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2025/03/16 (Sun)

『試行錯誤』

バークリーは、今まで『ジャンピング・ジェニイ』と『毒入りチョコレート事件』を読んで、どちらも私には合わないなと思っていたのですが、『試行錯誤』はびっくりするぐらい面白かったです。

まず、設定にわくわくする。
医者から余命宣告をされたトッドハンター氏が、残り数か月の人生を使って、社会にとって有害な人間を殺そうと決意するところから物語は始まる。
じゃあ具体的に誰を殺すのかとなって被害者候補を選ぶためにいろんな人に話を聞いたり、犯罪計画を練ったり、自分を有罪にするために捜査をしたりという「試行錯誤」が読んでいてとても楽しい。物語が思ってもみなかった方向にどんどん展開していく。

以前読んだ2作もそうだったけれども、この作家の作品は、物語が進むにつれて見え方がどんどん変わっていくのが魅力なのかなとぼんやり思いました。
3作読んだだけで作風決めつけるのは暴挙ですけど、今まで読んだ3つに共通しているなと思って。
だとしても、「見え方が変わっていくこと」が多重推理として表れるよりも、こういう風に、計画の修正とか警察との攻防みたいな方向で見せてくれる方が私は好きです。

裁判での丁々発止のやりとりも、読んでてわくわくした。
あくまでトッドハンターを無罪扱いする警察の見解に、重箱の隅をつつくように応酬するところとか、そうくるのかと思って楽しかったです。
基本的にはトッドハンターに肩入れして読んでいるので、手に汗握るといいますか。
法律用語とかはちょっとまわりくどい言い回しとかもあって、読み返したりもしたけれども。
法廷ものを他のもいろいろ読みたい気分になりました。


殺害計画を持っている人が主人公なので倒叙なんだろうとは思うんですけど、倒叙っぽさは特に感じなかったです。たぶん私のイメージでは、倒叙ものって「警察(探偵)にばれたくない」という緊張感で話を盛り上げるところがあるんですよね。でもこの作品は真逆で、警察に自分が犯人だということを信じさせようとする。
そこの逆転が皮肉でおもしろかったです。

そうした構造の逆転だけじゃなくて、全編を通して皮肉とユーモアが利いていて、読んでいておもしろかったです。ウッドハウスに献辞が捧げられてるだけのことはあるなって思いました。
初めの方の、トッドハンターの主治医の死についての一風変わった価値観とか好きです。
あべこべな裁判や政府と大衆のやり取りなんかも、イギリスの司法制度に対する風刺なのかなって思ったけど、1930年代のイギリスの司法がどんなだったか実際知らないから。

最初に被害者候補を決めるときに、ヒトラーとかムッソリーニとかの名前が挙がってて、確かめたら1937年に出版されたものだったので腑に落ちた。
そしてヒトラーにせよムッソリーニにせよ、暗殺したところで第二第三の独裁者が現れるだけだみたいな結論になっていて、その当時でこういう風に書けるんだなって思いました。
19章で、トッドハンター氏の行為がファシズムだと非難されるのも、1937年という背景を考え合わせると興味深いです。

それから、トッドハンター氏の人物が好感を持てるタイプだったので、それも読みやすかったところでした。
ちょっとおばかさんなところはあるけれども、基本的には善人だし、頭も悪くないし。
死ぬ直前にしたことが、すごく素敵だなと思いました。死ぬ前に社会のためになるようなことをしたいとずっと思っていたことが、そういうかたちでも発揮されているというのが。
読んでいるときには気づかなかったけれども、それを読み取れるぐらいには人物描写がしっかりしていたんですね。
ファロウェーと出会ったときの嘘とか、淑女についての見解とか、トッドハンター氏の考え方が随所で説明されているのに、それがわりと物語の中で自然に挿入されていたような気がしました。
私は利己的な人間なので、ちょっと前に会った人たちのためにここまでするのはちょっと信じられない気分なのだけれども、トッドハンターがそうしたのは理解できるというか。気持ちは分からないけれども、この人ならこうするだろうという風には思えるようには心理描写がちゃんとあったのだと思います。

心理描写がかなり多いけど、深刻に悩み込むようなこともなくて、皮肉とユーモアたっぷりの明るい雰囲気だったので、読んでいてすごく楽でした。
文章も翻訳もののわりには読みにくくなくて。
ところで昔のミステリってわりと詩人の人が翻訳してること多くないですか。この鮎川信夫もだし、田村隆一とか。

真犯人が誰かはともかく、トッドハンター氏が本当に殺したのかはずっと半信半疑だったので、オチはまぁ納得という感じでした。でもあれがあったからなおさらおもしろかったです。探り探り会話をする様子なんかも楽しかった。
ところで、ページをめくってその人の名前が出る十角館のような形式をとるのなら、解説も偶数ページ始まりにしてほしかった(うっかり見ちゃったので……だから何ということもないけど……)

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