりましたよね。びっくりした。
確執の原因がなくなって久しいからなのかなとはちょっと思った。
それでも悪態をつき合っているのは、「習い性になる」という表現が作中にも出てきたけれど、まさにそんな感じなんだろうなと思いました。
憎みつつも長く沢崎を知っているわけで、何を言ったらどう動くかみたいなこともある程度想像しうる関係になっているから、以前ほどやかましくはなくなったのかなと妄想。
あと今回は主に田島警部補が沢崎と一緒に行動していたし、彼の方が何かと甘いからそんな感じが強かったのかもしれない。
暴力団や警察のような強い立場の人にもへつらわないのが沢崎のかっこよさのひとつだったと思うので、それが形骸化してしまった感があってちょっと寂しかったです。
むしろ今回は海津との対話の中で「父親」のように諭したところとかがかっこよかったかな。ルポライターの佐伯(準レギュラー化するとは思っていなかった)に対しても、似たような面を見せるような気がする。
あと、未だに携帯電話を持っていない辺りは一貫していて好き。社会を風刺する目線とかも相変わらずでかっこいい。

ミステリ的な部分というか、強盗事件についてはまず顛末がおもしろかった。
で、そこから行方不明の支店長を探すところとかはちょっと順調すぎる気がしたけど、読み終えたあとに振り返ると、たぶんそこに筆を割くつもりはなかったんだろうなと思う。証言をした人が気前よく情報提供してくれてばかりいたのは、結局はそういうことだったのだろう。
暴力団とかがいろいろと出てきた段階で、捜査をして新情報が出てくるのはおもしろいけれども推理自体のおもしろさではないんだろうなと気づいてしまった。
謎解き部分のおもしろさはやっぱり、最初の三作の方がおもしろかったなと思う。
でも望月が発見されて新宿署で対面したシーンは普通にびっくりしました。


最後のあれは、現代を舞台にして実際の事件とかにも言及する作風である以上、書かずにはいられなかったのかなと思いました。
海津君……無事だといいんだけど。儚い願いだと知りつつ、祈らずにはいられない気分にさせられた。好青年っぷりが強調して書かれていて屈折も含めて良い人だと思えた。沢崎との関係性も良かった。だから、なおさらしんどい。死亡フラグがすごいけど、また会う日を願わずにはいられない。

読んでいる途中で「今回の話は何年ごろなんだろう。震災はまだ起こってない気がするけど」という話をしたら、相手は一足早く読み終わっていて微妙に口を濁されたので、もしかしてと察してしまったのが悔しい。あれですね、読み終わる前には読み終えている人と不用意に話さない方がいいですね。
それはそれとして、『一八八八切り裂きジャック』を思い出しました。

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