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2024/04/24 (Wed)

『ラギッド・ガール』

『グラン・ヴァカンス』の続編にあたる短編集。
時系列的には1作目よりも過去の話で、数値海岸を作った人間側の話とか、硝視体とは何かとか、ランゴーニはどこからきたかとか、前作で謎だったことが明かされた。
とはいえ「天使」が何者なのかは判明せず、これ本当に三部作で終わるのかなっていうか三作目はいつ出るんだろう……?

数値海岸の外側の話とかもあったので、1巻目よりSFぽさが増した感じでした。
視床カードとか官能素とかコグニトームとか、いまいち具体的なイメージをしにくく、わかったようなわからないような……。
AIが人間っぽすぎて、ともすればそれが計算によるものだということを忘れてしまうくらいなので、わからなくても楽しく読めてしまうんだけれども。

そう、あまりに人間と変わらないので、AIの人権を守ろうとする運動が人間たちによってで行われていたというのがおもしろい。
けれどもその人権を守ろうとする活動の結果が、AI自身の望みとは異なるものになったのが、なんていうか現実世界でもそうなりがちであるという風刺なのかなと思いました。
AIは生まれてしまった時点でそういうものとしてプログラムされているのだから、後からどうこうしようとしたって良い方向には向かわないんですよね。

『グラン・ヴァカンス』の夏の区界とも共通する嗜虐性が全編にわたってまぶされていた雰囲気でしたが、それがいったいどういう意味をもってくるのか。
人は人やAIに対して残酷になれるということ。仮面の下に嗜虐性を隠し持っているということ。
それを、これでもかというくらい突き付けられて少し胸焼けがしたくらい。
『グラン・ヴァカンス』のほうが微に入り細を穿つ苦痛の描写で、今作は短編なこともあってそこまでではなかったんだけど。
なんでこの物語の世界はこうなんだろうというのが疑問です。
「天使」の存在と関わってくるのだろうか。

それぞれの短編が少しずつ関連していて、たとえばある短編で少し語られた技術や概念が他の短編で使われているのがおもしろかったです。
前作でも思ったけど、伏線回収とはまた違って設定を使い倒す感じがわりと好き。


各話感想。
「夏の硝視体」
人がこなくなってから300年経った(つまり、『グラン・ヴァカンス』の700年前の)〈夏の区界〉でのジュリーとジョゼの話。
『グラン・ヴァカンス』でも少し書かれていたことの変奏曲。
ジュリーとジョゼの仲が近づいたのが、ゲストがこなくなってからだということが少し意外でした。いや、くっつかないように設定されていたのだからおかしくはないのだけれども。
そうか、AIでも同じ毎日を過ごすわけではなくて、少しずつ関係性とかも変わっていくんだなということに改めて気づきを得た。
コットン・テイルはそういうことだったのか。

「ラギッド・ガール」
〈数値海岸〉を作るための技術を開発した人々の話。
多重現実が一般化した世界の描写は、近未来を描いている感じで少しわくわくした。
情報的似姿という概念は、たしかにそれなら今の技術の延長で仮想空間にいけそうという絶妙なラインの気がする。
阿形渓もアンナも、なんていうかなかなかキャラが濃い感じの人だったけれども、やっぱり性格の凶悪さというか被虐性は〈夏の区界〉に通じるところがある気がして、そのシステムを作った人として納得できるものがあった。
似姿の話が出てきていたので、叙述トリックじゃないけれどもどこかで現実が入れ替わっている可能性もあるなと思って読んでいた。
最後、真相?が明かされても、何が起こっていたか、どういうことだったのか理解できていないのはSF的な素養がないからだろうか。
『グラン・ヴァカンス』を読んで感じたことそのものが登場人物の口から語られていたのが印象的。
「小説の酷い場面に眉をひそめている私たちこそが、ほんとの実行犯なのよ」
この台詞を語った人物がやったことを考えると、この言葉で表されている感情が、私が『グラン・ヴァカンス』を読んで感じたことと近いとはあまり思えないけれども。
前作解説でも引用されていたけれども、この台詞はまさに『虚無への供物』ですよね。
実行犯であるということは物語に関与できているということでもある。と示唆されていて、うまく咀嚼できないんだけれども引っかかったのでメモし。

「クローゼット」
「ラギッド・ガール」の後日譚にあたる話。〈数値海岸〉がサービスを開始して5年、区界製作のためのツールやパーツを製作する会社で働く女性が、「AIに恐怖をもたらす方法」を作ろうとする。
タイルをはがすコートの女、由来はそこだったのか。
コンペで落ちたのにジョゼのトラウマとして、区界を運営する根幹として採用されているってのは無断使用……いや、陳腐といわれるまでに膾炙しているなら不思議ではないか。
でも恐怖の核を区界自体に埋め込むというアイディアも、鉱泉ホテルの歴史として使われているよね? やっぱりそのコンペかなりあれなのでは。
一万2千以上も区界があるのか。そこに生きるAIはいったい何億人になるのだろう。
あとはそういう自殺の仕方があるんだってのはおもしろい。この世界観ならではの死に方。
アンナは純粋に怖かったです。
このときガウリが作っていた、中に図書館がある蜘蛛、それをアレンジしたものがランゴーニがもらった蜘蛛なのだろうか。いや、その想像は単純すぎるか。

「魔述師」
区界を行き来する〈鯨〉を育成する区界、ズナームカ。ゲストとして訪れたレオーシュは〈魔述師〉と出会う。
一方、現実世界では、AIの人権保護活動を行っているダークに、初めて公式なインタビューを行っていた。
そして、〈大途絶〉は何故おきたのか。
正直、そんなことで、と思った。
でも〈数値海岸〉は人の住むところとかではなく単なる娯楽のためのリゾートなので、そんなことで大打撃を受けうるのかという納得もある。
〈夏の区界〉に人が来なくなったのは数値海岸の他の区界より少し早かったんじゃないか、と考えている。だっていかにもAIの人権を侵害するために作られた区界だし。
上にも書いたけど、でもその人権を守る活動の結果、AIたちは苦しんでいるんだということを声を大にしてそれを主導した人たちに言いたいです。
それから、この短編ではなんとなくこのシリーズの展開において重要になってきそうなことがいくつももありましたね。
コペツキのところで見聞きしたことは全部重要そう。
中でも特筆すべきは、ジュリー(だよね)のコピーが別の区界にもいるってことで、他の区界に旅立ったジュールが出会うことがあるかもしれない。
コペツキが彼女を使ってやっていたことが、どう関係しているのかがよくわからないのですが。それがダークたちがやったことを実現させたのか?
鳴き砂の浜が人の成れの果てだったから、それが行き着く〈夏の区界〉にランゴーニは侵攻してきたのかな。
あと、区界のキャラクタの内部に人が入っているものがあるというのも、後々効いてきそうな感じ。とはいえ、それこそ人権侵害ではって感じもする。

「蜘蛛の王」
ランゴーニの過去が語られる話。
彼がなぜ蜘蛛を操ることができるのか、4人に分裂(?)していたことも、そもそも他の区界に移動することも、説明された。
他の短編でも語られていた〈汎用樹の区界〉で、蜘蛛衆の王ランゴーニのもとから逃げ出した蜘蛛を追い、闘いが繰り広げられる。
今までの短編とは打って変わって、アクション要素の強い話でした。
この区界の在り方が純粋に興味深い。すごく大きな木の枝の上に藩国があって、地面は一面の麦畑で、そこを鯨が泳いでいるってそれだけでわくわくしませんか。
汎用樹から生まれてくる子供たち(したがって父親はいない)、ゲストが蜘蛛衆の父親となることも興味深い。表面的なポリティカルコレクトネスも。
ランゴーニの父親は、今まで読んだ話に出てきた人なのだろうか。
ウーゴはコペツキのところにいた人だよね、彼が何者なのかも謎。
〈非の鳥〉がダキラかと思ったが、それとは別で、たぶん〈非の鳥〉が〈天使〉なんですね。
あと『グラン・ヴァカンス』でジョゼが見せられていた鯨も、この個体なのかな。
ダキラと天使は何か関係があるものなのだろうか。

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