天才科学者の平賀と、古文書・暗号解読のエキスパート、ロベルト。二人は良き相棒にして、バチカン所属の『奇跡調査官』──世界中の奇跡の真偽を調査し判別する、秘密調査官だ。修道院と、併設する良家の子息ばかりを集めた寄宿学校でおきた『奇跡』の調査のため、現地に飛んだ二人。聖痕を浮かべる生徒や涙を流すマリア像など不思議な現象が二人を襲うが、さらに奇怪な連続殺人が発生し──。(版元より)以前からずっと気にはなっていたのですが、ようやく読みました。
アニメ化もするというし、文庫の表紙の雰囲気とかもあって、もっとこう、バディもの!ブロマンス!キャラ文芸!って感じなのかと思いきや、そうでもなかったのが意外……。
シリーズ読んでいくともっとキャラに親しみをもてるようになるのかしら。
今回読んだのが図書館で借りた単行本版だったので、文庫だと加筆修正あるのかもしれないですね。
キャラ文芸かなっていうのもそうなのだけれども、初めて読む作家さんなので、読む前や序盤なんかは、こういう傾向の話なのかなと想像して読んでいたわけなのですが、想像とはけっこう違っていましたね……。
英国妖異譚とか、シュヴァルツ・ヘルツとか、今まで自分の読んだものから似てるっぽいタイトルがいろいろ浮かんできて、でもそれじゃないっていう風にも感じました。もっとも、完全に一致するなら新しいシリーズに手を出す必要はないわけですが。
うーんと、文句をつけたいところはいろいろあって。
文章がどうもぶつ切れに感じるとか。
衒学的なところも、ミステリ的なところも、説明が単なる情報提示っぽくなってしまっているとか。しかも衒学的といいつつ、Wikipediaレベルではと感じちゃうとか。
キャラの印象が安定しないとか。
平賀が天才科学者だけれども日常生活には疎いというのも、調査をしている最中は日常じゃないからかもしれないけれどもあまり感じなかったですし。
ロベルトが、古書と暗号解読のプロっていう割にはルーン文字のアルファベット置換も知らなくて、ワトソン役にしてもあまりにポンコツじゃない?って思いました。
二人の関係性的なものも、プロローグでしか感じられず拍子抜けした。
それでも、嫌いとか苦手ではなくて、引っかかるところはありつつも、続編も読んでみたいとは思っています。
基本的には私、こういう神秘的な現象と思われたものが合理的に説明できるタイプのミステリは好きなんですよね。
それから、陰謀論めいたものも。
キリスト教やカルトやナチスよりは、日本の神信仰なんかの方が興味を惹かれる分野なので、朱雀十五シリーズの方も読んでみたいです。
情報提示の仕方は本当にただの情報って感じで、小説に落とし込めてない印象でしたが、それらの情報をこうやって繋げるのか、というところはおもしろかったです。
だからこそなおさら、あそこまで冗長な説明いらなかったのではって思ってしまうけど。
なんていうか、かぎかっこでくくられた台詞なのに会話じゃなくて説明文、Wikipediaの朗読、って感じがしたんですよね。
セバスチャンの一人称の部分が、話が進むにつれて学園の在り方に染まっていくところがぞっとしました。彼の場合は信仰するようになったものは、キリスト教であり、洗脳されていたのだからあれでもあったのだけれども、その基盤はマリオ・ロッテという同級生だったというのがすごく良いですよね。生徒会長で寮長でホワイト・プリンスというあだ名を持つ、というのは設定盛りすぎって気もしますけれども(笑)
同年代の同性ばかり集められた全寮制の学校では、そういうかたちでの崇拝は起こりうる、と私は夢見ているし。
それから、同じ信仰に見えても、そのかたちや内面は一人ひとり違うっていうのがすごく納得できるエピソードになっていて。
だからこそ、手記に書かれていた異常な信仰の形態も、ひとつのかたちとしてすんなり認められたのかもしれない。その善悪は別として。
でも結局、洗脳にしてもコールって何とか、ウイザードマスターとウィジャ盤は学園において何の意味を持っていたのか(物語上で暗号解読の鍵というだけ?)すっきりしないところも残る。
プロローグの2節は何だったんだろうとか。
あっ、というか、有耶無耶になったけれども結局なんで犯人が殺人を犯してたのか分からないんだけど。
最初の三人は姦通の罪でいいのかしら。他の人は、ヨハネス学院長が殺されたのと同じ理由?
殺人の理由も分からないし、殉教者に見立てていた理由も特に説明されてなかったような気がします。
マリオ・ロッテが傷つけられた意味もよく分からないし。
狂人の論理ならなおさら、その論理を提示してほしかったです。ただ「彼は狂っているから」だけじゃ納得できないめんどくさい読者なんです、私。
復活が目的なら、殺人その他は必要なかったのでは。見せしめー?
読んだ直後は、立ち回りやらいろんな事実が判明したことで気にならなかったことが、冷静になって思い返そうとするとよく分からなくなってきます。
ラストシーンも、え、それでいいの?って思いました。無宗教の立場からすると、カソリック側もそんなに変わらないんじゃないのって感じてしまう。
ところであのシーンで、これ実は聖水じゃなくて王水じゃないかって思ってたら当たらずとも遠からずでちょっと笑った。
感想が文句ばっかりになってしまったけれども、それなりに楽しんで読めたんですよ。本当に。
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