河出書房から出てた伊坂幸太郎のムックで、〈伊坂幸太郎を作り上げた本100冊〉というのが紹介されてたんだけど、その中の1冊。
黒澤さんのモデルになった小説ということで読んでみたんだけど、なるほどまさにって感じでした。
信念を持ったプロの泥棒が探偵役になって事件を解決するという設定だけではなくて、都会的で洒落た雰囲気も、会話の軽妙さも、軽いハードボイルドっぽさも全部、伊坂作品と通じるものを感じました。
そのムックで紹介されてた100冊は、殊更制覇しようとしてるわけでもないので、読んでないものも多いんだけど。
伊坂さんが好きな作家といえば連城三紀彦と島田荘司というイメージがあるのですが、作風は全然違うように感じてたんですよね。物語に昇華された叙述トリックや、大ネタの奇想は、伊坂作品には直接的には見えないから。
だからこの「泥棒は選べない」が、ストレートに伊坂作品っぽくてすごく感動したんですよね。ルーツに触れることができた気がして。
もちろん、伊坂幸太郎への影響がっていうだけじゃなくて、作品自体もおもしろかったです。
泥棒のバーニイが、怪しげな人物に大金を積まれて、ある部屋に盗みに入る。ところが、依頼の品を探してる最中に警察がやってきてしまい、更には寝室から死体が発見され、バーニイには殺人犯の容疑がかけられてしまう。
咄嗟に逃げ出したバーニイは、自分は殺人犯ではないと証明するために、真犯人を探そうとする。
というあらすじなんですが、このはじめのシチュエーションだけですごくわくわくする。
シチュエーション自体の掴みも上手いんだけど、冒頭からバーニイの仕事振りが鮮やかで読んでいて楽しかったです。
何事も、プロの仕事って読んでて惚れ惚れするなぁって思いました。熟練の技というか。
怪しまれずにドアマンの横をすり抜けたり、「七つ道具」を使って鍵を開けたり、盗むものを探して机を分解したり……。
バーニイは強盗殺人の容疑がかかっているので、家に帰ることもできないし堂々と表を歩くこともできない。
ミステリとして、そういう制限がある状況の中で捜査をするために主人公がどう動くかってところもおもしろいポイントだった気がします。
捜査パートも、バーニイは泥棒なので必要そうなところにこっそり入って必要そうな情報をこっそり盗んでくるのが、どこかおかしい。
何より文章が読んでて楽しかった。ウィットに富んで洒落ていて。
だから客観的にみればけっこう悲惨な状況な気がするのに、全然そんな感じはしない。
結末も普通にびっくりしました。
ときどきあるパターンではあるけど。
ちょっとしたエピソードが繋がってきていたり、本筋とは関連しないけど気になると思ってたことが本筋に関連してきたり、かゆいところに手が届く感じで謎が解けていっておもしろかったです。
続きも何冊か読みたい。
警察官の制服は効果絶大すぎるだろってちょっと笑った。
っていうかこの女懲りてないのかよ。
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