こういう話が好きなんです。
書いた内容じゃなくて書こうとしたことが。
注釈をつけないと分からないような話になってしまいました。
しかも三題もらってから時間経ってるし。
[0回]
つづきはこちら
「嘘……だよな?」
尋ねる彼の語尾が震えている。
けれど、気づかなかった振りで冷たく返した。
「嘘じゃないよ。…残念ながら、ね」
「嘘だって言ってくれよ、頼むから……!」
哀しい叫びが宙に反響した。
体重をかけると、音を立てて手摺りが軋んだ。
この街で最も高いビルの屋上に彼らはいる。
「なぁ、この景色綺麗だろ?」
聞こえない返事を待たずに言葉を続ける。
「よく目に焼き付けておけよ。これが最後に見る景色なんだから」
そんな言葉を投げかけられても、彼は何も言わなかった。否、彼は口を開くことはできない。――おそらく、もう二度と。
そんな彼に語りかけた。
「どんな気分だ?信じてた人間に裏切られるってのは」
……裏切られた、と思っているのだろう。
たとえこっちにはそのつもりがなかったとしても。
自分は最初からこの状況を視界に入れて彼に近づいた。だから、自分にとっては全て予定調和に含まれていることだ。
今までの経験からそれは分かりきっている。
はじめて試みたのが5年前。
それ以来何度かやろうとして、その度に失敗してきた。
今度こそ、との願いを込めて今回もこの場所に来た。
これからを思えばこれまでの煩雑な経過――人目につかないように行動したり、睡眠薬を飲ませて彼を眠らせたり、眠ったままの彼を抱えて深夜のビルに侵入したりといったことも気にならない。
脳裏に描くのは甘美な妄想。
誰にも邪魔されない楽園。
ふたりきりの世界。
目を開けないままの彼にくちづけた。
――愛してる。
この想いを教えてくれた彼なら。
今度こそ、共にいくことができるかもしれない。
期待を込めて、
飛んだ。
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