二話目の海霧の町の雰囲気がすごく好きです。
そのほかの話も、ちょっと地面から浮いている感じがあって好き。
幻想的な雰囲気があるから、幻想的な解決も納得できる……かもしれない。
会話も軽妙で、読んでいて楽しかったです。
でも、主人公もほかの登場人物も、どういう人なのか、どういう関係性なのかとかがあんまりよくわからなかったなぁ、と。
特に主人公。一人称視点の語り手でもあるのに、状況説明はしてくれても感情とかは特に言わないから、大学生ってことくらいしかわからない。
冒頭からしてなんで遭難しかけていたのか謎のままだし……。
伏線になりうる部分の説明はすごく自然かつ印象に残るくらいの描写なので、そこの部分は巧いと思うんだけれども。
キャラクターについてもうちょっとわかったほうが、安心して読めるかな。個人的には、推理小説だと、推理をしている人が(読者にとって)何者かがわからないとなんとなくすっきりしないところがある気がします。探偵役やほかのキャラクターの人物描写によって、推理自体への信頼度を高められるというか。
論理の飛躍というのがどういうものをさしているのかあまりよくわからないのだけれども、ハウダニットかと思いきやワイダニットだったり、推理小説かと思いきや超常的な方向に向かったり、結末は確かに予想外。自分でも推理しながら読んでいてさらにその上をいかれるみたいな意外さではなく、小石をたどって歩いていたら魔女の家に連れていかれたみたいな。うーん、うまくたとえられないです。
っていうか、最期の方の話がそういうそれまでの感想を全部持っていった感じで……。
人魚って何!?それこそ東京創元社の日常の謎系連作短編集で、ばらばらだった短編が最後につながるってのはよくあるイメージなんですけど、確かに繋げてはいるんだけど、なんかそういうのでもない感じ。
個人的には、そこまで繋がらない方が好みかなとは思いました。
それか、繋げるなら繋げるでもうちょっとかちっと伏線はめるとかの方が。
余韻残す終わり方もいいけど、これはさすがに、最後の飛躍が大きすぎるから……。というより、無理やりすぎない?という気持ちの方が強い。二話目三話目とのつながりはともかく、一話目がかなり無理ある。香水というだけでは。
廃工場は食品関係の工場なんですよね……。
ロマンが広がりますが、ロマンを感じるにはやっぱり根拠が薄いなぁ、と現実に引き戻されてしまうのです。
「『眠り姫』を売る男」の密室殺人(?)も、明らかになった衝撃の事実によってごまかされたけど、殺人事件自体については筋がとおっていないような気がするのです。
筋がとおってないというか、明かされた事実以上に説明されていないことの方が多いので、本当にそれで解決でいいのかわからない。
人魚って鋭い牙あるの?とか、足がないなら結局どうやって移動してるの?車椅子にしてもどこから持ち込んだ?みたいな疑問が多々ある。人魚っていうからには下半身魚なんだろうけど、クインが彼女を「愛した」ってのは……みたいな下世話なあれも含めて。私が書いてある以上のことを読み取れない阿呆だからかもしれないんですけど、最後の方は全体的に説明不足な気がしました。前半からちょっと描写不足な感じはあったけれども、奇想天外なことをやるなら特に、納得させられるだけの説明/描写をしてほしいです。
そんなわけで、なんで百五十年でも早すぎるのかいまいちよくわかってないです。
解説やプロフィールを読むと、「『眠り姫』を売る男」が新人賞の最終候補まで残った作品で、「夜の床屋」が受賞作らしいんだけれども、よくこんな雰囲気も何もかも違う話をひとつの連作短編集にまとめようと思ったな……って感じです。
いや、まとまってるのかな?
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