まず、言っていい?
特に新入社員であるアルトが洗脳されていくさまと、後半の「汚染」対策の描写で、柳広司の『象は忘れない』の黒塚の話思い出したんですよね。
というわけで。三崎亜記、社会問題とかにファンタジーの皮をかぶせて書くの好きだし。
これって、原発の話なんじゃないのかなーと思ったり。
「P1」自体がそうなんじゃなくて(国民の生活に欠かせないとか、目に見えないとか、それこそ「汚染」とか、想像させるつくりではあると思うけど)、少なくともその辺のやつから着想を得て書いた話なんじゃないかと、想像しています。
「P1」とは何かというと、
まぁあの作ってた工業製品は本質じゃないということはわかっているわけで。でもだからといって回転で電気を生み出しているとかそんなアホなことはないだろう。
最後まで、読者にはわからないままの何物かを作り続けている話かと思っていたので(三崎亜記の世界にありがちな謎職業みたいな感じをイメージしてた)、結末はちょっと想像とは違ってて、そうくるかって感じだった。
浪野さんの想像は、それ自体が正しい答えではないんだと思う。けど、そういう方向の何かなのだろうな。何か、こういう話をどこかで読んだことがあるのだけれどなんだっただろう。働かせること自体が目的というか、穴を掘って埋める仕事というか。
それはそれですごくディストピアっぽいよね。
「P1製作」の目的以外にも想像の余地の多いラストで、えっと……どういうことなの?みたいに問いかけたい気分です。
敵は誰なのかとか、目的はとか、「4勇士」はどうなったんだろうとか。
たぶんこれは読み込んで考察したからといって答えが出る類の謎ではなくて、各々の読者の思想に従って想像しうるものなのだと思う。
私にとっては、ディストピアを暴いたはずなのに、何の正解にも辿り着けず、待っていたのはさらなるディストピア――って感じの読後感でした。まさにマトリョーシカ。
語り手を務めたそれぞれのキャラクターには、生きて、ME創研と関係ないところで幸せになっているか、その上で姿の見えない敵と闘い続けていてほしいと思っています。
ディストピア物で私がこわいと思うのって、独裁的な支配者や管理体制そのものよりも、(洗脳されて)意識的にも無意識的にも相互監視し合う空気なんだろう。それこそがディストピアなのかもしれない。定義があまりよくわかってないので。
だからこそ、違和感を覚えない第一章のアルトや、再び町に適応していく第五章の遠山さんの語りがこわかった。町の規範を自分のものとして、かつそれを自己流に解釈している日比野さんに対するこわさはたぶんちょっと違うものだと思う。瀬山さんは何考えてるかわからないけど、味方だろうと思って読んでた。
だから、最後に浪野さんの意見が握りつぶされるところは彼女の将来に不安を抱きつつも、そんなにこわくはない。
ところで、明らかな洗脳に違和感を覚えない理由づけとして、アルトの前職はブラック企業だったんだろうな。異常な環境に身を置いていると、ちがったかたちの異常がわからなくなるから。
とはいえ、「ブラック企業」とか「毒親」とか「ドローン」とか、流行の言葉を使ってみました感をなんとなく感じて苦笑い。あと別に毒親ではないよね?いや、小説上に現れる一部しかわからないけど、単なる視野の狭い反抗期としか。
三崎亜記ファンとしては、これも「町」の話なんだなっていう月並みな感想。
彼が書く、どこにでもある地方の町だけど、よく見るとどこかおかしい町(「都市」ではなく「町」だと思う。サイズ感と、自治体という側面が強いから)が好きです。
あと、この話でもよく出てくる「覆面」というキーワードも三崎亜記でよく出てくるものですよね。個を消すための覆面、そして、「何かの役割を演じる」ための覆面。
坂木司の某短編みたいに、演じていることを自覚しているのならともかく、人格がある個人として行動していると思っていたら利用されていたというのは、なんともおそろしい。
作中に出てくる、覆面の独裁者の漫画、なんとなく脳内イメージはともだち@20世紀少年でした。筋書きはたしか全然違ったと思うので、イメージ的なあれです。
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