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2024/05/20 (Mon)

『図書館の魔女』

おもしろかったし、とても興味深くもあったのだけれども、そう言い切るには長すぎた!
あと、主にこの世界何なのってところにとてももやもやしました。……それについては後述。

こういう物語は確かにほかに類を見ないですね。
ファンタジーと謳っているけれども、剣や魔法や冒険が殊更に強調されるわけではなく。
推論や謎解きめいたことは行われるけれども、それは主眼ではなく。
言語学、地政学、文献学、それからもちろん図書館学に関する確かな知識に基づいて書かれている。ボーイミーツガールであり、権謀術数と陰謀の物語でもあり。


まずは好きなところから。
特に好きなシーンが三つあります。
あ、順番はページ順で特に意味はないです。

一つ目は、第二部で「こんなに嵐がひどくなると知りたらましかば……」という一言の会話から、マツリカが推測をめぐらし、陰謀を暴き出すところ。
9マイルっぽいですし、ここが一番ミステリー的でおもしろかったです。
マツリカのような、ばらばらの知識を繋ぎ合わせてひとつの絵を描くタイプの謎解き(といってもいいのだろうか)はあまり読んだことない気がします。
私は大学で日本史やってたからその手法が歴史学っぽいと思うけど、作者は言語学者だしほかの文系学問もそうなのかもしれない。
この「知りたらましかば」というフレーズから演繹していく推測それ自体は、特に後半言語学の難しそうなことを言い出したあたりからよくわからなくなって読み飛ばし気味だったのですが……。そもそもそういう言語があるかどうか自体が物語中の拵えごとなので自作自演感もあった。
この台詞と話者の恰好や状況から結論を導き出すこと自体がわくわくしました。

二つ目に好きなシーンは、第四部の三国会談。
全体的にこれまでにやってきたことが実を結んでいる感じがして好き。
何が良いって、数字をあげて理論的に正しく説明していても、結局相手国の人々の心の扉をこじ開けたのは、キリンの人柄というか「私が説得します」の一言だったということ。
理に拠りすぎているマツリカの危うさがしばしば言及されていたので、それが後々響くのかなーと思っていたらそうでもなかったわけですが、ともかくここのキリンはマツリカとは好対照で良かったです。
結局人が動くのは感情なんだと私は思うから。
マツリカならそれすら見越して説得役をキリンにしていたのだろうけれども。
それから、突然のトラブルに工夫するマツリカとキリヒトと衛兵たちと、それすらも見破っていたコダーイの慧眼。
「水槌を動かすときは、彼も連れて行かなくてはいけないのかね?」的な台詞にはちょっと笑った。
物語の効果的にもここでコダーイも智将だと示すことで後々につながるんだな、っていうのもわかるけれども、普通に読んでてどきどきして楽しかったです。
さらに見破られてなお、交渉の道具にしてしまうマツリカのはったりも、知恵比べの趣があってよかった。

三つ目は、最後の戦いのあとで言語が通じなくても言葉が通じたところです。
ひたすら熱かった。
言葉とは何か、という話を最初からしていたのが、こういうかたちで示されるのか。
言語ではなく、声でもなく、伝えようとするところに言葉はある。
伝えたいことがあるから、言葉は伝わる。
言葉を弄して長大な物語を書いているけれども、この物語の最も核になるところのひとつがこのシーンだったのではないかと思います。

なんていうか読む前や序盤で想像していたよりもずっとキャラクターを好きになれた小説でした。
テンプレ的ではないけれども、だからこそ一人ひとりに血肉がある感じ。
といいつつ、マツリカだけは過去が見えないけれども。
主役格のマツリカとキリヒト、ハルカゼとキリンはもちろん、ほかのキャラクターも魅力的で、彼らの物語のこれからを知りたいです。
衛兵の人たちも好きで、最初は五人の違いも分からなかったけれども、それぞれの図書館との関わり方の違いから区別が明確になっていった。本が好きな人ばかりではないところもリアルな気がしてよかったです。
イズミルが裁たれていない折本を見つけたシーンは、なんとなくランガナタンの「すべての人にその人の本を」「すべての本にその読者を」という法則を思い出しました。

ところでイラムは最初気のいいそそっかしい小母さんだと思っていたので、あとでアキームが……ってなったときに戸惑いました。登場シーン読み返したら年恰好は特に書いてなかった。なんで思い込んでいたんだろう。

キリヒトの師匠の年齢が謎っぽい話は、特に回収されてないですよね?
続編で明かされるのかしら……。


一方で、あまり好きではないところ。
まず、地の文。
ものの動きや構造についての説明がかなりわかりにくかったです。これは私の理解力の問題もあるかもしれませんが。
水槌の説明も、断面図まであるのに何が何やらよく分からなかった。
アクションシーンも誰が何をしたかはよく分からないけど、キリヒトすごーい、みたいな。

地名とかも冒頭に地図があるわりには、軍略を話しているときに「半島」って言ってたけどそれはどこの半島なの?みたいなことが何度もありました……。

ものの動きとか場所とか構造とか、そういうところは読み飛ばしてしまってもそんなに問題ないかなと思っているのでいいんだけど、これだけ文章量あってこんなにわかりにくいのかとは思った。

そして、地の文の話者がいったいどういう立ち位置なのかってのもとても気になった。
これは完全に私の趣味の問題だと思うんですけど。地の文は何目線かっていうところに興味がある。そこに物語上意味があればとても良いし、ないのならどちらかというとフラットであってほしい。
『図書館の魔女』は語り口が講談っぽいかなとは思いました。一文の長さや句読点の使い方が古典っぽいのと、時折机を叩いて煽る感じ。
ただ、煽りすぎというか……たとえば人形芝居を観たシーンで「キリヒトが見ていれば」みたいな文がやたら多かったのとかが正直うざかったです。それは分かってるから、早く物語を先に進めて!って思った。
語り手が結構でばっているわりには、その視点がどこにあるのか何者かが特に明かされず、というか作者の埒外なのかもしれないけど、私の趣味からは微妙でした。

あとこの作品で一番気持ち悪かったのが、世界観の中途半端さ。
最初、異世界ファンタジーだと思って読み始めたんですよ。でも、第3部の文献学講義を読んで、はぁ!?ってなった。
言語名(ラテイナとかグラエカとか)はまだ現実のものをモデルにして書いて、その言葉によって翻訳しているものと納得できるんですけど。
どうして、プトレマイオスとかアナトリアとかそういう固有名詞が出てくるの。その後も文殊菩薩とかミノタウロスが出てくるし。
そういう固有名詞は、この現実世界にある固有の人やものと結びついていると思うので、それが異世界で出てくるのには違和感がある。……ファンタジー警察的なものに誤解されても嫌だから釈明すると、異世界人がパン食べようがじゃがいも食べようが、似たものを読者の分かりよく「パン」とか「じゃがいも」に訳しているんだと考えるので普通名詞ならよほどでなければ気にしないんだけど。むしろたとえば「ターキッシュディライト」より「プリン」の方が魅力が読者に伝わるのならその方がいいじゃんって思っている。でもメロスが「名無三」って言うのは世界観を壊す気がして嫌だ、みたいな感じです。
閑話休題。
でも「図書館の魔女」の物語は、それらの固有名詞があるからといって現実世界の過去に(あるいは遠い未来に)どこかで起きていたこと、と思うにしては世界観が固有すぎてどうにも納得できない。だってこの世界に「高い塔」なんてないじゃん、って思っちゃう。遠い未来ならありえなくないけど、その場合、21世紀の記録はどういうことになっているのとも思うし。
っていうか、一ノ谷とニザマは作中の移動時間からいっても距離がそんなに離れてないのに文化違いすぎない? アルデシュはまだ山深いからで納得できなくもないが。
ひとつの国の中での歴史や文化の説明は納得できるのだけれど、それらの国々が近い距離で隣り合っていることには作者の見えざる力を感じて。たとえば『十二国記』みたいに最初から完全に人工的に作られた世界ならいいんだけど、世界の中での自然の理と作者の都合が中途半端に混じっていてどうにも気持ち悪かった。

そして、「図書館の魔女」は魔女という名前でありながら魔術を否定しているというところがおもしろさのひとつだと思うんだけど、じゃあ高い塔では階段が一方通行だとか、最初にキリヒトが来た時に名前が書いてあった云々は何だったの。
なんでそれが彼女の中では同居しているんだ……。

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