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2025/03/16 (Sun)

『虚実妖怪百物語』

すごいものを読んだ……ような気がします。
めっちゃおもしろかった。

ざっくりあらすじを紹介しますと、
妖怪が次々に現実に現われ、その結果政府と民衆は妖怪を駆逐し始める。社会から余裕がなくなり、人々は相互監視を深めて殺伐としていき、暴動と殺人が日常茶飯事になっていく。荒俣宏は呼ぶ子を出現させる石の研究をし、黒史郎はクトゥルーを頭に乗せて世界中の信者にあがめられるが、妖怪こそが諸悪の根源とされ、妖怪関係者たちも攻撃される。そこで荒俣宏が巨大ロボを動かして脱出し、富士山麓に疎開した妖怪関係者たちによる村が作られ、ついには百鬼夜行とともに、敵・加藤保憲と対決する。

さすが京極夏彦で、リーダビリティがとても高いですし、エンタメ度も高いので、3冊一気に読みました。「序」の冒頭は、ギャグのノリがなんとなく南極を思い出す感じでどうにも好みじゃなさそう……とか思ってたんですが、中盤からどんどん引き込まれていき、途中で読んでない時もこの物語のことを考え、読み終えた今は放心状態です。

ネタバレになるので、続きから。


拍手[3回]

つづきはこちら


何がすごいって、主人公が”榎木津平太郎”であることの意味がちゃんとあるというか、そこを回収するのがすごいなって震えました。
榎木津平太郎の大伯父さんは神保町にビル持ってて私立探偵とかやってたあの榎木津礼二郎なんですけど、榎木津平太郎がそういう属性をもったキャラクターであることが最後に違った意味をもって現れてくる感じ、なんていうかああ京極夏彦もミステリ作家なんだよなと思った。
平太郎なのは稲生かなとぼんやり思ってたんだけれどもそれはよくわからないですが。
あと、大伯父って距離感も(つまり直系ではないことも)榎木津礼二郎というキャラクターの在り方を思うとリアルな感じがするのがいいよね。
いや、そういう設定レベルのリアリティでいうと、旧華族で財閥の子孫のはずなのにフリーターなあたりが、没落なのかだからこそ高等遊民できてるのかっていう納得感の微妙なラインなのとか。

閑話休題。
これってつまり虚構が現実を侵蝕する話なわけなのですけれども、そういう物語を実在する人物たちをキャラクター化して小説として書いていること自体が、フィクションとリアルの境目をどんどん曖昧にしてしまっていて、そういう構造がおもしろい。
けど、その意味をまだきちんと咀嚼できてないです。
あの、平山夢明が唐突に『残穢』の話するシーンが、非常に自己言及的ですよね。実在する人物をキャラクター化したものは、その人ではあるけれども、一部でしかない、その人そのものではない。

でもいまいち、なんで加藤保憲が現れたのか、どうして反剋の状態になったかが、あんまりよくわかっていない……。
オチも、霊界テレビって何ですか?って感じです。

いや、霊界テレビに関してだけではなくて。無意味に挿入されるさまざまなネタがまったく拾いきれてないわけなんですけど。いや、無意味じゃないのかもしれないですね。ああいうぶっこみ方はとてもオタク的なので親近感もてますが。
特撮も漫画もアニメも妖怪すら、全然ネタについていけないですよ。解説同人誌がほしいレベル。
主要登場人物だって、名前は知っててもまともに著書読んだことない人も多いですし。ああ、この間『江戸の妖怪革命』読んどいてよかったなって思いました。そういう問題でもないけれども。
そもそも『帝都物語』未読なので……。新版『妖怪大戦争』映画は見てます、神木隆之介とすねこすりがかわいかったやつですよね。だから加藤って何物ってのもいまいちよくわかってないです。読みたいです、ネタ元。
『怪』誌上で読んでたら、主要登場人物はだいたい何か書いてるでしょうから、キャラクターもわかってより楽しかったんだろうなー。
単行本でも、本編読み終えてページめくって奥付見たら著者も発行者も作中にいるっていうのもそれはそれで虚実曖昧になってく感じでいいですが。

私もオタクなので、知ってるネタが出てくるとそれはとても楽しくなっちゃうタイプなので、豆腐小僧の章はめっちゃ楽しかったです!!
そういえばあれも角川だったね。地の文まで双六道中っぽくなっていて。
で、わーい豆腐小僧だー達磨先生だーときゃっきゃしていたら、次々に漫画キャラだの、怪獣だの、貞子が出てきて、電車で読んでいたのに思わず噴き出しちゃう感じでした。
権利関係がものすごーく難しいだろうけど、映像で見たいですねー。
とらとか犬夜叉と殺生丸とか、鬼太郎とかが戦闘機と戦うところ。
富士山麓に突如現れた巨大なモニタから、巨大な貞子が出てくるところ。
怪獣は守備範囲外なので、見た目想像できない分見てみたい。
地上にニャンコ先生が云々って言ってたけど、斑なら飛べると思うんだよね。戦闘能力もあるし。……あっ、認知度か。そうか。

キャラクターというか、登場人物もね、知っている人が出てくると楽しいです。
ミステリ寄りの人には勝手に親しみを抱いているので。あー綾辻さんいい人やなー癒されるなーみたいな。


あとは、これも震災後小説なんだなーと思ったり。
震災後小説っていうのは私が勝手に作ったジャンル概念なんですが。今年わりとそういうの読んだ気がするんですよね。『象は忘れない』とか『メビウス・ファクトリー』とか。5年はちょうどいい区切りなんですかね。
連載開始がちょうど2011年3月なので、実際のところ違うかもしれませんが。作者の意図なんてわかりようがないんだから、私は私が受け取ったように語ります。(京極さんもそんなこと言ってる気がするし)
妖怪に対する世相がもろ放射能っぽかったなぁという。
でも、ヘイトスピーチというか殺伐としていく世相はそれだけでなく、震災後とか区切れることでもなく、今この現実社会で起こっていることと重なって見えてなんともつらい気分になります。
読むのをやめて、現実でニュースを見ても、違和感を感じない……と言ったらさすがに言い過ぎですが、今の延長線上にこういう未来が部分的にはありうるかもしれないと思ってしまうこと。
もちろんそういった主張の説教臭さみたいなのはまるでなくてエンタメなんですけど、でも楽しいだけで終わらせるには何か重いんですよ、少なくとも私にとっては。

水木先生がご存命であったなら、この結末は幾分か変わっていたのではないかと思う。
だから何というわけでもないけれども。
そういうのを含めて、これは「今」の小説なんだと、私は、思います。


あっあとそうだ、これは完全に邪推なんだけれども、山田書房の山田老人、あれって名前を奪われた中禅寺秋彦じゃないかと思うんだけれどもどうでしょう。
曾祖父が明治時代に云々てのがなんとなく意味なく情報過多な気がして、じゃあその多い情報がうまいこと処理されるためにはって考えただけなんですけど。
実際に実在する人物であったら普通に解決してしまう話ですが。実在するのでしょうか。実在したとしても、たとえばモデルである可能性は否定できない。山田老人が絵巻の中にいったとは特に書かれてないですし。
でも中野じゃないしなー。
全く関係ないかもしれないですね。何かご存知の方いたらご教示ください。
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