実は……っていうのもあれだけれども、御手洗シリーズは有名な長編を何作か読んだだけで、短篇集を読むのはこれが初めてでした。
今まで読んだことのある長編作品は、事件の謎も魅力的だし、真相もなんていうかぶっ飛んでて、すごくおもしろかった。
それに比べるとこの短篇集に乗っている短篇は、数段おもしろさが落ちるかなぁというのが正直な感想でした。
とはいえ、「すごくおもしろい」から「普通」くらいですが。
短篇だから、奇想がそこまで発揮されていないのも若干残念だったんですけど、推理小説としてはそれよりも、御手洗の思考過程が全然追えないのがもやもやした。
たとえば些細なように思える依頼の、どこで深刻な事件と判断したのか。
何が糸口になったのか。
どういう経緯で事件を追っていったのか。
そういうのが特に説明されないから、起こっていたことの説明はあってもどうにもすっきりしない。
5つの短篇があるうちの4つで御手洗は単独行動してたから、余計にそういう印象が強くなったのかもしれませんが。
石岡和己が助手の立場から書いた物語だから、あるいは過程を隠すことで御手洗の天才性を強調できるから、そうなるのかなとも思うんだけど。
まぁ、これは好みの問題ですね、きっと。
石岡和己が助手の立場から御手洗の活躍を書いた物語っていうのは徹底していて、なんだか嬉しかった。
地の文の立場がはっきりしていて、意味がある小説が好きなんです。
とはいえ、なかなか続きを出せない言い訳っぽいのが多くてどうなのとも思ったけど。
少し意外だったのは、石岡君が思ったよりも御手洗に対して皮肉っぽい描写をしてるところ。
それがホームズ・ワトソンの関係性よりもどちらかというと、ポアロ・ヘイスティングスの関係っぽい気がしました。
べつに、御手洗はカボチャ投げてそうって意味じゃなくて(笑)
探偵の仕方はホームズ的だと思うので、あくまで探偵と助手の関係性の話です。が、語れるほどにはどれも読んでいないので、あくまでも印象論。
ワトソンはホームズに対して心酔していて、憧れているようなところがあると思う。
一方でヘイスティングス大尉は、けっこうポアロに批判的な描写も多いし、自分の考えを述べるのもポアロに勝てると思ってるからな気がしたんですよね。絶対ではなく、対等な感じ。
で、石岡君もそんな感じなんだなって思いました。
ただ、読者としては御手洗は名探偵だと思っているから、何か考えがあって行動するのだろうと想定するのに、石岡君がその行動にやたら突っ込みを入れているのが、必要以上に馬鹿な印象を受けました。
そんな感じで、言うほどには御手洗も石岡君も人間的魅力(?)が感じられなかったです。
あとがき読む限りでは、その辺にスポットを当てた編み方してるっぽいんですけど。
でも「SIVAD SELIM」は良かった。
御手洗シリーズがキャラクター人気というかカップリング人気というかが強いということはまぁ知っていますが、この短篇集ではいまいち萌えどころがわからなかったので、ほかも読んでみたい。
あとは、物語の舞台が東京のものが多くて、ぼんやりとは位置関係を把握できるようになっていたので、なるほどあの辺りかって思いながら読めてよかった。
聖地巡礼とかやりがいがありそうですね。
各短編の感想はつづきから。
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つづきはこちら
「数字錠」
アリバイトリックはおもしろかった。
けど、序盤の御手洗のあの嘘が、なんでわざわざあんな明らかな嘘ついたのかも、なんで皆それで騙されるかも意味わからなくて、引っかかる。いや、理由は一応説明されてたけど納得できない。なんで騙せると思ったの。
そこにずっともやもやしていたので、後半の御手洗の人情味とかも一歩引いて見てしまって、あまり楽しめなかった。
シリーズファン的には、「私立探偵 御手洗潔」の始まりの話として感慨深い短篇なのかもしれないですけど、まだそこまでではないので……。
「ギリシャの犬」
たこ焼き屋盗難事件と、誘拐が結びつくところがおもしろかった。
隅田川舟遊も、シチュエーションはあれだけれどもなんとなくほのぼのして、読んでいて楽しい。
石岡君はもっと御手洗を信用したほうがいいと思う。少なくとも言われたことはやっとけってキリキリした。
「山高帽のイカロス」
この短篇集では唯一の、私の思っていた島田荘司らしい事件。
山高帽に燕尾服を身に着けて空を飛べると主張する奇矯な画家が、空を飛んでるかのような格好で死んでいるのが発見された。ってこれだけですごくわくわくする。
ビルの上階にある扉の話とかも楽しかった。
「IgE」
姿を消した美女と、頻繁に壊されるレストランの男児用便器。
2つの全く別々の依頼が、ひとつの事件に収束していく。のはいいんだけど、やっぱり御手洗はどこでその繋がりに気づいたのか気になる。
ラストに出てくる意味ありげな女性との会話は何だったのか。ほかのシリーズ作品読んでたらわかるの?
「SIVAD SELIM」
高校生からクリスマスに行う手作りコンサートへの出演を依頼されるが、御手洗はその日だけは駄目だと言って断る。
事件が全く起こらないのだけれども、この話は好きでした。
石岡君は安請け合いしすぎとか、先約って言ってるじゃんとか、そこまで喧嘩することでもないよね?っていう気はなんとなくするものの。
開会の挨拶を頼まれて狼狽するところや、そもそも高校生の熱意に感動したり、御手洗を口説けなくて謝ったり、英語が喋れなくてへどもどしてたり、そういうところに親近感を感じて良かった。たぶんここでようやく、彼のキャラクターを(あるいは人間味を)感じられたように思う。
そして颯爽と現れる御手洗がかっこいい。
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