『鏡』よく出てくるなぁ…。
1週間くらい思いつかないで放置してました。
ぐだぐだ…。
人称使わないでうまく伝えられるようになりたいです。
[0回]
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家に帰ると誰もいない部屋にテレビがつけっぱなしになっていた。
にぎやかな喋り声と音楽が空っぽの部屋に響いて、どこか虚しい。
たしかに家を出るときに消したはずなのに。
訝しく思いながらも、電源を切ろうとテーブルの上に置いてあったリモコンに手を伸ばした。
ふと、テレビ画面が目に入った。
そこに映し出された光景から目が離せなくなる。
それは何ということのないバラエティだった。
目をひいたのは芸能人達のどうでもいいようなトークではなく、その背景だった。セットに使われていた一枚の鏡。
はじめて見るはずのその鏡が、何故だか気になって仕方がなかった。
否。はじめてではない。
確かに自分はその鏡を見た記憶がある。
それがいつ、どこでだったかは分からないけれど、見たということだけは記憶の奥に存在していた。
行かなければ、という想いに急かされる。
行って、あの鏡に会わなければ。
その言葉が脳裏に浮かんできた後で、鏡に『会う』というのはおかしな表現だと苦笑した。
無意識のうちに手にしていた携帯でテレビ局に問い合わせの電話をかける。
あの鏡について尋ねると、番組がそれを借りた店を教えてくれた。
担当者の丁寧な対応に心がほわりと和む。
電話で聞いた住所に足を進めた。
電車とバスを乗り継いで辿り着いたのはコンクリート7階建てのビルだった。
躊躇わず硝子扉を開いて中に入っていく。
あの鏡を見たいということを伝えると、エレベーターに乗って最上階まで案内された。
そのビルの7階には何もなかった。
エレベーターから降りて、どの方位を見てもだだっ広いコンクリートの壁があるだけだった。
探していたあの鏡は、エレベーター乗り場の後ろ側にあった。
間近で見るとテレビ画面を通して見たとき以上に魅了される。
縁の意匠には優れているけれど、特別美しいというわけではない。美術的な価値などを言われてもわからない。
けれども何故かその鏡に魅了されてやまない。
鏡面に映った自分の姿にではなく鏡そのものに見惚れるというのは初めて聞く話だ。
そもそも、自分がそこに映っているということを意識していなかった。
否、それ以前の問題だ。
自分の姿は本当にそこに見えていたのだろうか。
――やっと、会えた。
自分の内からか、コンクリート張りの部屋のどこかからか。あるいは鏡からか。
そんな声を聞いた。
それ以来、その鏡を見ることはなかった。
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