「奇妙な味」のアンソロジー。
「奇妙な味」は好きなわりに定義とかよく把握していないので、解説によるとミステリともSFとも怪奇幻想小説とも付かないものらしいんですけど、この短編集はどちらかというとミステリよりもSF・怪奇寄りかなって思いました。
編者あとがきでちょっと不思議に感じたのは、奇妙な味とブラックユーモアって明確に分けられるジャンルなのかしらって。
重なり合う部分はあるけど、ブラック味が強すぎたら奇妙とは言えないよね、という感覚はなんとなくあるけど。
「〈奇妙な味〉の復権が著しい昨今、こちらが忘れられがち」と言われるほど違うものだったのか、と思いました。
こういうアンソロジーだから、全体的にとても好きとかめちゃくちゃはまったとかはないんですけど、いくつかは好きなものや印象に残った作品がありました。
特に好きなのは、「アダムズ氏の邪悪の園」「街角の書店」
好きだと言い切れるほどには理解できてないんだけど、それも含めて印象深いのが「赤い心臓と青い薔薇」「遭遇」でした。
何ていうか、現実とも幻想ともつかない作品は好きなんですけど、それは「どういう現実」と「どういう幻想」かがはっきりとわかる場合であって、作者が何を見せたいのかが判然としないと、好きと言い切れないんだなって思いました。
わかりやすくない話が好きじゃないと言っちゃうとちょっとばかっぽいんですけど。
あと、この本は作りとして各短編の扉ページがあって、その裏に作者と作品紹介があって、その次のページから作品が始まる構造だったのですが。そういう構造をとるなら、作品紹介に内容に深く触れるようなことは書かないでほしかったなと思いました。
ネタバレはないけど、身構えて読んでしまうというか。
いや、作品を読んだ後に解説読めばよかっただけなんですけど。
各短編の感想。
気を付けるけど、ネタバレになりうるものあります。
「肥満翼賛クラブ」
肥満コンテストの話。
これって実は人じゃないとかなのかなと思いながら読んでたら別にそんなことはなかった。
たぶん私を知っている人の一部からは、「え、これ好きじゃないの?」って言われるかもしれないけど、正直なところ微妙でした。
胸やけをするような肥満のための描写は、そういうものとしていいんだけれども。
コンテストの目的というかのところにに盛り上がりのピークがあると良かったです。何を言っているかよくわからなくて、時間差で驚いた。
「ディケンズを愛した男」
南米アマゾンの奥地に住むディケンズ好きの男の話。
展開は予想できるので、だからこそハラハラした。
確実に悪い状況に陥るのを黙ってみていないといけないドキドキは楽しいけどしんどいです。
「お告げ」
おばあちゃんの買い物メモと人生に悩む女性が交錯する。
これも好き。2作品気分が悪くなるようなのを続けて読んだ後に、ほのぼのする話で、清涼剤になりました。
「もう用意してあるよ」でにやにやした。
「アルフレッドの方舟」
アルフレッドは聖書に書かれた大洪水がもうすぐ来ると予言して、方舟を作る。
オチが好きです。ブラックな感じ。
蜘蛛の糸ですよね。この後を考えると、心臓がキリキリします。人間関係大変なことになりそう。
「おもちゃ」
骨董品店のショーウインドウに飾られた自分のおもちゃ。
こういう設定の話あるよね。起承転結でいうと転に当たりそうな部分で、こうなるのかというのが意外でした。
だってそうなると、お店にあるものの説明が付かなくない? 説明が付かないのが「奇妙な味」だといわれたらそうなのかもしれませんが。
そういえばこの短編集、お店ものの話多かったですね。
「赤い心臓と青い薔薇」
一家に寄生しようとしている若者の話。
ぞっとするホラーなんですけど、ラスト一行の指している意味がうまく取れなかった。
産まれてくるのがデイモンではありませんように、という意味なのか、彼女が「ふたりといない」と思ってしまわないように、なのか。あるいは夢が死の象徴なのか。
「姉の夫」
戦争中、休暇で故郷に戻るための汽車で知り合った男と姉と弟の話。
紹介文で、ゆさぶるのが読者の「倫理観」と書いているのが、気になる。
物理的に残るものは、夫ではなく弟と、ってことなのか……?
「遭遇」
大雪のバス待合所で、一夜を明かす男と女。会話の中で男は人生を振り返る。
これは、つまり、どういうことなの?
作品紹介でいうSF的な解釈も分からないし、それ以外の素直な解釈もどうすればいいのか。
どなたか、教えてください。コメントとかで。
穏当に考えれば、すべて女の想像。あるいは二重人格のもう片方を追い出した話?
緊迫感は好きなんですけど、結局何だったのかが分からなすぎて。
「ナックルズ」
神が人を創ったのか、人が神を創ったのか。
というテーマは大好きなんですけど、でも「ナックルズ」はフランクの創作でも、似たようなものは実際にいるよねってどうしても思ってしまったのがこの作品自体を好きと言い切れない。中央ヨーロッパか東欧だったと思うんですけど、鞭打ちおじさんとかいますよね。
展開は読めるけど因果応報で良かったです。
ラスト一行はふふってなった。
「試金石」
人に満足感を味わわせる魔力のある石の話。
ぞわっとした。すごくホラーでした。
石によって満足感を得て、すべてのことがどうでもよくなってゆっくりと日常が壊れていく感じが怖い。
太古のものの化石というのも雰囲気があって好きです。
「お隣の男の子」
ラジオのDJがゲストの男の子にインタビューすると、彼は自分が人殺しだと言い始める。
おじさんの正体にびっくりしましたが、語り手は死ぬんじゃないかと思っていたので、案外死なないのかって思った。いや、これからなのかな。
子供が嫌いなDJの心内文がちょっとおかしくて楽しい。そこを楽しむのは性格が悪いかもしれないけど。
「古屋敷」
フレドリック・ブラウンだ!と思って期待して読んだら、これもなんだかよく分からない話だった。
古屋敷の描写自体は素敵で好きなんですけど、この屋敷は結局何なのっていう。
何かの象徴?精神の宮殿?
屋敷の中にあるものとかを読み解けば分かるのでしようか……。
「M街七番地の出来事」
少年がガムを噛んでいたら、ガムが少年を噛んでいた。
構造としてはホラーなんだけど、絵面がなにしろガムだから、ギャグやコメディにしか思えない。
映像的な小説というか、イメージがぱっと絵で浮かぶ。この本に収録されているほかの作品よりも、その傾向が強いように感じました。
作者がスタインベックだってのが驚きでした。
「ボルジアの手」
少年が街を訪れた行商人からあるものを買おうとする。
少年の名前は○○○○ですね。
「アダムズ氏の邪悪の園」
「大瀑布」
これも好きです。
最後の方で、想定していたものと全く違うものが見えてくる(ほのめかされる)のがおもしろい。
地球平面説を想像しました。
ただ、Hがエイチであることはわかるのに、その単語は無いのかというところが微妙。どういう言語なのか。
「旅の途中で」
「街角の書店」
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