伊坂幸太郎の殺し屋シリーズ新刊。
1作目は雑誌掲載時に読んでたので、あれがようやく単行本になったのかと懐かしいような気持ちでした。
恐妻家の殺し屋「兜」と、彼の家族の話。
連作短編だからか、最初の方はコンパクトな話が多いなという印象で、このシリーズは長編の方がおもしろいのかなという気がしていたんだけど、最終話がすごく良かったです。
そう、これこれ。こういうのが読みたくて、私はこの本を読んでたんだって感じの。
「AX」と「BEE」は、伏線回収にしても本当にそうなの?って疑ってしまって。兜がそういう人物として描かれるのもあって、短絡的に結びつけすぎじゃないかと。
「Crayon」もその傾向があったけれども、殺したのが何者かは関係ないところに物語の軸があったので良かったですが。
1ページ目から檸檬が出てくるのが、もうずるい!
その後もちょくちょくと、見知った人の話が出てきて、1話にひとつ入れるノルマでもあるのかなとも思ったけど、やっぱりファンとしては嬉しい。
ただ鈴木さんがいなかったのが物足りなかったです。関係性は全然違うけど、夫婦という軸がかぶるからかしら。
……いや、一応一般人だから、そうそう業界の人とは遭遇しないのか。
作品間リンクとはちょっと違うけど、ラストシーンの冒頭の部分読んで、思わず周りを見まわしたくなった。私のではなく、兜の。千葉さんが近くにいるのでは、って。
恐妻家の兜については、妻の理不尽にも見える怒りに対してぺこぺこする兜にもどかしさを覚えた。なんで理不尽に屈するんだ、立ち向かえ、って。
なんでそれでも奥さんのことを好きなんだろうというのも不思議だったし。
強いていえばたぶん克己と似た立場から見ていたのかと思う。
読んでいくと、最後の方には、兜なりの人間関係の作り方なのかというか、どうしても手放したくない人生で初めてのたった一人の相手だからなのだと納得できたけど。
奥さん以外の人間関係というか、兜が友達を作ろうとするのも、この本のひとつの軸になっているところだと思う。
ひっくるめて、殺し屋のプライベートというか人間的な面にフォーカスした作品だったなと思いました。
人間的な面として、家族を守りたいとか友達を作りたいという希望を抱くけど、殺し屋であることが障害になる。ありきたりなパターンだけど、やっぱり熱いし切ない。だからこそ、クリーニング屋さん!がとても良い存在だった。
でもせっかく友達になれそうだった人の名前も忘れていた辺りはドライだなとも思いました。
あと、ひとつだけとても気になっていることがあるのだけれども。
「D」はないの?
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