BOOKWALKERで角川文庫無料キャンペーン中だったので、気になってたのをこの機会に読んでみました。
読み終わって何ひとつすっきりしない!!
画家の非嫡出子として生まれた淳は、ある夏に父親の妻がいる熱海を訪れ、山の上にある蔦屋敷で百合という少女に出会う。その記憶は彼の奥深くに根づいていた。
成長した後、淳は画家となり、将来有望な新進画家として期待される腹違いの兄太郎と、その友人の山野とともに個展を開く。ところが、淳の個展の準備中に画廊で火事が起こり、淳と兄の作品が焼失してしまう。
その後、太郎とその婚約者となった百合の自動車事故、太郎を脅迫する謎の男の存在、太郎の絵の損壊、絵画教室の生徒である幼児の失踪等事件が続く。
……というのが雰囲気とか匂わせとかを排除したあらすじなわけなのですが、これらの事件が全く解決されずに終わるんです。
服部まゆみは『この闇と光』『一八八八切り裂きジャック』の2冊を読んだことがあるのですが、どちらも耽美的な雰囲気は好きだけどストーリーが面白くなかったという印象で、今作も同じく。
今まで2作読んで、そういう作風だと知ってはいても、事件的なものが起こったら解決されることを期待してしまうじゃないですか。
切り裂きジャックはまだ、分かりやすかったとはいえ解決はあった。犯人は誰かとか。
今作は解決がない……というか、一応あいつが犯人だったという話はあるんですけど、それを指摘している人物を信用できない。なんかすべての事件の罪を死んだ人に着せている感じもある。
由利香の母親も、たぶんそうなんだろうなと思っていたそのままだったし。作者はこれは隠していたつもりだったのだろうか。
それよりはよほど太郎と恭平の関係のほうが意外性がありました。
そもそも、語り手が胡乱なんですよね。関口くんとどっこいどっこいなレベル。
だから、地の文で語られていることに何ひとつ確信が持てない。事実ではなく、主観を通したものが書かれている。
最終章で、それまでの部分が――つまり主人公の一人称視点の文章が手記というか、作中世界に実際に存在する紙に書かれたものということが示唆される。そのパートがあるからこそ、真偽も何も曖昧なまま、真実が別にあるのではないかと思わせられるのかなと思いましたが、そういう構造は切り裂きジャックの方が巧かったと思います。切り裂きジャックでは、手記にあたる部分で主人公がそれを書いていることを示唆されていたので、語られていたのが事実ではないというのも納得できるというか。
ところで、その構造もですけど、全体的に書いていることが切り裂きジャックと似ている気がしました。
テーマというかストーリーというか。
うだつの上がらない「醜い」主人公が、身近にいる輝かしい男性に羨望と嫉妬を抱きつつ悩んでいるが、芸術作品の作成を通して浄化される。みたいな。プラス事件が起きて探偵の真似事をするみたいな。
そんなわけで、読んでいて既視感というかまたこれかという感じが拭えなかった。
書かれた順番的には『罪深き〜』→『一八八八〜』なので、ブラッシュアップはされているわけですが。
なんか……うーん、もうこの作家を読むことはないかなぁという気分。
妖しく美しい蔦屋敷の描写や、フレスコ画を描くシーンの爽やかさと熱情なんかは好きだったのですが。
そして鷹原……というこの家は、やっぱり一八八八切り裂きジャックの光と関係があるのかしら。悪名高い祖父の更に一世代前くらい?直系ではなく傍系だった気がしますが。
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