先月読んだ、プロイスラーのリューベツァール物語集を翻訳したドイツ文学研究者による、山の伝説に関する本。論文なのかな、一応?
もちろん山の妖怪としてリューベツァールにも言及してます。2章くらい割かれてました。
ただ、私に近世ドイツや西洋思想に関する素養がなかったせいで、すごく読みにくかった。基礎教養って大事ですね。もっと勉強しなきゃ。
……大学生のときに読んでたら、もうちょっと関連文献もたどりやすかったのに。という後悔もある。
研究史をまとめている部分はそれでもまだ理解できたというか、そういうものなのかと興味深く受け取れました。
たとえばドイツ民俗学では、習俗や伝説のゲルマン古代との接続はナチズムに利用された過去があるから、慎重さが求められているのとか、言われればそうだけれどもあんまり考慮したことがなかった。
一方で、この本でのこの著者の主張というか結論が何なのかわからなかった。何なのかわからなかったというのは、結論として書いてあったことの意味が理解できなかったということではなく、どこに著者の主張にあたることが書いてあったのかわからなかったという意味です。特に第一部の第二章と第三章!あれは近世ドイツの鉱山世界はそういう観念の場所だったよ、っていうだけなのかしら。
私が不勉強で読解力がないのが悪いんですが。
研究史のまとめではなくて自分の主張になると筆が乗って文章がふわっとするから、オブラートの中にある核の部分がわからなかったのかもしれないというのも若干思ってしまいます……。
この辺で結論っぽいこと言うのかなってときに日本の文学作品とかを例示するのが本当に意味が分からなかったんです。え、それって関係あるの?って思った。
それとも、この本に載っている文章は研究史のまとめと紹介が目的だったのかなぁ。
ちょっと調べてみたら、初出の『希土』って雑誌は論文もそれ以外も載るものらしいから、やっぱり紹介って面も強いのかも。
単純に、この著者の方(でなくてもいいんだけど)がプレトーリウスのリューベツァール物語集を翻訳してくれないかしら。
っていうかむしろ、シレジア側での伝承を読みたいんだけど。ドイツ文学の範囲外になるとはいえ特に言及されてなかったし、日本語でとなるとますます難しいのかしら。
グリムの伝説集ならまだ手軽に読めるかな。リューベツァールは載ってないらしいけども。
この前のプロイスラーの物語集では軽く読み流してしまっていたけれども、この本ではリューベツァールが医薬に通じた性格を持つということがクローズアップされていたんですね。
リューベツァールが住処としていた山リーゼンゲビルゲでは、稀少な薬草類が群生していて、それを使った薬の製造販売業が栄えていた。その薬は「17世紀のライプツィヒで大市(メッセ)まで運ばれ、そこで商いをする小店には、宣伝広告としてリューベツァールの絵が飾られたという」(p289)
リューベツァールはライプツィヒで「民間の医術者たちの『守護霊、家精(spiritus familiaris)もしくはなじみの偶像神として』あがめられている」(p300)
とまあ、引用の引用になるんですが、これってすごくないですか?
というのはもちろん、リベザルがリューベツァールだとして、という前提で。ルーツとしてもともと薬師の性格を持ってたって、すごくテンション上がる。
きっとそういう性格の妖怪だから採用されたんだろうということなんだけれども。
あとおもしろかったのは、ホレさまの章で紹介されていた、デュメジルの「三機能構造」。インド・ヨーロッパ語族には「聖性と主権性/戦闘性/豊饒性から成る三幅対」が神話や社会構造などあらゆるところに存在するという説。
思ったのは、その三権分立ってインド・ヨーロッパ語族に限らないのではっていうことなんですけど。
アマテラス/スサノオ/ツクヨミの三貴子もそのパターンに当てはまるのでは。それぞれ主権/戦闘/豊饒っぽい。
ほかの要素もあるし、なんていうかその性格付けがインド・ヨーロッパ語圏から移入したことも考えられるから日本人にも三機能構造が当てはまるってことはないと思いますが。
三柱の神のセットでも、造化三神とかニニギの子供たちは三機能構造よりもむしろ河合速雄の中空構造の方がすんなりと当てはまる気がしますし。
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