久々に作家アリスシリーズを読んだ気がします。
最期に読んだのはたしか菩提樹荘だったけれども、一年前くらいかな……と思って読書メモを見てみたらちょうど去年の10月20日に読んでました。なんでしょうね、秋に読みたくなるんですかね。
まぁ菩提樹荘も短編集ですから、長編は本当に久しぶりで。そのせいか、原作ってこうだったっけ……と思うこともしばしば。
でも実際、いつもと違ってはいたんだろうと思います。
一番は、半分以上アリスが単独で捜査していることかな。火村が現場に到着してるのが320ページあたりで、全540ページくらいの単行本なので、半分じゃきかないか。途中、電話での指示とかはあるにしても、火村抜きでここまでやれるのか、と意外に思いました。作中でも言われているけれども。いつも賑やかし的な珍解答(ときにそれが探偵にとっては大きなヒントにもなる)をしているイメージがあったので。
もちろん火村も、現場に来てすぐ新事実を発見する活躍ぶりでした。
あまりミステリっぽくはないな、という印象が読み始めからあって、それが読み終わるまでずっと続いていた。
もちろんやっていることは推理小説でしかないのだけれども。
「ホテル暮らしをしていた梨田稔という男の死は、自殺か他殺か」「彼はどういう人だったのか」というのがこの小説で解き明かされるべき謎で、それを解明するためにすごく丁寧に来歴や、何を考えていたかということを追っていくつくりだから、そういう風に感じるのだと思います。
でも「どんな人間か」「何を考えていたか」なんて結局解きようがない謎だし、だから本格ミステリとか犯人当てとかでは蔑ろにされている……ような気がする。サンプル数が少なくて偏っているからそう思うんだろうけど。もちろん、そうじゃない作品もあるし、そこの部分をちゃんと考えている小説が私は好きなのですが。
だからトリックとかの派手さはない(有栖川作品ではもともとない気もする)けれども、深みがあって、好きです。
アリスが随所で梨田稔の幻と会話しているのも、どんな人かという推理が合っているか証明しようがないのをもっともらしくする苦肉の策なのだろうと思うし、そういったところとか結局真相といっても想像としてしか描かれないので、何が本当にあったか判然としないあたりが、若干もやっとしたのだけれども、まぁしょうがないんだろうな。
捜査シーンでも、適度に新しい事実が分かっていったり、今までにあった手がかりが繋がっていったりするので、楽しんで読める。たとえ螺旋のような進捗具合でも、前進しているんだというのがわかるとしんどくないんだな、と思いました。
そして、ラストシーンが爽やかで良いですね。
あと、読んでいるといろいろな欲を刺激された。
欲といっても、フレンチおいしそうだなとか、中之島に行って素敵な近代建築見たいとか、コーネル・ウールリッチの本読んでみたいとか、ホテル暮らししてみたいとか、そういう類のもの。
それぞれのものが魅力的に書かれてるからなんでしょうね。
3つ理由がそろったら……っていうのも何となく含蓄がありそうな気がしたのでとりあえずここに書きとめておく。
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