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2024/05/20 (Mon)

『子供たちは狼のように吠える』

おもしろかった!
物語にすごく没頭できて、2冊続けて一気に読みました。
……なぜか全3巻だと思い込んでたので2巻を読み終えて、あれ?こうなって終わり?って思いました。
読後感がとても爽やかで良かった。
伊坂幸太郎の殺し屋シリーズなんかを思い出しました。

あらすじを簡単に説明すると、
日本領サハリンで暮らす日本人の少年、朝倉セナ。ある日セナの両親は惨殺され、彼自身もヤクザが子供たちを手駒として教育するための「学校」へ売り飛ばされる。セナはそこでロシア人の少年ニカと出会い、協力して大人たちに復讐する。
その後、ニカとセナは未成年だけで構成された犯罪組織「ピオネール」を立ち上げ、彼らの組織はサハリン島の闇社会を二分する勢力にまで成長した。そんな彼らの前に立ちはだかるのは、かつて「学校」を運営していたヤクザ「北狼会」だった。


暴力とセックスとドラッグ、みたいな、バイオレンスでハードな小説なのですが、そこまで不快感はなかったです。
たぶん文章がさらっとしていたからだと思う。
人もばんばん死んでいくし、読んでいてしんどいのだけれども、しんどいのは書かれている内容というかストーリーであって、文章や書き方ではないという感じ。
人を殺すシーンや拷問するシーンがもっと執拗にグロテスクに描写されていたら読むのがつらかっただろうと思う。

そういう文章についてもそうなんだけれども、全体として作者の意図が透けて見える感じがあまりなくて、物語にどっぷりとはまれたので読んでいて楽しかったです。
意図が見えにくいのは、この作者さんの小説を読むのが初めてということもあるかもしれませんが。
というか、セナとニカの人物設定だとか、日本領サハリンという舞台とか、プロットそれ自体とか、ヤクザが変態のおっさんばかりだとか、そういうところが作者の意図ではあるんだろうけれども、それは物語の進行を妨げないので。作者の意図が見える・見えないというよりも、作者の意図が物語の展開をねじまげるとか、ご都合主義すぎる気がしてしまうのが問題なのであって、そうでないならどれだけ趣味が見えても楽しめるんですよね。

とにかく、この作品でおもしろいのは何よりもストーリーだったかな、という印象です。
刻々と変わる状況や、アクションシーンにドキドキハラハラわくわくする。混じりけなしのエンタメ小説でした。

でも設定もスタイリッシュでかっこよくて好き。
舞台となるサハリンは日本の領土で、ということはたぶん日本は第二次大戦で現実のような負け方はしていないんだけど、そこの詳細はほとんど語られない。それが少し物足りなくもあるけれども、背景に過ぎないから説明されなくても仕方がないように思う。
街の建物はCO2構造体という謎の素材でできているし、壁とかはマイクロマシンで「スプレイ」されて、電子的なディスプレイのようになっている。マイクロマシンは脳の神経物質を電子的に書き換えるドラッグにも使用されている。
ハヤカワから出ているし、近未来でこういうガジェットはSFみたいなのだけれども、小難しい説明はないので全然SF小説じゃかったです。

どうしてこの舞台は日本領サハリンに設定されていたのだろうとも考えてみる。
外国人労働者と不法移民が多くて治安が最悪で、でも日本で、ロシア人と日本人の少年が活躍できる世界ということで作られた舞台なのだろうけれども。
外国人労働者は低賃金で危険な仕事に就いていて日本人との間には格差があるとか、サハリンの社会が実際にあってもおかしくないという説得力を感じるほど、舞台設定に無駄がないように思えるので、理由はもはやどうでもいいような気持ちになる。
たとえばサハリンではなく台湾でニカが中国人なり少数民族であったりしても物語の進行に問題はないのだろうけど、だからこそそれが作者のこだわりだったのかなぁ。

ニカとセナの関係性はとにかくもうやばいです。好き。
愛というよりも依存と執着。
互いに命を救われた恩義以上に、惹かれているのだと思います。はじめから終わりまで。
「兄弟」の契りを交わしたのは彼らにとって関係を言語化するための形式にすぎなかったんじゃないかという気もする。私はその誓いの意味を知らないから違うかもしれないけど、実質的にはそうだったんじゃないか。
けれども考え方ややり方が違うから完全に分かり合えることはない。だからこそ相棒になれるのかしら、って。
どうでもいいんですけど、ニカのビジュアルは完全にユリオ(on ICE)でイメージしていました。

ケンゴは、彼目線で見るとすごく切ないですよね。
片想いをこじらせている。
後々これが絶対に禍根になるだろうと思ったら案の定でした。
同情はできるけれども、そりゃニカを選ぶよね、っていう気もするので。


1巻のラストでフカミ刑事が言っていた言葉が引っかかっている。
「彼らは、生まれながらの犯罪者だ」という台詞。
むしろ生まれながらに犯罪者になる因子があっても、環境がそろわなければそうはならないんだろうと思うんですよね。
セナは両親が殺されなかったら、本土の高校に行って普通の大人になったんじゃないかと希望も込めて私は思っている。成長しても、犯罪に関わりのない人を殺すことには躊躇しているように。
コトヒラがセナの「選ばなかった未来」みたいな感じがするけれども、でもセナが「学校」から脱出できなかったらコトヒラのようになっていたのか? コトヒラは学校から逃げられていても、犯罪者になっていただろうけれど「ピオネール」は作れなかったと思う。
「学校」にいた子供たちも、ケンゴしか残れなかったし。

クラキ・リサの「悪い人は、みんな大人だから」という言葉も印象深いです。
差別され足蹴にされ弱い立場にいる子供たちが、復讐のために武器をとるのは悪なのか。
ビートルの老人やクラキ・リサがセナとニカに罪となってのしかかっていること自体が彼らが子供である証のようにも感じられた。……というのは感傷的すぎるか。

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