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2024/03/29 (Fri)

『時をとめた少女』

ロバート・F・ヤングの短編集。
全体的に、『たんぽぽ娘』(短編集)の方が好きでした。というかヤングは『たんぽぽ娘』が好きで何作か読んだけど、ファーストインプレッションを超えるものはなくて、やっぱり『たんぽぽ娘』の方が好きなものが多かったと思うことが多い。
代表作はやっぱりその作家の作品の中でも良いものだから代表作になるんだよなぁとしみじみ思いました。

ただ今作の解説で「願望充足的」と評されていたのを読んで、若干好きという気持ちが翳ってしまった。
そういうのに害されるのも嫌なんだけれども、そうかもしれないなぁという気もしてしまったので。
なんていうか、主人公の男に都合の良い女ではあるんだよね、「たんぽぽ娘」のヒロインも。
ただあの叙情的な文章やSF的な雰囲気で(なのか?)、ごまかされてしまっているというか。主人公に、そして物語に都合良い存在であることに気づかずに読めてしまう。それはそれで小説としてすごいと思う。
でも、「願望充足的」という批評を聞くとなんとなく、ごまかされていた深層が見えてしまった感じがして。
今短編集は「たんぽぽ娘」よりそのごまかし方が巧くないのかなという感じもしました。気づいてしまえば、あからさまに見えてしまう。

各短編感想。
「わが愛はひとつ」
全体主義国家の政治犯として人口冬眠の系に処せられた男は、百年の眠りから覚めて、かつて短い新婚生活を過ごした家へ帰る。
追憶をロマンティックに書くのはやっぱり巧いなと思います。
細かい数値の計算はよく分かっていないのですが、風景として描かれていたそれがそう使われてくるのか、というのはおもしろかった。

「妖精の棲む樹」
樹木技術員の男がある惑星で巨木を切り倒そうとしているとき、樹上でドライアドと出会い、恋に落ちる。
ドライアドとの恋や、自然保護云々の問答と葛藤は正直そんなにそそられなかったのだけれども、最後に明かされるその樹の生態がめちゃくちゃ好みでした。むしろそっちをメインに据えて文化人類学的な謎解きとして話を進めてほしかった。それはこの作家に期待することではないかもしれないけれども。
樹木技術員という職業が養成学校とかもあってそれなりの地位がある(少なくとも女の子にモテる)環境ってどういう世界なのかなということも気になりました。開拓している数々の惑星に多くの巨木があるのかしら。
やっぱり、この話はロマンスではない面から書かれたものを読んでみたかった。伐採作業の描写とか、動きを想像してわくわくしたので。
ところでなんとなく手塚治虫の絵柄でドライアドを想像していました。何故。

「時をとめた少女」
6月の朝、ロジャーは赤いドレスの背の高い魅力的な女の子と出会った。そして翌朝、彼は青いドレスを着た金色のそばかすの風変わりな女の子に出会った……。
ユーモアもあって、シンプルにおもしろかったのですが。
時間SF部分が1作目と同じネタだったので、またこれかと思ってしまって若干醒めた目で見てしまった。
このあらすじも、「おとといはうさぎを見たわ。きのうは鹿」を意識しているのかしら、なんてうがったことを考えてしまう。

「花崗岩の女神」
巨大な女体型の山脈を登りながら、男は人生を回想する。
この短編集は浦島効果と登る話を交互に並べているのか?と思った。
なので、オチのところでも、それが「女神」あるいは彼女を造り上げた異星人に有益であると判明したらおもしろいのにと思いました。
「女神」の面影を求めて美しい妻と出会い、そしてメイドに惹かれるわけですが、その「女神」への憧れも、根底にはマザーコンプレックスがあったということなのかしら。巨大な女性すなわち、幼児にとっての母。

「真鍮の都」
ビリングスは自動マネキン会社の時間旅行員として歴史的重要人物を誘拐し、本物そっくりに複製するのが仕事だ。9世紀のアラビアに遡行し、シェヘラザードを誘拐したものの事故で10万年後の地球に飛ばされ、魔人と対峙する。
『たんぽぽ娘』所収の「11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス」と同系統の、著名な物語に時間SFを混ぜてボーイミーツガールにしたてた小説。自動マネキンというアイディアも、「エミリーと不滅の詩人たち」を思い起こさせる。
これはすごくおもしろかったです。
アラビアン・ナイトの世界とSFがうまく絡んでいて、シェヘラザードもかわいいし。
長編化されているらしいので、それもそのうち読んでみたいですね。長編のほうは微妙だってそれこそ『たんぽぽ娘』解説に書いてありましたけど。
ところで歴史的重要人物の身近な存在って非重要人物ってことで本当にいいの? 風が吹けば桶屋が儲かるよりももっと直接的に因果に関わってこない? 時空連続体に歪みをきたさない? ってのが心配で仕方ないんですけれども。

「赤い小さな学校」
少年は、かつて過ごした赤い小さな学校に戻るため、両親の元を抜け出して旅をしていた。
ディストピア感のある話。
校長自身もまた、ということが明かされる最後はなんとも寒々しい気持ちになった。自らがそうだったから下の世代に押し付けているのか、それとも新しい方法を考えられないように「教育」されているのか――。

「約束の惑星」
東欧の一党独裁国家を救済するための宇宙移民が計画されたが、移民船団の中でニュー・ポーランド行きの宇宙船だけが行方不明となってしまう。不時着した星で、ポーランド人のコミュニティにたった一人の異邦人として生きる元宇宙船パイロット。
キリスト教の素養があったほうが楽しめたのかもしれない。
老人が淡々と自らの半生を語っていくその哀愁、寂寥感がとても良かったです。彼が見つけた居場所は途中で予測がつくものだったけれども、そのことは決して物語の価値を低めない。

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