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2025/03/16 (Sun)

『探偵映画』

『探偵映画』という名の映画の撮影中に、監督が行方不明になってしまった。映画の結末を知るのは監督のみ。残されたスタッフたちは、撮影済みのシーンから犯人を推理していく。

実は我孫子さん読むのこれが二作目だったりします……。
嫌いとか苦手とかそういうわけでもなくて、単に前読んだその一作が可もなく不可もなく非常にフラットな読書だったので……。
この作品も、何か私に重大な印象を残したかというと、そうでもないのでそういう立ち位置なのかもしれない。……二作目で結論付けるのは早計ですが。

ええと、微妙な書き出しになってしまいましたが、読んでいる間は楽しかったです。
軽妙な文体がユーモラスで読みやすい。オタク大学生っぽい(大学生じゃないけど)主人公の造型も好感が持てます。
主人公含めてほかのキャラもなんていうかテンプレの「キャラ」でしかない感じもまあするけれども、新本格ってわりとそんなもんだよね、という気もしますし……。

それから、この作品は登場人物たちが推理をする動機がしっかりしているのがすごくいいです。
監督が失踪して、このままじゃ映画は完成しない。会社倒産のおそれがあるため、監督の不在をマスコミ等外部に知られるわけにはいかないし、映画は自分たちだけで撮るしかない。だから監督が何を考えていたか、どういう結末にすればこの映画を面白いものにできるか、を推理しあう。
そういった流れがすごく説得力がある。
あと、現実の事件をもてあそんでいるのではなく、あくまで作中作の犯人について推理をしているわけなので、多重解決・推理合戦ものでは気になりがちな探偵たちの倫理観の問題(事件をおもちゃにしているような)はまったくない。
そして、そこで(主に役者たちが)それぞれ誰を「犯人」として指名するかというのも、その指摘する動機に説得力があっていいと思います。
それこそ犯人の動機の有無とか意外性とかを重視して犯人を指摘しているので、証拠品やアリバイの有無で論を組み立てるわけではなく、本格ミステリ的では全然ないのだけれども、「映画づくり」という文脈の上では、そうした方法に説得力が出るのがおもしろい。
……あくまで方法であってその内容ではないです。風船はひどかった。

そして一応「撮影済みのシーン」があるので、それと矛盾する推理は棄却されるというのもうまくできているな、という感じです。
似たようなもので、『写本室の迷宮』が「犯人当て小説」を読んで推理するという趣向の推理小説でしたね。ただ、『写本室の迷宮』はメタレベルがちょっとむちゃくちゃというか、作中作中作みたいなややこしいことやっているけれども、どのレベルでの現実かが峻別できていない印象だったというか、「犯人当て小説」にシャーロックホームズシリーズの事件が実際にあったという体で書かれている時点で現実とのかかわりの担保がなくなってしまったんじゃないかみたいな微妙なところがあったのですが、
今作はちゃんと映画の中のものごとと現実に起こっていることがはっきりと別れていて、よりゲーム感覚が強くてよかったです。
役者が自分の演じているキャラクターに感情移入しすぎて、「この人はそんなことしない」みたいなことを言い出すのもご愛敬ぐらいで。

同じトリックで監督が殺されてたみたいな展開かと思いきや、そんなことも特になかったですね。ていうか、てっきり監督は死んでいるものだと思いました。

冒頭でかなり紙幅を費やして叙述トリック映画の話をしているので、読者としてはこの映画にも叙述トリックが使われているのではないかと想定して読んでいたのですが、
自分で言っておいて、当の主人公がその可能性に気づかないのはどうなの。
ってちょっと思ってしまった。
だからこそ主人公が悔しい気持ちになるラストが活きるのかもしれないし、頭がいい名探偵役として造型されているわけでもないので仕方ないのかもしれないが。迂闊なのでは。

監督がいなくなった動機はわりとしょうもないんだけど、やりかねない性格には描かれていた気がします。
あと、そのメイキング映像は誰がどうやって撮っていたんだ(隠しカメラ?)というところがいまいちわからない……。読み飛ばしてる?

『愚者のエンドロール』との共通性は、まぁ分かりました。
映画の結末を推理するという点では同じ設定を使っているし、検索したら我孫子さんの長文ブログが出てくるし、それ読むとそれはないわなと思うのも理解できる。オマージュがなさそうに見えてしまうから。
でも『愚者』は結末とそれが主人公に与えた影響がだいぶ違うので、構造が似ていることイコール評価が下がるというわけでもないだろうと、私は思います。
それはそれとしてあれはシリーズの中では一番好きではない作品なのですが。

それよりも、なんとなくはやみねかおるを思い出していました。文体の軽さ、ユーモラスな感じもそうだし、「監督の頭の中にしか映画の結末がない」「見る人には予想できない」というのが、『総生島』だなっていう安直な連想。
っていうかそうか、『総生島』冒頭の短編タイトルが「探偵映画」だったんでしたっけ。

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