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2024/04/20 (Sat)

『宇宙探偵 マグナス・リドルフ』

『街角の書店』に載っていた「方舟」書いた人の連作短編集だよと言われて読んでみました。

宇宙探偵……と題していますが、作中ではもっぱら「トラブルシューター」と称されるマグナス・リドルフが宇宙を舞台に様々な問題を解決し、しっちゃかめっちゃかにするSF。
一応ミステリっぽいけど、厳密なやつではない感じです。


ありとあらゆる異星人が出てきて、人型に近いのも虫っぽいのも魚や植物なんかもいるのですが、その行動様式や文化が(ミステリ的には)謎を解く鍵になっているという話が多くて、その部分がすごくおもしろかった。
たぶんそれぞれの生物や星の様子なんかはジャック・ヴァンスのオリジナルだと思うのだけれども、異星人描写がまずおもしろい。よくこんなにたくさん考えつくなっていう見た目や性質。
異星人自体の習俗は、そこまで目新しいものでもなくて途中まで読めば十分推測つくのもあるんだけど、古いし既にオーソドックスになってしまったのかなという気がする。あと、どうしてそういう性質をしているかの進化の話とかはないのもちょっと寂しかった。短編なので仕方ないけど。
でも異星人の異星人らしさみたいなものが、ちゃんと物語に関わってくるから楽しい。
「とどめの一撃」がすごく好きです。

舞台設定というか、作中の年代や宇宙で人の行動範囲はどのくらい広がってるとか、その背景にあるはずの技術なんかの説明はほとんどなくて、SFってそういう部分の説明が好きそうな偏見があったのでちょっと新鮮でした。
これこそ、古いからかもしれないし短編だからかもしれないが。
というか、当たり前だけど人によるか。
そういうのの説明がないので、はじめはちょっととっつきにくいかなと思ったんですが、だるくなくていいです。
人の活動できる宇宙の広さや、星や異星人がどのくらいいるかはある程度設定があるのだろうと思うけど。出てこないので考えなくていいので楽。


そして特筆すべきはマグナス・リドルフのキャラクター!
宇宙探偵でトラブルシューターではあるけど、むしろトラブルメーカーっていうか。詐欺師じゃん!
悪人も依頼人も、偶々行き会っただけのいけすかない人間もまとめてひどい目に遭うのが痛快でもあり、ときどきかわいそうにもなる。
金儲けが好きで、よくカモられるけど百倍以上にして返すのとか。嫌がらせをしたり、状況をひっかきまわしたりするけど、あまりに無邪気。子供が虫を殺したり残虐なふるまいをするのに似たものを感じます。
悪徳探偵というには、悪をしようとしてそうしているわけではない感じ。かといって百パーセント無邪気ではなく、普通に嫌がらせしようとする意識はあるから、その結果が大惨事なだけで。
この辺の意地の悪さは短編の「方舟」にも通じるものがあるかなー。
あまりこういう感じキャラクタが主人公の話は読んだことがない(と思う)ので、楽しかったです。
でも続けて読むとわりとお腹いっぱいになるね。

各短編の扉の裏にマグナス・リドルフの言葉の引用(引用じゃない)がエピグラフとして入っているのだけど、ときどきどこかで聞いたようなことを言っていてにやっとする。


各短編感想
「ココドの戦士」
ハチに似た戦士が各部族の〈塁〉ごとに戦いを続ける星で、それを対象にした賭けを行うホテルをつぶそうとする話。
このシリーズの(あるいは著者の)代表作らしいんですが、他の作品の方が私は好きだったかな。
ココド先住民たちの習性はすごくおもしろいし、それを利用していけすかない人間たちに泡を食わせるのも楽しい。けど、結局利用されてるやんってのが拭えず。
あと、それぞれの〈塁〉の名前が綺麗。〈薔薇の坂の塁〉とか〈貝の浜の塁〉とか。

「禁断のマッキンチ」
宇宙のあちこちからはみ出し者が集まり、異種族のるつぼとなりながらも地球式民主政治が行われている惑星で、横領を行う悪党マッキンチ。マッキンチについて調べた者は次々と殺されてしまう状況で、マグナス・リドルフが真相究明を依頼される。
容疑者たちに話を聞いてまわり、関係者を全員集めて「さて」と言うタイプの典型的なミステリ。……あ、見返したけど別に「さて」とは言ってませんでした。訂正。
典型的なパターンではあるけど、関係者のほとんどが異星人で、しかもそれぞれ別の種族で異なる価値観を持っている。その価値観の違いがポイントになってくるわけなんだけど、異星人の価値観なんて知るわけないので、まぁフェアじゃなさはありますね。
でも読んでいて楽しい。

「蛩鬼乱舞」
マグナス・リドルフは格安で農地を手に入れたが、その農地には毎夜「蛩鬼」という謎の生物が襲ってきて、作物を食い尽くしてしまう。
この作品は、オチが不可解でした。
なんでシチューじゃなくなったんだろう。使用人が黒幕?? と頭を悩ませたけどよく分からない。
蛩鬼との対決シーンも、アクションっぽいんだけど、うまく想像ができず。
解決方法はおもしろかったのですが。

「盗人の王」
マグナス・リドルフは盗人たちの星を訪れる。その星ではありとあらゆるものが盗まれ、最も盗んだ者が王となる独特のヒエラルキーが存在していた。
これも、読んでいて楽しい。
マグナス・リドルフが盗人の王になる展開は、そりゃそうなるよねという感じではありますが。
途中で出てくるニュースは伏線だろうと思いきや、まさかこう使われるとは。
泥棒種族メン=メンが、純朴な感じでかわいい。泥棒だけど。メリーゴーランドで喜んでるのが。

「馨しき保養地」
宇宙リゾートの経営者は、次々とリゾート地を襲うドラゴンその他の現住生物に困り果て、マグナス・リドルフに依頼する。
これまでの短編はマグナス・リドルフ視点で書かれてきてたんですが、この短編はリゾート経営者の片割れ視点。こいつが明らかに馬鹿で、マグナス・リドルフにいいようにされる末路がはじめから予想できるほど。
この馬鹿が確信していたものじゃなくてあっちだろうなっていうのは推測がついていたので、そこ自体には魅かれなかった。
問題解決後の、依頼人たちに対する仕打ちのひどさの方がえげつなくておもしろい。お前はそういう奴だよな。

「とどめの一撃」
〈ハブ〉と呼ばれる気密ドームの中で起きた殺人事件について調査する話。
いちおうクローズドサークルもの。
だけど、マグナス・リドルフの手法は変わらず、集まった容疑者たちの種族的・文化的特徴を調査していく。その調査過程が丁寧に書かれているのと、動機がものすごく好きです。狂人の論理っていうか、別に狂っているわけじゃないけど、その人にとってはそれが当然なんだみたいな。種族の特性とかについてずっと話しているから、この結末でも受け入れられる構成も巧い。
まあ、容疑者のうちの何人かは、本当にそれで犯人じゃないってことにしちゃっていいの?って思わないでもなかったですが。服の色とか何それって感じで。
オチのブラックさも良かったです。

「ユダのサーディン」
友人からの求めで、マグナス・リドルフはオイル・サーディンの異物混入について調べるために宇宙缶詰工場に潜入した。工場で処理されるサーディンたちは不可解な行動をしていて……。
工場のライン工になって文句を言うマグナス・リドルフが可笑しかった。利害関係のない友達いたんだねと思ったら、最終的にその人にまで人を食ったような解決方法を提示していて、読んでいるこっちが妙に焦りました。
この短編もかなり好きでした。
工場でとられていた方式自体がSF的で興味深かった。それに、サーディンとの通じているんだかいないんだか分からない意思疎通がおもしろかったです。
そして驚愕のオチ。サーディン的にはそれでOKなんだろうか。

「暗黒神降臨」
採鉱を行っている岩だらけの惑星では、4つあるオアシスのうち2つで周期的に作業員全員が姿を消してしまう異常事態が起こっていた。
これは、マグナス・リドルフの邪悪さが最もひどい結果をもたらした話でした。
真相には驚いた。
惑星の寂寥とした様子の描写が素敵。
原題の出落ち感がすごい。うん、CとDでは死ぬんだよね。

「呪われた鉱脈」
鉱脈Bでは作業員たちが次々と殺される事件が続き、月に30人以上が犠牲になっていた。マグナス・リドルフは依頼を受け殺人犯と対決する。
来た途端に真相を看破するマグナス・リドルフが探偵っぽい。(ご都合主義っぽさもあるが)
殺人犯の正体自体は、そういうのあるよねって感じで驚きはそこまでなかったんですけど、解決の仕方がこの人らしい。
とはいえ、第一作目だそうで、ほかの作品よりはまともそうでしたね。

「数学を少々」
マグナス・リドルフは持ち前の数学的センスを発揮し、カジノでぼろ儲けをする一方、カジノオーナーの犯罪のアリバイトリックを暴こうとする。
えっと、後半のアリバイトリック(ですらないけど)に関しては、それ最適化されてなかったの……?みたいな疑問が残る。
だから作者が黒歴史にしたがったのかしら。
文体も、ほかのとはちょっと違う感じで、キャラクターとの距離が遠い印象でした。
煌びやかなカジノの描写や、ロランゴという名前のガラスの球体に入った水とカラーボールを攪拌して並び順を当てるカジノ・ゲームが美しくて良かったです。

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